誰が、誰の彼女だって?
「誰が、誰の彼女だって?」
背中に掛かる低い声にぎくりとしつつ
「だって、終わらなそうだったから……」
やっぱ怒っているかと、振り向く。
けれど、視界に入る眉間に皺を刻んだ不機嫌な彼を見て、こんな顔をしながらも変装までして付き合ってくれたんだよなと思うと、本当に悪かったなって改めて思った。
「本当にこんな事までさせてごめんね、ありがとう」
だから、素直にそんな言葉が出て
「全く……ま、何にせよ、お前が無事でよかった、こんな馬鹿みたいな格好したかいもあったな」
すると、一条はふっと笑顔を見せてくれて、それがまたミラクルに美少女で、私はつい見とれてしまった。
「どんなキラーパスだよ? いきなり妙なこと言い出すな」
笑い混じりで呆れたように言ってくるのは黒田。
「ああ言えば終わるかなって? 受けてくれて助かった」
「んっとに、突拍子もねー奴、おまえに付き合うのは苦労するぜ……ま、黒幕も判ったし、アイツらは多分もう手を出してこないし、ほぼ満点か?」
「メモとかの件は気になるが、元々別口じゃないかとと思ってたしな」
一条もそう答えてくれて、これで終わったかと力が抜けて、思わずさっき一条が座っていたベンチに座ると。
「俺、もう学校でお前を避けるとか馬鹿なこと止めるからな」
鳴木が真っ直ぐに私を見てきっぱりとそう言った
「え?」
完全に気が抜けたところでの鳴木の言葉に思わずぽかんとしてしまう
「目につかないようにしてたってこうやって勘ぐってくる奴はいるし、コソコソしているぶんだけ憶測を加速させるだけだ、女子の風当たりがきついのだって、いっそ俺達がそばに居るほうが言い出しにくいに決まってるだろ? そもそも俺達巻き込むのに何故そんなに怯えるんだ? 日比谷や手塚を巻き込むことを嫌がるのはまだ判るが、俺達に女子が攻撃なんてしてないだろ?」
けれど、その言葉が漸く理解出来ればやはり頷くことは出来ない
「普通に噂が立つことだって迷惑でしょう? 例えば鳴木の好きな子がそれを信じちゃったらどうするの?」
困るでしょう? と言ったら
「無いな、それは、第一人の感情を勝手に決め付けるな、なんだあの可愛かったのに? とか、こんな事してくる女との付き合うことを断るのなんて、当たり前だろ」
そう言われてグッと詰まる。
確かに……って思わなくも無い。
「……顔が良ければいいのか? じゃ、俺が付き合えと言ったら断るのは勿体無いよな?」
美少女モードの一条まで微妙に怖い顔で言い募るから
「ごめんなさい、有り得なかったです」
謝ったら、ふうってひときわ大きな溜め息を一条はついて
「こんな時だけは素直なんだな」
なんて、苦笑いしている。
「ま、でも妥当だと思うぜ? おまえ、一学期の頃遠巻きにされてた俺相手にも、近づくの躊躇ってなかった癖に、自分には来るなってどうよ?」
「それは、だって! 黒田はそんなんじゃ無いって知ってたし」
「鳴木達だって同じだ、だろ? おまえが噂に流れているような奴じゃ無いって誰より知っているのに、今のままじゃこいつらは反論することすら出来ねぇ、それって辛いぞ? それ位なら、俺が選んで側に居る奴に文句言うなって言わせてやれ」
黒田の言葉に、正直言葉を失った。
本当に、私は余裕がなかったのかもしれない……周囲の私を心配してくれる想い、助けてくれようと差し伸べてくれる手、話せば判ってくれたかもしれない人々。
せめて、私を認めてくれて、側に居てくれる人だけは巻き込みたくないと思っていたけれど、その外側で歯がゆい思いをさせていたのかもしれない?
「俺が側に居れば嫌な思いはさせるかもしれない、だが、関係性をはっきりさせれば俺の事に口を出すなと牽制することは出来る」
「さっきみたいな言葉を言われても、今の俺は嘘は付きたくないから、ノーコメントを通すことしか出来ない、でも、もうそれはしたくないんだ」
二人の言葉にさっき鳴木が彼女たちの質問を流していたのはそう言う意味もあったのかと知る
「それでも……俺たちと居るのは嫌か?」
鳴木の私を気遣う優しい声音は、けれどどこか必死にも聞こえて、こんな風に側にいてくれようとする気持ちを無碍になんてとても出来なくて。
「面倒は増えるよ?」
だけど、いつも私をからかってばかりの鳴木のこんな真っ直ぐな視線を受け止めるのには慣れてなくて、返せる言葉は可愛げは無いのに
「慣れてる、今更だろ?」
「だから、……居させろよ」
全然引かない二人に、女子の視線が怖くなりそうだ、とは思いつつ、頷くことしか出来なかった。
紗綾トラブル編はこれで終わりです。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
二学期エピソードはまだ続きます
引き続き今後とも宜しくお願い致します。
又、いつも読んで下さる方、拍手を下さる方、本当にありがとうございます。
この辺りのストーリーは書き慣れない部分も有り、試行錯誤の中とても励みになりました。
今後とも楽しんで頂けるよう頑張りたいと思います。