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31 エピローグ

 王都といえど、夜は暗い。

 これが地球の都市なら電気の光で満ちあふれ、昼間と大差ないような明るさだ。

 しかし、ここは地球ではない。

 地上から光が消えている。

 だからこそ、自宅のベランダでくつろぐ俺とハルカの頭上には、雄大な天の川が輝いていた。


「綺麗ね、ツカサ」


「何だ? お前のほうが綺麗だよ、とか言えばいいのか?」


「バカね。純粋に星空が綺麗だって言ってるのよ」


「そうか。確かに、この世界の星空は何度見ても飽きないよなぁ」


 ベランダの椅子に腰掛け、俺たちはともに空を見上げる。

 そしてテーブルの上には三本の一升瓶。三種の楽桜。

 まずは、純米大吟醸『楽桜』雫搾り。

 同時に造った、純米酒『楽桜』。

 昨年造った酒を一年間熟成させた、古酒『楽桜』。


 更に、街で買ってきた何種類かのチーズ。あとハルカが作ってくれたタコとイカのマリネがある。

 干物と抜群の調和を見せビバラを唸らせた日本酒だが、こうしたオシャレな食べ物とも合う。

 それに加え、宝石を散りばめたような星空があり、隣には好きな女がいる。

 これ以上、世界に望むことなんてない。そう思ってしまうほど、この空間は充実していた。


 それにしても、我ながら美味い酒を造ったものだ。

 特に、純米大吟醸は一口ごとに涙が出そうだ。

 顔に近づければフルーティーな香りが優しく広がる。舌に乗せればほのかな甘みを感じ、それから程よい酸味が心地好い。飲み込んだあとも旨味が口の中に広がったままで、余韻に浸れる。実に力強い酒だ。しかしクドいとは感じない。


 純米酒は新酒らしいフレッシュな味わいだ。純米大吟醸に比べると物足りないが、秋頃まで熟成させると、もう一段美味くなるはず。


 そして古酒。

 色は透明ではなく、薄く琥珀色になっている。去年まではふんわり広がっていく香りだったのに、今はどっしりとした重厚さを感じさせる。口に入れればトロリとした舌触り。まるでキャラメルを食べているかのような、濃厚な甘さがあった。

 スッキリした味わいとは言いがたい。万人受けはしない。だが骨太だ。個性がある。


「ふぁ……全部美味しい……しゅごい……」


「おいハルカ。語彙力が落ちてるぞ。蔵主の妻なんだから、もう少しプロっぽいこと言えよ」


「なによ、いいじゃない。かたっ苦しいわね。美味しいものは美味しいでいいじゃない。品評会じゃないんだから」


「ま、確かにな」


 俺はハルカの言い分の正しさを認め、素直に降参する。

 飲んだ。食べた。美味しかった。

 楽しむためなら、それ以上の理屈はいらない。

 無論、酒の味を語り合う楽しさというのもあるが、この場においては無粋だろう。


「星が綺麗で、ハルカも綺麗で、酒が美味くて、料理も美味い。最高だ」


「私も、ツカサが隣にいて、美味しいお酒が飲めて……もうそれだけで幸せ」


 俺たちは星空を見上げながら、いつの間にか手を繋いでいた。

 そのとき、流れ星が空を横切る。


「ツカサ。何をお願いしたの?」


「そりゃ、もちろん。来年はもっと美味しい酒を造れますようにって」


「やっぱりね。私も同じ。けど、願ってるだけじゃ駄目よね」


「当然だ。まだまだ工夫できるところは沢山ある。そもそも俺たちは、肝心要の米の輸入をロランに頼っている。そろそろ、俺たち自身が東方に出向いて、エルフと直接交渉すべきなんじゃないか?」


「そうね。あと私は、この世界の食材をもっと知りたいわ。シーサーペントをお刺身にしたりしたけど、まだまだ地球にはない食材が沢山あるはずでしょ。それと日本酒を合わせたら、きっと想像もできない味が楽しめるわよ」


「おお、そりゃいいな! そういうのに詳しそうな奴がオールドマザーの常連にいたよな。えっと、ドラゴンで狩りする奴……」


「竜匠の人でしょ。鳥刺しの子と付き合ってるらしいじゃない。今度、色々聞いてみましょ」


 俺とハルカはいつまでも語り合っていた。

 日本酒の話だけで、何時間でもいけてしまう。

 そして話していると、俺たちにはまだまだやらなきゃいけないことが沢山あるのだと思い知らされた。


「俺たちの酒造りはまだまだこれからだ!」


「もう、なによ、その打ち切り漫画みたいな台詞。でも、そうね、まだまだこれからよ……!」


 二人で夜空に日本酒の入ったグラスをかかげ、松尾様とエレミアール様に祈った。

 どうか、この世界の皆が日本酒を好きになってくれますように、と。

これにてひとまず完結です。

ここまで読んで頂きありがとうございました。


ではよいお年を₍₍ (ง ˘ω˘ )ว ⁾⁾

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