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紗綾 ~君と歩く季節~   作者: 萌葱
三年生 二学期~
80/117

俺は今すごく機嫌が悪い、おかしな事言うなよ?

 こんな美少女見たこと無い。

 ……思わず、ため息をついて見とれてしまった。


 黒い真っ直ぐなストレートの髪、長いまつげに縁取られた吸い込まれそうな瞳に、すっと通った鼻筋と薔薇の花弁のような唇。

 この顔が微笑んでくれたら、男の子は何でもしちゃうんじゃないだろうか?

 ――今は最高に不機嫌な顔だけれども。


「藤堂? 俺は今すごく機嫌が悪い、おかしな事言うなよ?」

 そして、その花びらのような唇から紡ぎ出されるのは艶のある低音。

 釘を刺すように鋭い声は、眉間に皺を寄せて私に何か言う時と同じ聞き慣れた声なのだけれど。

 ……いつもはキツめな、どちらかというと釣り上がって見える目元は、少し下がり気味の優しげな輪郭になっており、目尻にほくろまで付いている。

 元々端正な顔をしているけれどそのキツめの瞳を和らげると、甘さと凛とした部分が複雑に絡み合い一条の元の顔とは全く違う雰囲気になる。


 これだけ違うのに、ぱっと見お化粧をしているとは思えない。

「肌が綺麗だからベースは薄めだし、メイクは基本的には目の錯覚を利用するから、如何にも化粧しました、なんていうのは駄目なんだよ」

 って成海くんは言っていたけど、色々な色を一条の顔に重ねていたのを見て居る私は、ただただ感心するしか無かった。


「念願は叶ったけれど、……この年で最高傑作作るってのも寂しい気がするね」

 目の前の美少女を創り上げた成海君は複雑な気分だ、なんて溜め息を付いている。

「礼は言う……だが、誰かに言ったり、この状況を保存した何かが見つかったら只では済まさないからな?」

「はいはいはい、今回も極秘任務なんだろ? 僕は十分に腕が振るえれば満足だから」

 


 香織の提案に思いっきり引きつった一条だったが、見ていて意外なほどすんなり引き受けた。

 とは言え、演劇部でこれをやると、部室から学校を出るまでの間に先生にでも見つかったらえらい事になるので、成海君の自宅を使わせてもらうと言う話になり、……成海君も不在のままそんな話を進めて行く香織に良いの? って言ったら、自信たっぷりに大丈夫なんて言って、ね? っと一条を見て笑うのに、断りはしないだろうなんて嫌そうに答えた。


「どういうこと?」

「最高の素材だなんて、あいつ、前から俺にメイクさせろなんて言って来てるんだ」

「拓人なら、一条君メイク出来るなら二つ返事だよ、ことある事に腕が疼くなんて言っているし、……ま、紗綾の髪も楽しんだみたいだけどね」

「そ、そうなんだ」

 一条の手持ちのブラシにも驚いたけど、成海君がそんな願いを持って居る事を知り……世の中にはいろいろな人が居るなとしみじみ思った。


「時間だ、行こう」

 お姉さんの物だと言う見慣れない制服を着て外に出る一条に、成海君のうちの前で待っていた鳴木と黒田が目を見開いたけれど、ひと目でわかる不機嫌オーラに賢明にも感想は言わなかった。



 公園を目の前にしてゴクリと唾を飲む。

 今までも男子に絡まれたり囲まれたりはしたけれど、相手も目的もわからないと言うのは流石に始めてで、この場に居て初めて得体が知れない相手と正面から対峙すると言う事は怖いことなんだと知った。

 横に一条が居てくれるから、こうして居られるけれど、緊張して体が強ばるのは判る。

 これで、一人だったらって思うと……

「一条、ありがとう」

「なんだ?」

「一人じゃ怖くて帰ってたかも、やっぱり緊張するね」

 一条は心配そうにこちらを見た

「帰るか?」

「ううん、一条も、それに今は見えないけれど鳴木と黒田も居てくれるから」

 そう答えると、神々しいほどの美少女スマイルを見せて

「行くぞ」

 公園に向かって足を踏み出した。

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