簡単な操作説明
「まず、町くんが夢の中で見た物は本物。こっちの世界で町くんが寝ると、向こうの世界・・・異世界へと魂が飛ばされる。その異世界で私が用意したホムンクルス・・・人形という解釈でいいよ?それに魂がセットされ、異世界で目覚める。ここまでは大丈夫?」
「わかりません」
「そ。じゃあここのまま説明続けちゃうね」
町さんの言葉を無視し、そのまま説明しちゃっても大丈夫なのだろうか。
「でね?魂だけ移動しても、怪我とか負わないじゃん?とか思うかもしれないけど。魂は謂わば生物の核。全てを記憶する装置で、異世界で記憶した事をがっつりそのまま、元の世界の君の体に反映させちゃうのさ。擦り傷がなんで出来たかはもうわかったよね?」
つまり、町さんは本当に九死に一生を得たと言っても過言ではない。角先を射出する鹿に、もし、仮に、頭を抉られていたら、胴を、腕を、足を抉られていたらと思うと、血の気が引くものだ。実際、今の説明を受けた町さんは顔が真っ青で今にも倒れそうだ。
「だから町くんが"バレット・ケルウス"に殺されなくて本当に良かったよ」
バレットは弾丸だとわかるが、ケルウスとは一体?恐らく鹿の意味なんだろうな。町さんは1人でふんふん頷いた。
「じゃあ後は、今後どうすればいいか教えるよ」
少女はタイトル画面をタッチすると、手慣れた手つきで操作していく。すると、なにやら画面の中央に木で出来た豆腐ハウスと、それを囲うように連なる木々達が表示された。
「もしかして・・・夢の中で見た景色?それと建てた豆腐ハウス?」
「いかにも。町くんが先程までいた場所だよ」
「じゃ、じゃあこの中に私の人形が?」
「うん。試しに見てみようか」
豆腐ハウスにズームするように操作すると中が透けて見えた。中には膝を抱えて目を閉じているもう1人の町さんがいた。
「は、はは。頭が痛くなってきました」
「もっと頭痛くしてあげる」
少女はまた操作すると、画面のあちこちに、天気や気温、湿度や風速、木の材質、生息生物、敵対勢力、等々とありとあらゆる情報を表示し始めた。
「町くんにはこれらの情報を駆使して、ゆくゆくは大きな街・・・欲を言えば国を作り、この世界を完全なる姿にして欲しい」
「・・・」
町さんは目頭を指で押さえ、この少女に何か一言言ってやりたかった。言ってやりたかった、が。もう考える気力を無くし、もう一回寝ようかなと思い始めた。
「こらこら。町くん?そんな苦い顔しちゃだめだよ?」
「したくもなりますよ・・・」
「でもさ、町くんが夢見てきた事を出来るんだよ?ゲームじゃなく、リアルに」
「そうですけど」
「操作も簡単だからさぁ」
町さんの手を取り、どうやって発展させるか説明していく。
少女の言う事を漏らさずメモを取る町さん。社会人の基本である。
「その地に住民が住み着くと、住民に対して依頼書を提出する事ができる。但し、働きに見合う分の報酬が必要だけどね。無償でやる馬鹿は余程の事じゃないと見つからない」
住民が住み着くまで1人でなんとかしろ。住民が住み着いたら楽をしろ。そういうことだろう。
「住民に関しては、土地の状況による。空気が淀んでないかとか、周囲に危険な存在がいないかとか、一定の収入は得られるかとか、それらをクリアしてやっと住民が寄り付き、住み着く。決して簡単じゃない」
「それまで1人でなんとかする、というのは分かりましたけど。毎日こっちの世界で寝ないと異世界に行けないんですよね?こっちの世界で起きてる時は基本何も出来ないのでは?」
「その為にこのパソコンと、ポケットに入っている携帯があるじゃないか」
「え?」
「いいかな?基本起きてる時はパソコンで異世界の状況を見る。勤務中は携帯で確認する。操作の仕方はどちらも変わらないよ」
少女が町さんのポケットに入ってる携帯を取り出すと、いつの間にかインストールされていたアプリを起動する。タイトル画面もそっくりそのまま。
「町くんには異世界を発展させて欲しい。その為に色々準備もした。これだけ町くんの夢を叶えられる物が備わってるのに、まだ決められない?」
「・・・」
正直荷が重い、町さんは思った。ゲームの中の住人が死ぬ事でさえ辛いのに異世界で、もし人が死んでしまったら・・・。考えるだけでも胸が痛むのだろう。
町さんが頭を悩ませていると、少女はそんな町さんの反応を見るや、膝上から降り窓まで歩いていく。
「明日までには返答を貰えるかな」
一言。期待も無く、失望も無く。一言を残し少女は消えた。
町さんにとってこれは転機かもしれない。だが、ゲームと現実では訳が違う。ゲームでは人が死んでもまた蘇るし、システムの中から呼出せたりも出来る。現実はそうはいかない。死ねば生き返らないし、魂を呼び寄せる事なんて出来ない。そして何より責任が伴う。例え神だろうと何だろうと、人は誰かに責任を押し付ける。押し付けなければ自分を保てなくなってしまうからだ。
「・・・よし」
何かを決意した町さんはもう一度寝た。本日2度目の不貞寝。
文章を考えるのは難しいです。一度書くのを止めてしまうと、書くのが面倒になりますね。一気に書き上げたいです。