いっそ乗ってみるか
「だからね……赤ちゃんができましたって花言葉」
その言葉に、案の定鳴木も一条も吹き出す。
……緊迫した話だと思うから余計にだよねぇ。
手紙は読んでもらうけれど、花言葉の意味までは割愛で良いかと思って居たら
「ちゃんとそこまで伝えろよ、勿体無い」
なんて、黒田がニヤリと笑う。
勿体無いって……楽しむ様な事? とは、思ったけれど、手紙を手渡した時の二人の固い表情に、それも良いかと要望に答えて見た。
「お、まえ……いつ、子供作らせ……たんだ?」
鳴木が息も絶え絶えにそう言う横で、一条は口元を手で隠して顔を背けて居るけど、震える肩に笑っているのが判る。
まぁ、それだけ楽しんでもらえば、手紙も本望だろう。
……意図した反応じゃ無いかもだけど。
「そういや、もう一個話があるって言ってなかったか?」
さすがに二度目なので二人ほどには爆発力のない黒田は、満足気に笑う二人を見ていたけれど、ふと思いついた様に私を見る。
「うん、それなんだけどね、犯人がわかったかもしれない……少なくとも関連はあると思う」
答えると、二人から笑顔が消えたのを少し残念に思いつつ
「何があった?」
こちらを見つめる三人に今日家庭科室であった出来事を話した。
「何というか……自爆?」
「手塚が一緒ならそいつが誰だか判るんだろ?」
「うん、香織は知ってた、えと、E組の関さんと倉橋さん……だったかな」
そう言った途端、一条と鳴木の顔色を変えた
「あの二人か……」
「何か有ったのか?」
「前に、付き合ってくれって言われた、俺は関に、鳴木は倉橋に」
「で?」
「聞くまでもないだろ、断った」
「……可愛かったけどなぁ」
ぱっと、目を引く彼女達を思い出し、相変わらずの人気でも特定の相手を作らない彼らに、一体どんな子ならokなのかなぁ? って、思いながら小さな声でつぶやくと一条と鳴木に思いっきり睨まれた。
「俺達くらいのが二、三人って言ってたよな? いっそ乗ってみるか……この前は藤堂も居るし黒田一人だし逃げて正解だと思うけど、話の持って行きようでは、あいつらのとの関係も聞けるかも知れないし」
けれど、鳴木は何か言いかけた口を閉じると、思い切る様に私から視線を逸らして黒田に向けてそんな事を言い出した。
「いいな、それ、シンプルで、じゃ、明日詰めようぜ? ……っと、帰る前に場所決めとかねーと、か」
黒田の言葉にそう言えばと思い出す
「香織が明日は当番だから生徒会で相談したらって言ってくれてたんだ、そこでどう?」
うちの生徒会は特に行事が無い時も役員が交代で生徒会室に常駐して居る。
生徒会へ個別に用事がある生徒の話を聞くためのシステムで、副会長である香織の当番は明日なんだ。
「おまえの友達って、おまえ以外は本当にしっかりしているよな……」
今日塾で話をすると言ったら即座に場所の提供を言い出してくれた香織に関する評価は文句無しに同意だけど、私に関しては明らかに余計な黒田の一言。
そんな事ないって口を開き掛けたけど、……それより早く、鳴木と一条までが深くうなずくのに、その先を続けることは諦める事にした。
「おつかれ、相変わらず見事な采配」
生徒会室の中でもパーテーションで区切られた一角で話していたから、内容は聞こえなかったけれど、泣きそうになって生徒会室に来た一年生が嬉しげな笑顔でそこから出て来たのを見て、相談者を見送って戻って来た香織を労うと
「ありがと、紗綾の素直なとこ好きよ~」
私にぎゅっと抱きつき、そのまま
「どうなった?」
周りを見回す。
「平行線」
すると、疲れたように鳴木が私を見る。
「俺たちが予定時間に行って、そいつら捕まえて話を聞くって言ってるのに」
「私が最初に行くよ、じゃないと本当にそうか分からないじゃない? 私に来たら、みんなが出てきたらいいと思う」
「だから、それは危ねぇって……」
「でも、逃げられちゃったら終わりだよ!」
別に再現する気は無かったけれど、気がつけば結局そんなやり取りを繰り返してしまっていると
――パンッ!
「香織?」
「平行線は判った、まとめよう」
両手を叩いたらしい香織が柔らかく、けれど、有無を言わさない口調でキッパリと言い切った。
「……確かに紗綾の作戦のほうが成功率が高い」
「おい」
「睨まないでよ、先があるって、紗綾が一人じゃなければいいんじゃない?」
「俺たちのうちの誰かがってことか?」
「それじゃ意味が無い、逃げられるかも、でも女の子二人なら良いと思わない?」
「お前か日比谷か?」
「や、だよ? 優樹や香織まきこむのは絶対嫌!」
開始早々真っ先に却下した案を今度は香織が言い出すけれど、それだけは認められない
「さっき日比谷が付き添うと言ったら、藤堂がすごい勢いで反対した、それに一人よりは安心だが、それでもいざって時に男の力には勝てないぞ」
それを見ていた鳴木が言葉を加えるのに、香織は微笑んで、私も構わないんだけどね、と言いながら
「でも、それより成功率が高い方法がある」
すっと人差し指を立てた。
「なんだ?」
「男の子が女の子になればどう?」
その指先をちょんって揺らすと、そう言って一条を見た。