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七の月頭のことである。


『第1回チキチキ!伴侶の座を射止め!絶対死なない殺しあい大会!!』を終えて、一月ぶりに職場に復帰したミーシャ・サンガレアは毎日忙しく働いていた。


出来上がった薬を医務局に運び、注文書を受け取ったり、薬草園の手入れや取れた薬草の加工・保存・管理等、毎日仕事が山積みであった。その合間に、先輩達から薬事魔術(薬を製造する時に使う魔術)を指導してもらったりしていた。


学生の頃から地元の病院や薬学研究所でバイトをしていたため、新人にしては使える、と先輩達は評価していたが、本人はまだまだ未熟だと感じていた。

流石王宮薬師局と言うべきか。

まだ若いミーシャとは比べようがないほど、先輩達は優れた薬師であった。

それが分かるため、ミーシャは隙あらば先輩達の仕事を、こっそり観察させてもらっていた。


端から見ているだけでも充分勉強になるし、世話役のルート先輩は聞けば詳しく教えてくれるので、甘えさせてもらっている。


ルート先輩と共に薬草の在庫管理を終えて、薬師局の部屋に戻ると、丁度会議に出席していた薬師局長が戻ってくるところだった。


ミーシャは少し慌てて、薬師局長にお茶を淹れるため、隣にある給湯室に向かった。お茶汲みは下っぱの仕事である。


リラックス効果があり、疲れにも効く薬草茶を淹れると、お盆にのせ、デスクに座った薬師局長の元へ運んだ。



「お疲れ様です」


「あぁ。ありがとう。ミーシャ君」



薬師局長は人の良さそうな顔を綻ばせて、薬草茶を受け取った。


ミーシャは一礼して下がり、自分のデスクに戻ると、ルート先輩がしていた作業の手伝いを始めた。

薬草の在庫管理はルート先輩が主に行っているため、それに付随する書類を処理するのも彼の仕事である。


ミーシャは今、主に、ブルック先輩指導の元、薬草の育成や手入れと、ルート先輩指導の元、薬草の在庫管理の仕事をしている。

責任者は其々先輩方なので、ミーシャでもできるような、ちょっとした雑事をしつつ、彼らの手伝いをしていた。


王宮薬師局で作る薬は、主に王族や王宮に出入りする者達に使用されるため、まだまだ半人前のミーシャが薬を作れるわけではない。

暇を見つけては、ルート先輩達に薬の調合をみてもらいながら、一人前目指して一人奮闘していた。


現在時刻は正午前である。

空腹を感じつつ、整理した書類をルート先輩に渡していると、其々、他の場所に出向いていた面々が戻ってきた。

彼らにお疲れ様です、と声をかけつつ、次の仕分けする書類を渡される。


黙々と作業していると、薬師局長がパンっと手を叩いた。



「丁度全員揃っているね、話があるから作業を中断して、座ってくれ」



ミーシャは整理途中の書類を自分のデスクに置いて、手を止めた。そして、薬師局長の方に身体に向けて聞く体勢になった。



「さて、知っての通り、王宮の各部署で慰安旅行というものがある。毎年、一つの部署が揃って、親睦も兼ねた旅行に行くわけなんだけど、今年はうちが行くことになったよ」



ミーシャにとっては、初耳なことだったので、少々驚いた。そんなものがあるのか。

先輩方は当然知っていたのか、驚いた様子はなく、どことなく嬉しそうにしていた。



「うちは毎回避暑地に行ってたけど、今年はある方から申し出があってね。場所を変えることにしたよ」


「どちらに行かれるのですか?」



そこで薬師局長はチラリとミーシャの方を見た。



「サンガレア領だ」



ミーシャはまた驚いた。見れば、他の面々も驚いている。



「サンガレア領でしたら、王都から行くのに片道二週間はかかるでしょう?休暇は10日ですから、とても間に合いませんよ」


「大丈夫。ある方から申し出があったと言っただろう?土の神子様がこの間の騒動のお詫びにと、招待してくれたんだ」


