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紗綾 ~君と歩く季節~   作者: 萌葱
三年生 二学期~
94/117

……だから、これを渡そうと思った (side 黒田)

「ねぇ、ナオ君? サヤのイメージカラーって何色かなぁ?」

「はぁ?」

「デコる時はメインの色を決めてそれを中心に色を置いていくんだ、折角だから似合う色にしたいじゃない?」


 少し遠出をして買い物をして家に帰ると、親父に呼ばれて修理にかり出された兄貴を持っているというみのりが居た。

「デートじゃ無かったのかよ? 断れよ兄貴も」

「私が行ってって言ったの、今日はずっと私のお買い物に付き合ってくれて、帰ってきてお茶してたところだったから用事は終わってたしね、何かすっごいレアなバイクらしくて和巳さんったら無理しているの丸わかりなんだもん」

 なのに最初は断ろうと思ってくれただけで私は十分! なんてけなげなことを言ってるから、兄貴の代わりにはなれねぇが戻るまでの相手くらいはするかと椅子に座れば、勝手知ったると言った風情で家で焼いてきたというケーキを切り分けだした。


「どうしたの、これ?」

 俺の前に生クリームのたっぷり乗せられたシフォンケーキと紅茶を置くと、みのりはさっき俺がポケットから出してテーブルに置いた、今日の収穫を手に取り訝しげな顔をした。

「来週の会、来るっていうし藤堂にどうかってな? さんざ世話になったし、それにあいつはどうも危なっかしい」

「……クリスマスプレゼントにはちょっと寂しくない?」

「そりゃそうだけど、他のはガキっぽくてよ、これ位しか無かったんだ」

「それでも、違う物にする気は無かった訳ね? まぁ、気持ちは分かるけど……あ! じゃあ、私がこれ預かったら駄目かな? デコで飾り付けして、ラッピングもちゃんとするから」

 それがサヤへの私からのプレゼント! 良いアイディアでしょ? なんて言って来るのに、飾り付けは兎も角、そんな店でも物でも無かったからラッピングは自力でするしかねーかと思ってた俺は、そっちの方が見栄えは良さそうだとそのまま頼む事にした。


「ん~、意外だったけどどサヤって結構赤が似合うんだよね、授業の時だけ掛けてる眼鏡、あれ、すっごい良いよね! 好きな色なのかなぁ? ねぇ、赤はどう?」

 そうと決まればと、手持ちのバッグから今日の午前中兄貴と買い物に行って買い足してきたという、キラキラとした物を並べて、赤いそれを中から摘まみ俺に差しだした。

「いや、他の色が良いな」

「え~?」

 ルビーみてーな明るい赤、威勢の良いあいつには似合うとは思うが、それが一番似合う色とは認めたくなくて、間髪入れずに否定するとみのりは不満げな顔をした。


「あの眼鏡は……一条が選んだんだ」

「えっ?」

「あいつが目が悪くなってすぐ、それに気がついたのが一条だったんだ、その時あいつの親が忙しかったらしくて、下見に付き合って貰ったとか言ってた」

 するとみのりは、なるほどね~、と感心したように呟いて

「そっか、サヤの趣味とは少し違うとは思ってたんだよね、でも一条君ってやっぱりセンスが良いんだねぇ」

 何て言っているのに気分は少し複雑だ。


「……透明、とかないか?」

「ん? あぁ! クリアね? 良いのがあるよ! ほら、スワロはやっぱりこれが一番鮮烈かも、確かにあの子っぽいし!」

 俺にかざしてみせるキラキラと光る透明感のあるそれは、その澄んだ色と意外と強い光があいつの視線を思わせて、似合って居るように思えた。



 防犯ブザー、今までの礼を込めて、パーティーの日に何か渡そうと思った時に咄嗟に浮かんだのはそれだった。


 俺と藤堂は、ある意味幼なじみと言えるほど、出会ったのは昔。

 なのにクラスが離れてからは、もう一度同じクラスになるまで、あいつの事は気にしたことは無かった。

 遠くであいつを構う奴らに囲まれた姿を見かけてはいたが、負けずに対峙している姿に、相変わらず元気な奴だと思うことはあっても助けが必要だと思った事も無く、けれど、近くで過ごす時間が増えるにつれ、決して傷付いて居なかった訳ではないことを知った。

 そして、あいつを好きになるに連れ、自分がそれに気がつけずに居たことに情けなくなった。


 だが、スル-してた俺を棚に上げた上で敢えて言うなら、あいつも一人で抱え込みすぎなんだ。

 ……だから、これを渡そうと思った。

 実際この前の文化祭の時は、結構ガラの悪いの相手だったと日下部さんにも聞いてたし、なにより人に頼る事が下手なあいつにこれを渡すことで、何かあれば助けたいって思ってる奴がここに居るんだって、伝えられねーかと思ったんだ。


 そんな理由で選んだから、見た目は二の次で、流石に幼児向けのカラフルなキャラクター付きのものは避けたが、結果残ったシンプル過ぎる程のそれは、女に贈るものとしては微妙で、みのりがプレゼントには寂しいと思ったのはよく判る。

 だから、飾るというのは悪くねーけど、赤は一条の色なような気がして……。


 藤堂とは鳴木や一条より早く出会ってはいたが、そのアドバンテージはとっくに奪われ、実質の付き合いで言えばあいつらの方が遙かに長い。

 だからこそ、まだどの色にも染まっていない、そう信じたかった。

 ……いつか、俺の色に染められるその時までは、誰の色にも染まらないで居て欲しくて。


「って、おいっ! みのり、これはやり過ぎじゃ……」

 後日、完成! と、持って来たそれを見て俺は礼も忘れて思わずマジマジとそれを見つめていた。

 透明セロファンに包まれ、フワフワとした綿のようなものの上でキラキラと、……必要以上に輝いて居るのは、恐らくあの日渡した防犯ベル、……の筈なんだが?

 デコとか言うのをよく分からないままに、見せられたパーツを数カ所に貼り付ける位だろうと思っていたら、その考えは全くもって甘かった。

 買って来た時はシンプル極まりなかったそれは、今は地の面はすべて、あの日に見たキラキラした物に埋め尽くされて、起動させるためのスイッチにはパステルカラーの同じ物で花模様なんかが描かれて、……気合の入った力作なのは判るが、一見してこれを防犯ブザーと判る奴は居ないだろう。

「え~? デコってこう言うのなんだよ? すっごく可愛くなったじゃない! サヤも絶対喜ぶよ」

 ……本当かよっ!? て思ったものの、嬉しげなみのりの様子にそれ以上何も言えなくて、満面の笑みを浮かべたみのりに漸く礼を言って受け取りはしたけれど。

 ……これを渡すのは勇気が要りそうだと、こっそりと天を仰いだ。


少し早いのですが、今日はこの後予定が有るのでupして出かけます。

タイトルが前作とちょっと被ってしまったのですが、直す時間が無いので後日若しかしたら調整するかもしれません。

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