……味方になるやつだって居る、だろ?
「おまえ……本当に一条か?」
「放っておけ、対外用だ」
そんな会話をしつつ戻ってくる二人に大体奥で何があったかを察し、思わず鳴木と顔を見合わせくすくす笑ってしまうと
「……笑うな」
一条は眉をしかめ、帰るぞと私達を促し早足で歩き出した。
「悪かったな、何か最後余計な用件まで……」
「気にするな、土産を喜んで貰ったんだ悪い気はしないさ」
「結構遅いし、気をつけてくれ」
「そっちもな、招待ありがとう、楽しかった」
「楽しい会だった、じゃあな」
駅について別れ際、そう言って踵を返す二人に
「ばいばい、月曜日に学校でね~」
「またな」
手を降って背中を見送り、元来た道を黒田とふたりで戻る。
工場の前でここで良いよといったのだけど、馬鹿言うなと足を止めもしない。
だったらと、途中の小さな公園の前で、ちょっと付き合ってと足を止めた。
工場で別れるならその前でも良かったけれど、家まで付き合ってくれるというなら、ここなら小さなベンチの上には覆いもあって、あれを渡すのには丁度良いかと思った。
「これね、いつものお礼って言うか、クリスマスプレゼント、黒田も高校からサッカーやるんでしょう? リストバンドなんだけど一応イニシャルも刺繍したんだ」
受け取ってくれる? って差しだした濃紺の包み紙は黒田へのプレゼント
「……ってことは、あいつらととお揃いか?」
そう笑うのに頷くと、包みを開けて早速手首にはめてくれて
「お、いいんじゃね?」
なんて言ってくれるのが、ちょっと気恥ずかしいけど、嬉しい。
暫く嬉しげにリストバンドを見つめた後、黒田はなにやら思いきったようにポケットに手を入れて
「俺も、これ……おまえには色々世話になったし」
渡されたのは手のひらに乗るくらいの小さなセロファンの包み。
中には白いふわふわした物に包まれた、キラキラした……何だろう?
ラインストーンに囲まれた小さな卵形のフォルムのそれは、包みを取り手に取ってみても何なのかが判らない……でも、よく見ると真ん中の花柄のモチーフの周りに溝があるのが判った。
「……スイッチ?」
そこに指を伸ばそうとして。
「待て、今は押すな、結構でかい音が出るし近所迷惑だ」
「音!?」
「おまえさ、良く妙な事に巻き込まれるから、防犯ブザーとか持っといたほうがいいかと思ったんだ、したらみのりがプレゼントならもっと可愛くとか言い出してよ? だからその飾り付けはあいつからのプレゼントなんだが……」
「へぇ!? みーのが?」
思いっきり華やかに可愛らしくキラキラしたそれの思いがけない正体に驚くと同時にみーののあの意味深な言葉を思い出しこれだったのかと思う
「……笑うだろ? 別に無理しなくて良いぞ」
「そんな事ないよ、だってこれ、凄い……」
防犯ブザーはそう大きな物では無いけれど、それでも小さなラインストーンがびっしりと貼り付けられて、スイッチ部分にはパステルカラーのラインストーンで可愛らしい模様まで貼られて居るのに、感動さえ覚えていると
「お前ホント危なっかしいんだからな、気を付けろよ?」
そういいながら、ブザーを見つめる私を覗き込んで、すっと真面目な顔をした。
「おまえは俺を助けてくれた、だから、おまえに何かあれば俺が助ける」
真剣な瞳に、本当に心配をしてくれて居るんだと判る。
黒田が選んでくれたそれを、みーのが丁寧に飾り付けてくれた。
二人の気持ちが嬉しくて、そう思うとキラキラとしたそれがより輝いて見えた。
「ありがとう、みーのにも伝えて? こんな風にキラキラしていると楽しくなるよ、持ってるだけで勇気が出そう、こんなブザーをもっているのは私だけだね?」
「そうそう無い物なの確かだろーな……ま、何でも良いから持ち歩いてくれ、何かあったら駆けつけるから」
「……なんだか、怖いな」
「何がだ?」
この世界は優しいだけの場所じゃない、そう自覚してないと不意に降りかかってくるナイフのような悪意に心をざっくり切られる事もある。
それで自分が傷付くだけならまだ良いけれど、その余波は周りさえ巻き込んでしまう事もあるから気をしっかり持っていないと、そう思って来たはずなのに、皆が優しすぎて……
「弱くなっちゃうような気がするよ」
「それ位で良いと思うがな……一人でなんとかしろなんて誰も言ってねーだろ? 俺たちがおまえに気をつけろって言うのだって、もっと周りを頼って欲しいだけだ、その為のコレでもあるしな? 今までのこと考えればおまえが慎重になるのも判るし、難しいかもしれねーけど……味方になるやつだって居る、だろ?」
「黒田は………味方?」
男子は敵ばっかだったと思ってたあの頃から、黒田だけは少し違った、からかって来ないどころか助けてもくれて、今では頼れとまで言ってくれる。
だから、私を見つめる瞳を見つめながら思わずストレートに尋ねてしまえば、黒田はちょっと吃驚したように瞳を揺らし
「あぁ……」
照れくさげに顔は背けながらも、そう頷いてくれた。