「土の神子様が!?」



全員驚いたような声をあげた。

ミーシャも驚いた。

母のマーサからは、何も聞いていない。



「ミーシャ君、母君から何か聞いてない?」


「いえ、何も聞いてません」


「あ、そうなの?まぁ、そういうことだから、領地の説明お願いするよ。領地に関する説明はミーシャ君に聞いてくれ、って言われてるから」


「はぁ、分かりました」


「あ、その前に遠隔通信機で神子様と話してみてくれるかい?これ使っていいから」



薬師局長が自分のデスクに置いてある遠隔通信機を指差した。

ミーシャは立ち上がり、薬師局長の元へ行った。



「お借りします」


「はい、どうぞ」



一言断って、遠隔通信機に手を伸ばした。実家に繋がるよう、機械を起動させる。然程待たずに、神殿警備隊隊長が応答した。マーサに変わってくれるよう、頼むと、5分と待たずにマーサが応答した。



『はぁい。ミーシャ。元気にしてる?』


「元気よ。ところで、慰安旅行で王宮薬師局をうちに呼んだって聞いたんだけど」


『そうよ』


「いや、『そうよ』じゃなくて。私何も聞いてないんだけど」


『そりゃそうよ。言ってないもの。今日薬師局長から聞いたでしょ?』


「えぇぇ……。聞いてビックリしたんだけど」


『あら、そう?』


「領地の説明しろって、具体的に何話したらいいの?」


『えっとねぇ。うちは特殊だからさぁ。領地に関する基本的な事とかかな?あとパンフレットと必要書類を送るから、渡しといてちょうだいな。あ、あと王公貴族用の宿がいいか、民間用のちょっといいお宿がいいか、皆さんに聞いてみてちょうだい。今』


「え、今?」


『ついでだし。今お願い。今のところの予定は、民間用の方は繁華街のすぐ近くの所なの。大通りに面してる所』


「分かった。ちょっと待って」



一端通信機から手を離す。

隣で会話を聞いていた薬師局長に話しかけた。



「すいません。神子様からなんですが、王公貴族用の宿と、民間用のちょっといいお宿のどちらがいいか、聞いてくれと言われたんですが、どちらがいいですか?」


「ミーシャ君はどっちがいいと思う?」


「宿が豪勢なのは王公貴族用の宿です。ただ、こちらは街の中心部から少々離れています。民間用は大通りに面している所だそうですから、観光するなら民間用の方が楽かもしれません。民間用とはいえ、神子様が選んだ所ならしっかりしたお宿だと思います」


「そう。じゃあ、民間用でお願いしようかな」


「分かりました」



再び通信機を手に取る。



「民間用ですって」


『分かったわ。近いうちに宿のパンフレットも一緒に送るわね。じゃあ、後の事はよろしく。色々準備して待ってるからね』


「分かったわ」


『身体に気をつけるのよ?何かあったらすぐ連絡しなさいね』


「うん」


『それじゃあ、またね』


「うん。また連絡するわ」


『はぁーい』



明るい返事声と共に、通信機が切れた。

ミーシャはお礼を言って、薬師局長に通信機を返した。



「近いうちに必要書類と領地の説明が書いてあるパンフレットが送られてくるそうです」


「それなら、説明はパンフレットが届いてからの方がいいかな?」


「簡単な地図とかも書かれているので、その方が分かりやすいかと思います」


「そうだね。それじゃあ、説明会は諸々届いた後ということで。皆、そういうことだから。引き留めて悪かったね。昼休憩にしよう」



薬師局長は、話を締め括るように、パンっと手を叩いた。


ミーシャもそれを合図に一礼して自分のデスクに戻った。


何度も長期休みを貰ってしまっていたため、今年の夏休みはナシかと思っていたが、思わぬ形での帰省になりそうである。




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