起きて! 神頼み! しよう!?
「おっはよぉ~、あ~、あったかぃ……」
塾の教室に授業開始45分前につくと、いつもの勉強会のメンバーは皆揃っていた
「紗綾遅いよ~、またギリギリまで寝てたんでしょ?」
「だって、布団気持ちよくて~、パパに五回は声かけられて最終的には怒られた」
いつもはそうでも無いのだけれど、冬になると格段に寝起きが悪くなる私。
冬休みはそれに輪を掛けてしまい、今日はとうとうパパの雷が落ちた。
「うわ、紗綾、寝癖そのままじゃない! クセッ毛だってちゃんと分かるんだよって言ってるのに」
だから、ブラッシングも適当なのを目ざとい莉緒に見つかって、素早くカバンからブラシとピンを出してくるのに慌てて
「いーよいーよ、勉強してて?」
と言うも
「私が気になる! 二分でいいからおとなしく座る!」
目が三角になりかかる莉緒の迫力に逆らえず大人しく入ってすぐの椅子に適当に座ると
「信じられん……」
多少服は自転車に対応してラフになったものの、今日もぴしりと整った髪をした一条が呆れた、とでも言いたげに軽く首を振っている
「さて、これでよし、紗綾の髪は本人には似ずに素直だから、このまま押さえていれば授業開始までには落ち着くでしょう」
満足げにブラシを鞄にしまう莉緒に
「本人に……って」
一言余計では? って言おうとしたら
「確かに、こいつ強情だよな」
黒田に笑われ、もういいよ……と多少ヤサグレつつ席を立ち、皆が居るスペースへと移動する。
「ここ、あいてるぜ、座るか?」
すると、椅子をかたんと引いてくれる鳴木。
その心遣いが朝からの連続コンボで弱った心に嬉しくて
「鳴木優しい!」
その席に座りながら、思わず喜んだのに
「お前がうろちょろしていると勉強にならないだけだ」
苦笑しながらの鳴木の返答に、私は思わず机に突っ伏した。
「こんなもんか?」
一応念のためというのもあって早めに集まることが多いけれど、日々の勉強会と講習の効果もあって、翌日に聞かないと手も足も出ないというところは殆どなくなっている。
それでも人数が居るのでそれなりには時間は掛かるのだけれど、今日は授業開始20分前には終わってしまい、皆がふうと、肩の力を抜くのが判った。
「あ~、明日は模擬テストか、私前回酷かったんだよなぁ」
毎月一回は月例テストと受験校に合わせた模擬試験が行われるのだけど、今月は講習始まってすぐの明日やることになっていた。
「酷いって?」
松くんに心配そうに聞かれて
「60%切っちゃってねぇ……」
へろりと数値を言ってしまえば、皆が固まるのが判った
「お……まえ、その前の時は90%だったとか言ってなかったか?」
常に90%を切ることはないらしい鳴木に言われて
「なんか私、波がありすぎるみたいで、この前の時は先生も頭を抱えてたんだよね、基本的にちゃんと解けているのに、たまにとんでもないミスをするらしいよ? 本番でやらかさないといいけど」
「自分で言うなよ……なんで、そんなツラっとしてるんだ」
「勉強でまで天然爆発って……」
心配半分呆れ半分の皆の視線に笑うしか無くて
「後は神頼みかなぁ? 人事は尽くしてるしね~」
我ながら注意はしているつもりなんだけど……講師の先生にまで、問題は性格か? なんて呟かれれば自分で出来る事は少ないと思うんだ……
「神頼み、……紗綾! 元旦の予定ってある?」
松くんが正面から体を乗り出して、真面目な顔で聞いてくるのに、吃驚する
「元旦? お正月の午前中は大体なにもしないで寝てること多いけど」
大晦日におもいっきり夜更かしするから、一回朝の挨拶には起きるけど、大抵食欲なんて無くてお雑煮だけ口付けて寝直し……。
元旦だけは挨拶さえ頑張れば、そんな思いっきりの夜更かしをパパも許してくれる……というか、実は一緒に朝方迄テレビを見たり、長話なんかをして付き合いきれないと先に寝るママに呆れられてるんだ。
「起きて! 神頼み! しよう!? 初詣で受験祈願してこよう? 一緒に行くから!」
けれど、そんなお正月を披露する前に、やたらと力の篭った松くんの誘いに
「あ……うん、判った、起きる、頑張る」
思わず頷いてしまえば
「本当ね? 私紗綾と同じ高校行けるの楽しみにしているんだから! 起きてね?」
念を押して来るのに、起きることと合格することは繋がらない気はしたものの、その真剣さに本気で楽しみにしてくれているのを感じて、思わず頬が緩むのが判った。
「初詣の合格祈願か、良いね! ねぇねぇ? それ皆でいこうよ! 大体あの人ごみに松くんと紗綾二人なんて考えただけで危ないし」
「なっ! 松くんはともかく私は大丈夫だよ!」
お人形のようなの松くんや、おしゃれで人混みでもぱっと目を引く莉緒達とは違うし、と声を上げるるも
「確かに、トラブル呼ぶよな……」
隣で鳴木が溜め息を付く中
「良いな、神頼み、出来ることはやってるけど最後はやっぱり運だしな」
「神社は何処にするんだ?」
「受験ならやっぱ天神様かしらねぇ?」
「それなら、小さいけど知ってる所がある」
「それ、悪くねぇな? そういうとこのが、却って一人一人の願い聞いてくれそうじゃね?」
「……そう言う問題か?」
「いいかも! そこ遠い?」
「いや、ここからなら電車で幾つかってところだ」
そんなこんなで話はトントン拍子で進み、総勢七名+莉緒は伊達君も連れてくるということで八名の初詣が決定したのだった。