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紗綾 ~君と歩く季節~   作者: 萌葱
三年生 二学期~
86/117

ふふっ……それはさっきねぇ

「鳴木、抜かれるぞ!」

「高倉っ! 一条ちゃんとマークしとけっ! そこ、コースだ!」

 いやぁ……凄い。

 球技大会のハイライト、男子バスケの決勝戦は白熱していた。

 点数の競り合いもさることながら、選手のテンションがものすごく、最初から何故かテンションが高かった鳴木、一条、黒田につられて他の選手もどんどん声が出るようになって、学校の授業の一環とは思えない熱気だ


「ナオくん! いっけぇー!」

 みーのの歓声にコートを見ると、丁度黒田がE組の選手が外したシュートを長身を生かして取ったところで、そのまま素早くドリブルを始める……けれど、鳴木がすっと横に並んでそのボールを奪い取り、見もしないで一条にパスをして、一条は冷静に少し離れたところから3ポイントを決めた

「一条君ー!!!」

「ナイッシュー!!」

「鳴木君頑張ってぇ~!」

 女子の歓声も華やかだ。

 

 今度はスローインしたボールがうちのクラスにわたりパスが黒田に届く、瞬間突っ込んできたデフェンスをフェイントでいなすとそのまま鋭いドリブルでゴール下に切り込み綺麗なレイアップを決めた

「偉い! 黒田!」

「頑張って! 黒田君!!」

 クラスの声援に女子の声も混じっているのが聞こえて、ふと嬉しくなる

「どうしたの? サヤ?」

 笑った声が聞こえたのかみーのが不思議そうにこちらを見る

「いや、黒田がね、ずいぶん馴染んだなーって」

 するとみーのは嬉しそうに笑って

「うん!ナオくんもずいぶん変わったし、サヤのお陰だよ!」

「え? 私は別に何も」

「ううん、私は気になっていたけれど変えられなかったことをサヤはやってくれたんだよ? 私はすっごく嬉しかったんだ」

 そういうとみーのはコートに向き直って応援を続けた。

 私はみーのにそんな感謝されることがあったかと首をかしげたけれど、彼女はそのままコートの試合に集中して居るのに、いま無理に聞く事でもないかと私も見応えのある試合の観戦を再開した


 ――ザンッ!!

 ――ピーーーーーーーッ!

 最後に一条のロングパスを鳴木がシュートしてリングを通過するのと、笛がなったのが同時だった。

 これで58対60、最後の一本で勝敗が決まった。

 黒田が悔しげにまだゴールを見つめているのを、チームメイトが声を掛けているようだけれど余り耳には入っていない感じだ。

 そんな中、試合中応援していたクラスメイトも次々とコートに入っていくのが見える。

 そして、優勝を決めた鳴木と一条達のクラスメイトもコートに流れ込んできて選手たちをもみくちゃにして居て

「いい試合だったみたいだね」

「優樹」

「そろそろ閉会式だし、これくらいは出なきゃまずいかなと少し早めに出てきたんだ、お陰で面白い試合が見れたよ」

 こういう時最低限しか出場しないようにして、いつも何処かで隠れている優樹は今回は受験前に突き指などしたら絵が書けなくなり、試験にに支障が出るというもっともらしい理由をたてに完全免除を手に入れていた。

「ふふっ……それはさっきねぇ」

 みーのは優樹になにか話しかけているけれど、私は何となく本当に悔しそうな黒田が気になってしまう

 クラスメイトも一時は囲んでいたものの、今では少し距離をおいてる?

 いつもこういう時に真っ先に黒田のところに行くみーのが何故か優樹と話しているようなので、黒田のところに近寄ってみる

「残念だったけど、いい試合だったよ?」

「藤堂……くっそぉ、あんな事言わなきゃ良かったぜ」

「試合前に何か言ってたこと? 私はよく聞こえなかったけど」

「いつもシレッとしてやがるから、マジで試合したらおもしれーかと思ったら、一条まで何か切れてやがるし、あいつらコンビネーションすげーし」

「そりゃ、サッカー部でのコンビも長いだろうしねぇ~、……でも、準優勝は立派立派! 格好良かったよ」

「マジで?」

 あれ? ちょっと復活した?

「格好良かった?」

 まぁ、シュートは綺麗だったしドリブルも鋭く、中々見れない本気で走っている姿を良いなと思ったのは嘘じゃ無いからこくりと頷くと

「おっしゃ!」

 良く判らないけれど、なんかゴキゲンになった? と思ったら、黒田の落ち込みが回復するのを待ってたらしいクラスメートが寄ってくるのが見えたので、彼らに場所を渡し私は優樹たちのところへ戻ることにした。


「あ~、なるほどね~、そりゃ、試合もああなるわ」

「だよねぇ~? ナオくんももう少し考えればいいのに、あんな事言っちゃったら煽られるのは一人じゃないのに」

 なにやら盛り上がって喋ってる二人に何の話? って聞いたんだけど、なぜだかクスクスと笑ってはぐらかされてしまった。



「うわ~、それ見たかったなぁ」

「結局どっちが勝ったの?」

 流石に大会の後で勉強会までは体力が厳しいということで中止した。

 それでもつい癖で少し早めに着いてしまったロビーでお茶を飲んでいたら、丁度莉緒と皐ちゃんと一緒になった。

 球技大会はどうだった? って聞かれれて、さっきの決勝戦の模様を話していた所

「どーせ、負けたよ」

 と、けれど意外と吹っ切れた感じで黒田が声をかけてきた

「今日はお疲れ」

「あぁ、で? 今日の最大のMVPの話はしたのか?」

「なにそれ!?」

「聞いてない! 何があったの?」

 途端反応する二人に嫌な予感がして黒田を見ると案の定ニヤニヤしつつこちらを見る。

 あぁ、……これでここで迄あの話が広まるのか


「さ……紗綾、本当?」

「だ、駄目、死んじゃうっ! 何そのコントっ」

 案の定黒田の話に笑い転げる二人、やれやれと廊下を見ると丁度階段を上がってきた鳴木と目が合った

「お疲れ」

「どうしたんだ? これ」

 不思議そうに笑い転げる二人を見る鳴木に、黒田が私のドッジボールの話をばらしたと俯くと

「ぶっ……」

 一緒になって思い出し笑いをする姿に顔が上げられない

「ところで? 負けたってことは諦めるのか?」

「諦めねーよ、つか、俺は手を引くなんて言ってねーし、そもそも、2対1ってどうなのよ」

 けれど、突如頭上で始まった会話が少し好戦的な空気があるのに顔を上げると、鳴木と黒田があのバスケの時のように対峙しているのにえ? って思う

 試合も終わったのに何でこの空気? と二人を見て居ると

「それはお前が悪い」

 と笑って、鳴木は教室に向かい、黒田はどさりと背もたれに体を預けた。

 そんな二人に、何だか今日はおかしいとは思ったけれど、その後莉緒と皐ちゃんからの質問攻めに黒田と二人で答えているうちにすっかり忘れてしまったのだった。

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