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紗綾 ~君と歩く季節~   作者: 萌葱
三年生 二学期~
85/117

よぉ、今日のお笑いMVP!

「ふう……」

 校庭の隅にあるベンチに座ってゆっくり息をつくとグラウンドの中心の方からは歓声が聞こえてくる。

 球技大会も終盤、もう少ししたら決勝が始まる

「お疲れ、いや、笑った笑った、……おまえ運動神経悪くない筈なのに、なんであんなことになるんだ?」

 声をかけられ顔を上げると、おかしそうに笑っている鳴木が居た

「球技と団体競技は苦手なんだよ」

「にしたって、最後の一人まで残ったのは兎も角、逃げまわるばかりで殆どボールを取らず、意を決してボールを取ろうと向き合ったら、ボール弾いて見失ってそのボールに転んで終了って、どんなコントかと」


 そう、私はさっきまでドッジボールに出場していた。

 昔からドッジボールは逃げるのは得意だけれど、ボールを受けることが出来なくて、残り選手としての得点の足しにはなるけれど、私だけ一人残った場合逆転はまず無理という何とも微妙な戦歴を残していた。

 他の子さえ居てくれるなら、それでも逃げまわり相手が足元を狙ったボールなどを狙い、転がるそれを味方に渡すとか役には立てるのだけれど、一人になってしまってからは私がボールを取るのは苦手だと気がついた相手は、鋭くぶつけやすいけど後に取りやすい足下へのボールは等投げずに、受けるか避けるかしか無い球ばかり投げて来ていた。

 逃げるだけならば自信はあるけれど、流石に向こうに六人も居れば派埒があかない、どうにか自分のチームの攻撃にしなければこのままだとと決心し、ボールに対峙した結果。

 ……会場の皆さんにお笑いを提供してしまったわけである。

 しかし……

「鳴木も見てた訳ね」

「まぁな? 丁度試合無かったし」

 凹む私の横に鳴木はストンと座る。


 例の手紙の事件以来、鳴木や一条は学校でも普通に声をかけてくるようになった。

 刺激しないようにしていても見てる人は見ているし、勘ぐる人は勘ぐる、それなら、こそこそせずに堂々とした方がが良いと鳴木達に諭されて、……確かに、それは正論ではあるんだけど。

 ……実はまだ、彼らと居る時の女の子からの視線の強さには慣れなくて、つい周りをキョロキョロしてしまう

「だから、気にするなよ、この前も言っただろ? 俺たちは付き合う奴は自分で選ぶし、それは誰かに何かを言われるようなことじゃないって」

「それはそうなんだけどさぁ、……二人に決まった彼女が出来ればこっちへの風向きが止むかなぁ?」

「そしたら、彼女もちの二人と何でアイツはいつもいっしょに居るんだって更に叩かれるぞ、この馬鹿!」


「ひゃ!?」

 背中からいきなり怒ったような声が聞こえて驚いて振り向くと、こちらを睨む一条が居た

「驚かさないでよ、それに彼女が出来たら私と居る頻度は減るでしょうに」  

「うるさい、自分で受け取りそこねたボールにけつまずいてこけるような奴に、人の恋愛がどうとか言われたくない」

 あの場には一条も居たらしい……。


「鳴木、そろそろ決勝始まる」

「やば、そんな時間か? ……と、おまえは来ないのか? 決勝藤堂のクラスとだぞ」

「え? 本当、じゃ黒田が居るな~、応援しないと」

「おまえ、俺らの応援は?」

「まさか! さすがにクラスのみんなの前で、違うクラスの応援なんてできないよ~」

「もういい、来るなお前」

 至極まっとうと思う私の答えに、一条がは怒ったように体育館へ向かってすごい勢いで行ってしまう。

「相変わらず怒りっぽいな~」

「いや、お前のツボの突き方も相当だと思うぞ?」

「ツボ?」

「ま、いい、行くぞ?」

 あきれ顔した鳴木に促され、そうして私も体育館へと向かうのにベンチから腰を上げた。


 体育館につくと黒田とみーのが一緒に入り口に立っていて

「よぉ、今日のお笑いMVP!」

 明るく声をかけられて皆どれだけ見てるのよ……と、肩を落とす

「ナオくんっ!」

 黒田を諌めてくれようとするみーのに、今更だからもういいよとなだめていると

「面白い試合ができそうだな」

 鳴木が黒田に声をかけていた

「おぉ、眠り姫でも賭けるか?」

「賭で動かせるようなものじゃないだろ?」

「へー、……じゃぁ、動けばもらっていいんだ?」

「絶対渡さない、勝つよウチが」

 妙にきっぱりそう言うと鳴木はチームメイトの方に走っていった

「おもしれぇ! 俺クラスの奴のところに行ってくる! 作戦練らねーと」

 すると、黒田までそんな事を言ってクラスの皆の方へ駆けて行ったんだけど

「うわぁ! 凄いね! サヤ」

 キラキラした目で隣のみーのに見つめられて首をかしげてしまう。


「体育館が煩くて良く聞こえなかったけど、妙に気合が入ってるねぇ~? 良い試合が見れそうだ」

「サヤって、本当に昔からそうだよね……」


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