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ミーシャは無言で山の中を駆けていた。音もなく大きな岩の上に降り立つ。風上の方、黙視できる距離に大きな猪がいた。ミーシャは腰につけていた武骨なナイフを手に取り、ゆるく握った。

獲物はまだミーシャの存在に気づいていない。川辺で呑気に水を飲んでいる。


猪が此方を振り向いた。瞬間、ミーシャは獲物の眉間を目掛け、ナイフを投擲した。ナイフは狙い通り猪の眉間に突き刺さり、どさっと音をたてて猪は倒れた。


それを確認すると、ミーシャは詰めていた息を吐き出した。



「やりましたね」


「師匠」



ミーシャの背後からフェリックスとブルック先輩が音もなく近づいてきた。



「見事な腕前だ。ナイフで眉間に一撃など、中々できないぞ」


「今回は動き回ってませんでしたから」



3人で獲った獲物に近づく。

その場でざっと血抜きして、足を縄で括っておく。他の獣が寄ってこないよう、即席の結界を張った。



ミーシャ達3人は馬で街から2時間ほど離れた山に来ていた。朝5時に街を出て、今はもう昼過ぎである。その間に他に鳥を2羽ほど獲っていた。



「ちょうど川辺ですし、お昼にしますか?」


「そうですな」


「食べ終わったら、ついでに水の補給もしときましょうか」


「あぁ」



3人で川原に腰掛け、フェリックスの荷物に入れていた弁当を分けた。弁当はマーサ特製の拳以上の大きさのでかいオニギリだった。



「いただきます」



オニギリにかぶりつくと、中には小魚を醤油で甘辛く煮たものが入っていた。じわっと口の中に魚の旨味が広がる。



「旨いですね」


「今日のはマーサ様お手製ですから。お料理上手でらっしゃるんです」


「前にいただいた弁当も美味でしたが、もしやマーサ様がお作りになられたのですか?」


「多分そうだと思いますよ。人数が多いので作る量が多い分、お子様方や俺達神殿警備隊がお手伝いすることもありますけど」


「先の大会の時でしたら、多分三男のチーファあたりが手伝ってるんじゃないかと思います。料理が好きな子なので」


「ミーシャ君は料理もできるのか?」


「一応できます。母の足元にも及びませんけど」


「いやいや、ステーキやカレーは同じくらいですよ」


「そうかしら?」


「ミーシャ君は何でもできるのだな。普段の働きぶりといい、俺は君が公爵家令嬢だということをよく忘れてしまう」


「はははっ。型破りなご一家ですからねぇ」



そういって、フェリックスが笑った。何と返したらいいか分からず、ミーシャは頭を掻いた。



「母が変わった人ですから、その影響だと思います」



食事を終え、水筒に水を補給すると、獲物を求め、再び山の中を駆け巡った。


結局この日は猪1頭、鹿1頭、野鳥6羽、野うさぎ2羽とまずまずの成果だった。フェリックスは鹿と野鳥を1羽、ブルック先輩は野鳥を5羽と野うさぎを仕留めた。ブルック先輩の狩りの腕前にフェリックスが上機嫌だった。


借りてきた軍馬に獲物を括りつけ、夕焼け色に染まる水田を横目に、帰路についた。


領館に帰ると、母が待っていた。獲物を見せると大猟だ!と大喜びした。領館の炊事場の裏で獲物を手分けして捌き、そのまま夕食を領館で家族と一緒に食べて宿へと戻った。

ブルック先輩はとても恐縮していたが、マーサが有無を言わさず、夕食に誘った。下の双子の友達も1人、夏休みに泊まりがけで来ており、賑やかな夕食となった。フェリックスやマーサが終始ニコニコとブルック先輩に話しかけていた。






ーーーーーー


宿へと戻る道すがら、これから飲みに行くという薬師局長らに会い、ミーシャ達もそのまま合流することになった。


賑わっている飲み屋の一角を陣取り、其々好きな酒をもって乾杯した。



「狩りは楽しかったかな?」


「はい。久しぶりでしたし、同行した2人とも腕が良かったので、中々の成果でした」


「私なんかよりブルック先輩の方が、かなり腕がいいですよ。あっという間に野鳥を何羽も仕留めてしまいましたから」


「おや、そうなのかい?」


「はい」


「ミーシャ君も中々のものだと思うがな。猪をナイフ1本で仕留めましたから」


「それは凄いね」


「師匠やブルック先輩に比べたらまだまだです」


「はははっ。そうかい。何にせよ、明日が楽しみだね」


「ミーシャちゃん、明日は何時頃に伺えばいいのかな?」


「母からは6時くらいにと聞いてます」


「6時ね、分かったよ。ありがとう」


「局長。明日、マーサ様から直接お話があるかと思いますが、こちらの薬事研究所を見学しないかと打診がありました」


「それはいいね。是非お願いしたいところだ。サンガレア薬事研究所は出来てそう間がないけど、着実に実績をあげてきてるからね」


「はい」



薬師局長が上機嫌に言った。他の面子も興味があるようだ。

黙々と料理を食べていたルート先輩がミーシャの方を向いた。



「明日は礼装でいいのか?」


「いえ、甚平とか楽な格好で大丈夫ですよ。貴族の社交パーティーとかではないので。気軽な外での焼き肉パーティーですから」


「外で食べるのか?」


「はい。炭火で猪を焼くので」


「猪って食べたことないな」


「美味しいですよ。少し癖がありますけど」


「へぇ。楽しみだな」


「そうですね。母がもつ煮込みも作ってくれますから、私はそれが楽しみです」


「もつ煮込み?」


「内臓を煮た料理のことです」


「内臓なんか食うのか」


「旨いですよ。ちゃんと下処理したら臭みもないですし」


「そうなのか……物によっては薬に使うこともあるが、食うのか、内臓」


「食いますよ」



内臓ということが気になるのか、ルート先輩のフォークが止まった。が、気にしないことにしたのか、また動き出した。

鶏皮せんべいが気に入ったらしく、パリパリと何枚も食べ始めた。



「そういえば、獲物以外に何かとってきたのかい?」


「薬草を何種類かと、後はムカデが何匹かですね」


「あ、ムカデ捕れたんですね」


「でかいのいました」


「油なら大通りにある店で扱ってますよ。あと瓶も」


「なら、明日の昼間に買いに行くか」



ムカデは油に浸けると薬になる。

王都では何故かあまり見かけないため、ミーシャも何匹か捕っていた。

フェリックスは嬉々としてムカデ取りをする薬師2人に軽く引いていた。



「明日はどうするんですか?」


「ずっと別行動というのもなんだし、明日の午後は皆で劇場に芝居でも見に行こうか」


「分かりました」


「芝居は久しぶりです」


「楽しみですね」



話が途切れることなく、日付が変わる頃まで皆で酒を飲んだ。

他の面々は温泉巡りや街中観光を楽しんでいたようである。

皆が自分の大事な故郷を楽しんでくれることに、ミーシャは誇らしい気持ちになった。




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