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紗綾 ~君と歩く季節~   作者: 萌葱
三年生 二学期~
97/117

お、良いじゃないか、娘らしく見える

「うえ~、きつい……重い……」

「一年に一回ぐらい我慢しなさい、それに、あなたのうっかりを神様にお願いするのならちゃんとした格好でしっかりお願いすべきだわ」

 お正月に友達と合格祈願の初詣に行くとママに伝えた所、私の大晦日の夜更かしは許されなくなり、元旦の朝昼兼用のお節とお雑煮で挨拶をした後は、ママに客間の畳の部屋に連れていかれ、嫌な予感はしていたものの、そこに並ぶ着物と小道具を見てとっさに逃げようとしたところを捕まえられてしまった。

 ちゃんとしないとお年玉はなくなるわよ? と普段は優しいママが珍しく怖いのもあって、取り敢えず抵抗するのは諦めた。


 最初に、薄く化粧をしてもらって、髪を結い上げ、その後くるくると身体を回され、言うがままにあちらを抑えこちらを抑え、紐で縛られて着付けられていく。

「うーん、……この着物ももう今年までね、来年は新しいものにしないと着丈がギリギリ、背が伸びたわ……あの、男の子と喧嘩ばっかだった紗綾が男の子と初詣! 成長もするわけよねぇ」

「あ、あの? 女の子もいるよ?」

 私の言葉がいまいち耳に入ってない模様のママに困ったものだと思っていると、ノックの音がしてパパが入って良いかと聞いてくるのに、後は帯だけだから大丈夫だよと答えると

「紗綾、お父さんたちも駿と初詣行ってくるから、念のため鍵を持って行きなさい、あまり遅くなるつもりはないけれど、どっちも初詣では時間が読めないしな」

 そう言いながらパパが扉を開けて

「お、良いじゃないか、娘らしく見える」

 着物姿の私を見てにやっと笑う

「そもそも娘なんだけどね~?」

 と、頬をふくらませると

「五回もお父さんに起こされるようなのは娘らしいとは言わない」

 大晦日の恒例の夜更かしはママの禁止命令でパパまで無しになり、だからすっきりと目覚めたらしいパパは元気一杯に切り返してきた。


「じゃぁ、気をつけて、あと、着物を着てるって忘れちゃ駄目よ? 普段とは動きやすさが違うのだからね?」

 わざわざその動きにくい服を着せた本人が言うかなぁと思いつつ

「判った、じゃぁ、そっちも気をつけて」

 といって、駅前で車を降りる。

 待ち合わせは塾のある駅のホームということになっているので、着物で一人で駅まで歩くのも大変でしょうと、送ってくれたのだった。


 巾着から定期を出して改札を通ると、前方に見慣れた後ろ姿を発見してちょっといたずら心が沸く。

 背中から声をかけようと思って少し早足にになり、もうすぐ声をかけれるかな? と思ったら

「わっ!」

 着慣れない振り袖姿でそんな事をしたものだから、草履が引っかかり、転んじゃう! って背筋が冷えたけれど……前を歩いていた彼は私の声に驚いたように振り向き、そのまま、ぐっと肩を押さえてくれるのにホッとした。


「ごめん、ありがとう、一条」

「藤堂? 何やってるんだ?」

「あはは、ちょっと草履で引っ掛けちゃった」

「おまえな……大方後ろから驚かそうとか思ったんだろうけど、着物は普通の服より動きにくいんだぞ? いつもどおりの動きだとこけまくる」

「あはは、ママにも言われたそれ」

「つまり、おまえは人の話を聞いてない訳だな?」

 ……新年早々眉間に皺を刻まれてしまった。


「何やってるんだ? 一条……って、うわ! 藤堂か?」

「黒田! あけましておめでとう、今、一条見つけて挨拶しようと思ったらこけそうになっちゃって」

「挨拶じゃなかったと思うがな?」

「はは、一条もおめでとう」

「おめでとう、おまえ、今日は階段とかやめとけよ?」

「えぇ~」

「確かに、その格好じゃ階段転がり落ちていきそうだ……迷惑だぞ?」

 黒田にも真顔で言われてエスカレーターに向かうしか無かった


「わぁっ! 莉緒も皐ちゃんも松くんも!! 目の保養だ~」

 駅のホームにつくと、鳴木と莉緒の彼氏の伊達君、それと華やかな着物の三人が居た

「何言ってるのよ? 紗綾が一番びっくりしたわよ、やっぱり普段ギャップがある人のほうが映えるわねぇ~」

「中身は一緖だぞ? さっき俺をおどかそうとして後ろから寄ってきて転びかけた」

「一条!」

 早速ばらす一条に声をかけるも遅く、周りに爆笑されて新年早々肩を落とす

「笑ってごめん、あけましておめでとう、とても似合っているよ」

「ありがとう、伊達君、あけましておめでとう」

 クスクスと笑いながらも感じの悪い笑顔ではなく、爽やかな莉緒の彼氏の伊達君の言葉に相変わらずだなぁと思う。

 長身にいかにも好青年という感じのするすっきりとした顔立ち、常に優しく紳士的で女の子の理想とする王子様ってこういう人かな? って思う。

 私も最初莉緒に紹介された時は、こんな人が本当にいるのかと驚いた。


「一条君も久しぶり、こんな所で会うとは思わなかった」

「久しぶりだな、イーグルの新年会は参加するのか?」

「一応ね、君も?」

「顔だすくらいはな」

 突然話しだした二人にびっくりして

「お知り合いなの?」

 ときいたら

「親の所属するクラブでたまにな」

 と、一条が答えてくれた。

 そういえばイーグルとかいう、そのクラブの名称は、前にパパが言ってたこの地方の名士の人が集まるとかいうのだったと思う。

 やっぱ一条って結構お坊ちゃまだよなぁ……なんて思っていると

「おい、電車来るぞ? 取り敢えず乗らないか?」

 鳴木にそう言われて慌てて向きを変えようとして、またコケそうになり鳴木に支えられる

「ありがと、やっぱ私には向いてない……」

 少し動くたびに引っかかる拘束着とも思える和服に溜め息を付くと

「でも、似合ってる……」

 思いがけず柔らかい声音に驚いて顔を上げると、目が合った鳴木はふっと笑って

「馬子にもってやつだな?」

 とかね?

 ……本当に、今日一日伊達くんと一緖にいて見習って欲しいものだと思う。



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