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紗綾 ~君と歩く季節~   作者: 萌葱
三年生 二学期~
99/117

一休みしたいね、流石にちょっと疲れたよ

「一休みしたいね、流石にちょっと疲れたよ」

 皐ちゃんの言葉を切っ掛けに、何処かによって行こうかと言う話になった。


 喫茶店にファーストフードなんて案が出る中、この天神様を知っていた鳴木の

「駅の反対側に甘味処があったはずだけどな?」

 なんて言葉に莉緒達の目が輝く

「甘味処……」

 食べれる物有るかなってこっそり考えていると、磯辺とかのセットもあるはずだと鳴木が言ってくれた。

 だったら、季節はずれだけど甘味処って、トコロテンなんかもあったかも? 一月ながらも快晴の天気と重ね着の着物に少し蒸し暑さを感じて居たからそれもいいかと思ったけれど

「八人も……席空いているかな?」

「確かにね、でもここでそれを心配していても仕方ないし、行ってみて無理だったらその時に考えようか」

 なんて、松くんの言葉も尤もで取り敢えず駅まで向かう事にした。


 石段の上り下りに天神様への道のりで、漸く歩き方のコツを掴んだのか、少しスムーズに前に進むようになって、試しに歩みを早めてみる

「ん! いい感じ……」

「………っっ……ふぇっ……」

 すると、何処かで子供の泣く声がした気がして周囲を見回すと

「っとぉ!?」

 前の角から三輪車の男の子が泣きながら飛び出してきてぶつかりそうになる。

 慌てて避けた後、その子のハンドルに手を重ねてばぁ、と上から顔を出せば、びっくりしたように泣くのをやめたのに、すっとしゃがんで視線を合わせ

「どうしたの? ママとはぐれちゃった?」

 聞くと、ママという言葉に反応して、また顔を歪ませつつもコクンと頷く

「どっちから来たか覚えてる?」

「ううん……」 

 これは、明らかな迷子かな?


 男の子に話しかけていると、皆がどうしたんだ? と私達を囲み、その明らかに自分より大きな人影に怯えるのが判って、涙に濡れた目元をハンカチで拭いながら、大丈夫だよと笑ってみせる。

「迷子みたいなんだよね~、鳴木、この辺て天神様以外なんか大きい施設とかある?」

「駅の方にはショッピングモールとかも有るが、この辺だと天神様位だと思うが……」

「ねぇ、君、森みたいな所にママと行かなかった?」

 そう聞くと、うん、木が一杯な所にママと行った! と言われて、恐らくそこではぐれたのだろうと当たりを付ける。

「自分の名前は言えるかな?」

「ますだたける……」

「たけるくんだね? あのね、怖いのは判るけど、ぐるぐる回ってると、たける君探しているおうちの人とすれ違ったりしちゃうんだ? だから、私も探すの手伝ってあげるから一回走り回るのは止めにしよう?」

 そうすると、不安げながらもコクリと頷いて、漸く周りを見まわせる余裕が出来たのか、松くん達を見上げてびっくりしたような顔をした後、急に泣いていたことを恥ずかしく思ったかのようにキッとした顔になる。


 ――うん、これなら大丈夫そう

「悪い、ちょっとこの子とここで待ってて、多分神社に来た子だと思うんだ、親も探していると思うし、ぐるっと回れば見つかりそう」

 そう言い置いて、走りだそうとすると 

「だから、その格好で走るなって、神社だな? 俺が行く」

「そいつ、お前が居るほうが安心するだろ? 鳴木と手分けして神社の周り見てくる」

 黒田と鳴木に止められて

「じゃぁ、子供を探している人がいたら子供の名前を聞いて、ますだたけるくんっていうから」

 名前を伝えると了解って駆けていってくれた。


 その背中を見送り、ごめん、ちょっと時間くっちゃうねと松くん達を振り返れば、彼女達は大丈夫だよと笑ってくれて

「もう、神社を離れてその辺を探し回っているかもしれないし、僕と莉緒でこのへんぐるっと一周してくるよ」

 伊達くんがそう言ってくれるのに

「ありがとう、良いかな?」

 それも必要かとお願いすると、任せてと二人は微笑みを見せ、角を曲って歩いて行ってくれた。

「さて、じゃぁ、ここでちょっと待てるかな?」

 後は、この子が出来るだけ不安にならずに迎えを待てれば……と思いつつ声を掛けると

「うん!」

 いいお返事が戻ってきた。


「じゃ、しりとりでもしよっか?」

 ならばと、暇つぶしの言葉遊びを誘えば、勢い良く頷き

「りんご!」

 声を上げるのに元気が戻ってきたのを感じていると、同じ事を思ったらしい松くんは

「ごま」

 にっこり笑って

「ま!? ま、ま……マドモアゼル!」

 突然振られた皐ちゃんのひねり出した言葉に

「まどもあぜる?」

 たけるくんが不思議そうな顔をして、それを一生懸命説明をしている姿に思わず微笑んでしまう。

 そんな中、一条はと見ると少し離れた所であたりの様子を見ていてくれているようだったので、巻き込むのはやめておいた。


 程なくして

「来たみたいだぞ」

 という声に顔を上げると、この辺をぐるっと見てくると言っていた莉緒達が大人の男性と一緖にこちらに向かってくるのが見えて、続いて神社のあった方向の角から、鳴木と黒田がご両親なのか大人の男女を連れてこちらに走って来るのが見え

「ママ!」

 たけるくんの顔がぱっと輝いた。


 どうやら、この近所にある実家にたけるくん一家が帰省中、お参りに天神様に行き、そこで届け物などがあり神社の人と話していたら、三輪車に乗ってきたたけるくんが暇を持て余して外に出てしまい……ということらしい。

 ご両親と親戚の方数名でずっとこのへんを探していたと言われて、やはり、走り回るたけるくんとすれ違ってしまっていたのかなと納得したところで、是非うちによって行って欲しいなんていう申し出をされてしまった。

 けれど、こちらも八人もの大人数だし、それに大したことをした訳では無い。

 そう辞退するも、それくらいの人数は全く問題ではないし、たけるくんをとても大切にしている彼の祖父母も、どうしてもお礼をしたがると思うのでと強く懇願されてしまい。

 ……どうしよう? と皆で顔を合わせれば、

「今日は別に急いでないし、大丈夫だよ、ちょっと顔を見せていこうか?」

「そうだな、これだけ言われて帰るってのもなんだし……」

 結局、案内されるままにそのお宅へと向かうことなったんだけど……。

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