やっぱ、お前らか……
程なく目的地に着き、目の前に大きなショッピングセンターの入り口が見えると、彼らはそこはくぐらず、噴水と芝生に囲まれた前庭のようなスペースへと方向を変えた。
その公園のような一角の端には東屋のような物があり、どうやらここが待ち合わせの場所のようだ。
「少し早く着いちゃったかな? ここ、座ってて」
そう笑顔を見せる水越君に一条は少し躊躇ったようだけれど、彼らとは少し距離を開けて立つ私をちらりと見て、一つ溜め息を付くと(当たり前だけど)一言も口をきかないまますとんと備え付けのベンチに腰を下ろした。
暫く待っていると向こうから、女の子が来るのが見えて……やっぱり、それはあの家庭科室で話しかけてきた二人だった。
東屋に着いて、私を見つけるとこちらを睨みながら立ち止まり
「何で、あんた達こいつ連れてくるのよ、絶対落としてみせるって自信満々だったじゃない!」
「ちゃんとお願い聞いてくれないならもう会ってあげないから」
口々に言い募る言葉に、やっぱりそういう事だったかと思う。
「いいよ、別に、もっと可愛い子見つけたから」
けれど、水越君はそう言って一条に眼を向けるのに、二人も視線を移して絶句する。
まぁ、容姿に自信ある子ほど衝撃受けるよねぇ……と、固まる様子を見ていると、その私達の居る東屋の奥にある駐車場スペースに止めてあった大型のバンの影から鳴木と黒田が出て来た。
「やっぱ、お前らか……」
こちらに歩いてくる鳴木と黒田に一瞬驚いた顔をしたけれど、
「だって、鳴木くん藤堂さんに騙されてるから」
「一条君とか! 他の人とまで噂が立ってるんだよ?」
「第一、全然可愛くないのに、……どうして私達とは付き合ってくれないのに藤堂さんならいいの?」
なんて、今までの不満が吹き出したかのように一生懸命訴えている。
けれど鳴木はそれらの答えは、聞こえないかの様に流したまま
「こいつに手紙を出したのおまえ達か?」
それだけを聞いて居て、そんな取りつく島も無い鳴木に悔しげに頷く彼女達。
ただ、水浸しのメモとか、机に土入れたりしたかと聞くと、本当かは分からないがそんなことはしていないと首を振る。
「一体何で……」
鳴木がそう聞くと流石に黙りこんだが、この状況を見れば何を望んでいたかは何となく判る。
きっと、水越君に私が夢中になれば、私を好きに動かせるし、少なくとも鳴木と一条から引き離せると思ったのだろう。
「二度とこいつにおかしなまねをしたら、許さない」
鳴木が睨むと泣きそうな顔をして走り去ろうとする、その背中に黒田が
「再度こんな事があれば、この顛末を噂にしてばらまくからな? 噂の威力、おまえらだって知らない訳じゃ無いだろ?」
追いうちを掛けると、びくりと足を止めて怯えたようにこちらを見る彼女達。
「このまま何もしなけれは、広めない」
そう鳴木が言うとホッとしたように去る後ろ姿に大丈夫そう? と思う。
流石にこんな事を広められたくは無いと思う常識くらいは有ったみたいだ。
さて次は……と、残った男子を見た。
黒田の雰囲気に怯んではいるが、一条を放す気にはれないらしく、彼の隣に立ちその肩に手を止めて引き留めようとしている。
普段の彼であれば即座にはたき落とすだろうけれど、変装中の今はそういうわけにもいかないし、何より触れている肩には数束の髪の毛が掛かっていて、振りほどくのに引っかかればウィッグが取れてしまうかもしれない。
「教えれば紹介するって言っただろう」
「約束は守れよ」
すると、動けないで居る一条に気をよくしたのか、そんなこと言っている。
彼らの隣で、皆川君だけは少し困った顔をして、どっちもどっちなんだから諦めたらどうだ? なんて言ってくれているけれど、聞く耳は持たない様子で。
何だ、おまえまであの妙なのにたらし込まれたのか? なんて言われて居るのに、私とあの時話してたせいかなって少し罪悪感が募る。
だけど、一条の紹介なんて出来る訳も無いし
「確かに彼女たちの事を知りたくて利用した事は認めます、けれど、私はどんな人から紹介されたかも判らない人には紹介出来ないと言っただけですよね?」
「だから、あいつらに会わせただろ? 利用したんなら礼くらいしろよ」
そう言って、やはり外さない一条の肩に乗せられた手。
けれど、彼には例え一条が本当の女の子だとしても、ううん、それなら余計に触れさせたりなんかしたくない。
だから、彼に近づきその手を取る、突然だったから彼も怪訝な顔をしたけど抵抗はしなかったから、髪を引っかけないように丁寧に肩から外すと、漸く一条が立ち上がることが出来た。
そのまま私の後ろに立って貰い、真っ直ぐに水越君を見る
「その事についてはごめんなさい、ですが、彼女たちとの取引で私に声を掛けてきたような人に私の大切な人を紹介なんて出来ません」
そう言いきると、悔しげに私を睨んでくる。
「ほんっとに……聞いてたとおりの生意気な奴だな」
水越君は苛立ちを隠しもせず、けれど一条から離れない視線……
「おい、水越いい加減にしようぜ? 俺たちだってあいつらに踊らされた部分はあるにせよ、褒められた立場じゃ無いだろう」
「うるせーな、おまえ、趣味悪すぎ」
それに、場を納めてくれようと口を出した皆川君に水越君が荒い口調でそんな事を言うのにこれ以上長引かせれば、彼らの仲まで亀裂が走りそうで、流石にそれは目覚めが悪い。
「仕方ないですね、彼女恥ずかしがってあんまり言いたがらないのですが……この子は、あの彼と付き合っているんです、もう良いよ? ごめん我慢させて」
だから、もうそういう事にしてしまおうと背後の黒田を振り向いて、お願いって気持ちで視線を合わせると、黒田は僅かに目元をひくりとさせたけれど、私の突然の言葉にそれ以上動揺は見せず
「こいつに軽々しく触るんじゃねーよ、俺の彼女だ、紹介したからな」
低くそう呟き、彼らを鋭く睨むと、私が押した一条の肩をそのまま引き取って、自分の後ろに置いてくれた。
その様子に水越君と白木君は呑まれたように動きを止めて。
皆川君がもう良いだろうと二人に声を掛けると、漸く諦めたように踵を返してくれたのだけど。
背中に感じる強い視線は多分気のせいでは無さそうで、振り向くには勇気が必要そうだ……。