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27 精米機完成

 商人ギルドが東方からエルフ米を仕入れる。

 俺とハルカはそれを使ってどぶろくを造る。

 どぶろくは自分たちで飲んだりオールドマザーに卸したり、そして蒸留して米焼酎にしたりする。

 その米焼酎はロランに頼んで、ドワーフの里のビバラのところまで届けてもらう。


 以前、ドワーフの里で門前払いを喰らったロランだが、米焼酎のおかげでコネを作ることに成功したらしい。

 馬車に何ダースかの米焼酎を積んで出発し、そしてドワーフの作った金属製品で荷台を一杯にして帰ってくる。

 そんなことを数ヶ月続けていた。

 この目で確かめたわけではないが、精米機の制作は順調だとロランから伝え聞いている。


 そして、秋洗いが終わった二日後、ロランが馬車に乗ってハイン村にやって来た。


「これからドワーフの里に行くのですが、一緒にどうです? そろそろ完成している頃合いですよ。完成していたら、荷台に積んで帰りましょう」


 断る理由はない。

 俺とハルカはロランに同行しドワーフの里へ向かう。

 そしてロランの言っていたとおり、精米機は完成していた。


「おう。勇者と賢者も来たか。まあ、ロランが連れてくるだろうと思っていたがな。ほら、約束のものだ。とはいえ、まだテストはしていない」


 工房で待ち構えていたビバラは、高さ三メートルくらいありそうな巨大な機械を叩いた。

 間違いなく、精米機。

 それも酒米の精米に使う縦型精米機だ。


「まだテストはしていない? どうして」


「どうしてもこうしても、お前らが人力で動かすことを前提として依頼してきたんじゃないか。いくらドワーフが人間よりたくましいからと言って、勇者や賢者と同じことができると思ってるのか?」


「……言われてみれば確かに」


 これは質問した俺がバカだった。

 ビバラが呆れ顔になるが、無理もない。


「じゃあツカサ。早速テストしてみましょうよ」


「テストしたいのはやまやまだが、肝心の米がないぞ?」


 するとロランが馬車から麻袋を持ってきた。


「ご安心ください。こんなこともあろうかと、エルフ米を少々持ってきました」


「なんと! 流石は商売人。気が利くな」


「ロランさん、ありがとう!」


「はっはっは、どういたしまして」


 俺たちに……というよりハルカに褒められてロランは気をよくする。

 ハルカに色目を使ったりしたら許さないが、このくらいは許してやろう。


 ロランが持ってきた米を、精米機の上部から流し込む。

 そして脇に付いているハンドルを回転させる。

 ハンドルは固い。

 なにせ本来は強力な電気モーターで回すべきところを人力でやっているのだから、固いに決まっている。

 しかし勇者の力は電気モーターを凌駕するのだ!


 ハンドルの力がギアを伝わって内部の軸を回す。

 その軸にはブレードが付いており、それが米を磨いていく。

 目には見えないが、フィルターによって米と糠がより分けられるはずだ。


「これ、どうやって磨いた米を出すんです?」


 俺が尋ねるとビバラが米焼酎をラッパ飲みしながら教えてくれた。


「ハンドルを止めてから、そこのシャッターを開けろ。そう、それだ」


「あ、米が出てきたわよ!」


 出口から米が吐き出された。

 短時間しか回していないので白くはなっていないが、表面に傷が付いている。

 ハルカは樽に貯まっていくそれを手ですくい上げ、嬉しそうにはしゃぐ。

 ビバラとロランも興味深げに覗き込んでいる。


「おお、ちゃんと削れてるな。俺が作ったから当然ではあるが」


「ビバラさん。前、私が持ってきたダイヤモンドはどこに使ったのですか?」


「あれは粉末にしてブレードに焼き付けたんだ。計算通りの効果だ」


「なるほど。それでダイヤモンドなら質は問わないと仰っていたんですね」


 二人は共犯者じみた口調で語り合う。

 どうやら俺たちの知らないところで、色々と創意工夫していたようだ。


「ツカサ。せっかくだからもう少し削ってみましょうよ」


「おう!」


 俺は気合いを入れてハンドルを回す。

 アクセルを床まで踏みつけたエンジンの如き大馬力だ。

 ブレードがぐるぐると周り、米を削っていく感触が手に伝わってくる。

 そして十数分後。

 再びシャッターを開けると白くなった米が現われた。


「凄い! ちょっと回しただけなのに! 精米歩合90%くらいかしら!?」


 精米歩合90%とは、米を一割磨いた状態。

 つまり、スーパーなどで売られている食用の白米と同程度の精米歩合だ。

 酒造に使うにはまだまだ磨き足りないが、短時間でここまで白くなるのは凄い。


 これなら、目標である精米歩合50%も可能だろう。


「ビバラさん……本当にありがとうございます」


「ありがとうございます!」


 俺とハルカはビバラに頭を下げた。

 流石のビバラも気をよくしたのか、それとも米焼酎で酔っ払ったのか、頬をほんのり染めた。


「よせよせ。俺はただ仕事をしただけだ。とは言っても、俺が人間の頼みを聞くなんて百年に一度あるかないかだ。心して使うんだぞ」


「「はい!」」


 無事に精米機を手に入れた俺たちは、馬車に積み込んでハイン村に帰ろうとした。

 そのとき、ロランが悲しげな呻き声を出す。


「しまった……精米機を積んだら、あとは何も積めない……」


 ロランめ。

 またドワーフの作品を買いあさるつもりだったのか。


「がはは。落ち込むなロラン。お前も人間にしては物の価値が分かる奴だ。また来るといい」


 ビバラはロランの肩を叩く。

 最初に出会った頃に比べて、随分と印象が丸くなった。

 米焼酎のなせるわざか、それともロランの人柄か。


「本当ですかビバラさん!?」


「おう。ただし、米焼酎を持ってきたらの話だ」


 米焼酎は俺たちが造らないと、もう在庫がない。


「ツカサさん、ハルカさん……お願いします!」


「気が向いたらな」


「そ、そんな……ッ!」


 ロランは情けない顔をする。

 三十代の大人とは思えない弱々しさだ。

 だがこいつの弱さは仮面だったりするから油断ならない。


「ところでビバラさん。俺が新しい日本酒を完成させたら、また飲んでください」


 俺は去り際、ビバラの目を見て言う。


「日本酒を? あれは別に飲みたくないぞ」


「ええ、前回の日本酒はそうだったかもしれません。しかし、次のは違います!」


「……この精米機を使って造る酒か……ま、完成したらとりあえず持ってこい」


「ありがとうございます……!」


 俺は深々と頭を下げた。

 もう一度、付き合ってくれるというビバラに感謝。

 そして同時に、ほくそ笑む。

 なぜなら、次こそは勝てるという自信があるのだ。

 否、勝たねばならない。


 帰りの馬車。俺はハルカとイチャイチャすることすら忘れ、50%まで磨いた米で造る酒に想いをつのらせた。


 ロランはその間、「米焼酎、米焼酎」とうるさかった。

 そう騒がなくても造ってやるよ。

 純米大吟醸が完成したらな。

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