まさか、そのバラって大輪?
家庭科室で隣の香織と話しながら裁縫道具を纏めていたら、次の授業の生徒がパラバラと入ってきた。
すると、その中から何となく見覚えはあるけれど名前はよく知らない女子が二人私の方に向かって来る
「ねっ、藤堂さん、今日私気になるものをみちゃったんだよね」
「朝、下駄箱のそばでうろうろしている男子がいたんだ、藤堂さんの事気になるのかもよ? 何かあったんじゃない?」
彼女達が、親し気に話しかけてくる内容は、その笑顔とあいまってあまりに胡散臭い。
そうは思ったけど手掛かりかもしれないと顔には出さない様にして
「特に心当たりは無いけど?」
当たり障りのない答を返すも……とっさだったためあまり上手いとぼけ方とはいえないなと我ながら思う
「え~、絶対何か訳ありげたったよ?」
そんな私をどう思ったのか、念を押す様にそう重ねるのに、言いたい言葉は喉元まで出ていたが、似た様な顔をした香織と視線を合わせて飲み込むと、丁度響いた予鈴の音に教室を移動しなければと断って連れ立って廊下に出た。
「今の子何組の誰だか判る?」
「E組の関さんと倉橋さんだね」
「可愛い子達だったねぇ……」
「紗綾?」
第一印象を素直に口にすると、正気を疑うような顔で私を見る香織
「いや、本当にそう思っただけ、けどあれが犯人だって思っていいのかな?」
「どう考えても、朝のアレに信憑性持たそうとして自爆してる気がするね……」
今朝下駄箱を開けたら、手紙と大きなピンクのバラが入っていた。
『 藤堂紗綾 様
なぜ、僕の気持ちを分かってくれないのですか?
このバラの花言葉を君に捧げます
一度でいいのです
日曜日の十五時に桜塚公園の広場で待っています
君を愛するものより』
バラは取り敢えず次の休み時間にでも美術室でバケツにでも置きに行けば良いかと下駄箱にしまって置いて、手紙だけ持って教室に行き、優樹に三通目と言って手紙を渡した。
「今回はバラつきだったよピンクの」
「まさか、そのバラって大輪?」
そう言って私を見るのに、頷いたとたん優樹は派手に吹き出した。
普段物静かな彼女なのでクラスの人が吃驚している。
「気持ちはわかる、私も吹き出しそうになるの抑えるの大変だった」
「ぴ……ぴんくの……バラ、駄目……死ぬかもっ」
目の前で笑い転げる親友を見つめながら、私が下駄箱でこうならないで良かったとクラスメイトの視線を感じながらしみじみ思った。
「朝から楽しそうだな、どうした?」
「おはよ黒田、ん~? どっちかというと悪いニュースなんだけどね……ほら、これ」
そういって、黒田に三通目の手紙を渡すとざっと目を通し
「日曜日って、とうとう休日かよ? 向こうも必死だな……だが、この手紙の何処に日比谷がこんなになる要素があるんだ? ヤバい目にあったばっかりだってのに」
少し咎めるような目で優樹を見るのに気がついて黒田にも解説することにする
「読んだ? それ、ピンクのバラ付きだったんだけど……花言葉何だかしってる?」
「知ってるわけねーだろ、大方愛とか、恋とかそーゆーのじゃねぇの?」
「この前ね、花言葉が一杯出てくるミステリーを読んだんだけど、一般的な認識は黒田ので合ってると思う、愛とか恋とか……これを送った子の認識もそれだと思うんだけど、薔薇ってね細かく言うと色によって意味が違うんだ、大輪のピンクの薔薇にはそれ固有の意味もあって……それが、赤ちゃんができました」
「あ?」
「花言葉、赤ちゃんができました」
私の言葉を理解した途端、黒田も激しく吹き出し、更にざわつく教室。
「笑うよねぇ……すっっごい大好きな小説なのに、私二度とあの小説で感動できない気がするよ」
家庭科で裁縫をしながら香織にもその話をしたら、辛うじて噴きだすのは堪えたものの、指を針で指し恨みがましげな目で見られた
「だから、正気では居られないから後にしようっていったのに……」
忠告はしたし、睨まれるのはおかしいと抗議をしたら
「今までの流れで、笑いをこらえないといけなくなる話だと思うわけ無いでしょう」
と、怒られたのだった。
廊下を歩きながら、小声でさっきの出来事を振り返る。
手がかりらしきものと思えば、解決への一歩前進かもしれないけれど、あまりにあからさま過ぎない? と香織に言うと
「でも、今までの流れを考えても、相手は相当お馬鹿だよ? これが確実と思ってもありかもね」
頭痛がするかのようにこめかみを人差し指でつつきながら、口にするのは辛辣な感想。
けれど、今回の一連の手紙がどこか間が抜けていると感じるのは事実。
一通目目の平安のしきたりを模した手紙といい、今回添えられていたピンクの大輪のバラの固有の花言葉を恐らくは調べずに薔薇と言う事で選んだその行動。
どうも、短絡的というか考えの浅さが透けて見えて、だったらこれだけ判りやすいしっぽの掴ませ方もするのかもしれない?
そう言ったら、香織にはあんたの方が辛辣だと言われてしまった。
教室に戻ると黒田が近くに来て
「さっきの授業の後で鳴木と一条に会ったから手紙が来たって言っといた、今回の呼び出しはまだ先だし、塾の後でも話そうぜって事になったけど良いよな?」
「ありがとう、こっちでも進展は有ったというか……なんだけど、まぁ、急ぐ話じゃないし、一緒にその時に話すね」
答えながら、Eって二人のクラスだということに今更気がついたのだった。
あけましておめでとうございます。
忙しい年末年始を終えまして、戻ってくることが出来ました。
ですが、この先暫く予定てんこ盛りの日々が決定しまして、稀に一回お休みを頂くこととかがありそうなのですが、極力通常通りのペースで先を書いていきたいと思います。
前回の後書きにも書きましたが、今年は兎に角このお話を完結させることに向けて頑張って行きたいと思います。
新しい年も彼ら共々宜しくお願い致します。