じゃぁ、私の後ろは?
「今日はどうだ?」
鞄を肩に掛けながら、鳴木が聞いてくるのに
「変わった話はないけど香織によると噂は広まっているらしいし、気のせいかもだけど女子からの視線の棘が当社比1.5倍って感じるかな~、まぁ、最近平和だったから平和ボケしてるだけかも」
心配を掛けるからって黙っているのは止めて、感じたことは正直に、でも極力重く取られないように返すと
「平和ボケって……なにも無いのが普通なんじゃ無いのか?」
呆れたように黒田が私を見る
「あはは、そうなんだけどね~……」
けれど、少なくとも私の中学校生活の『普通』はトラブル成分多めの方だよなぁ……ってこっそり思う。
「特に変わりが無いなら良い」
帰るぞ、そう言って、再度駅へ向かうのにビルに入ろうとする一条に
「今日も乗ってくか? 結構遅くなったし駅まで回り込むのは遠いだろ?」
鳴木が声を掛けた
「ありがたいが、お前の後ろは短時間ならいいが流石に長時間は支えが短いしキツイ、このまえは仕方なかったが、今日は遠慮しておく」
そう一条は答えるのに、鳴木はそうかと言って自分の自転車のところに向かっていった。
「俺のでどうだ? と言いたいところだけど、この前重い奴乗せたら曲がっちまったんだよなぁ~」
「来るときに、自転車をポールにぶつけてたからじゃない、やなこと言わないでよね、……ねぇ、ちょっとくらいなら鳴木の後ろで大丈夫なの?」
黒田に訂正を求めつつ、一条に聞いてみる
「ん? ああ、短い間なら、……なぜだ?」
「じゃぁ、私の後ろは? 一条私と背同じくらいだよね? ってことはよく載せてる従兄弟と同じくらいだし、……大丈夫、上手いよ私? 分かれ道から鳴木に変わって貰えばいいと思うんだ、どかな?」
「っ!? そんなこと出来るわけないだろ、大体普通逆だ」
「私が後ろでもいいけど、一条、二人乗りというか自転車もあまり乗ってないでしょう? 私はしょっちゅう従兄弟載せてるし、たぶん同じくらいの体格だと思うんだ」
何故か異様に驚く一条の横で、黒田が本気か? なんてあきれ顔をするのに頷くと
「確かに荒唐無稽だが、……ま、本人言い出したことなら出来ないわけじゃないんじゃないか? あんまり遅くなりすぎるとまずいだろうし」
と苦笑しながら薦めている? けれど
「ありえない……」
と、まるで聞いているフシがない。
そんな一条を、やっぱり女の子の後ろとかってのはプライドの高そうな一条には無理な提案だったかと、謝るべきかなって見つめていると、ふと何かを思い出したようにまじまじと私を見た
「お前はいいのか?」
「ん? だから良いって言ってるじゃん」
何を今更と笑うと彼も、ほぉ、……なんて少し含みの有る笑みを見せて
「おまえ、絶対こけるなよ?」
と、言いながら後ろの支えに足を載せて、肩に手をおいた。
何故気が変わったかは分からないけれど、乗って行くというのなら否やはない
「任せて」
そう言って漕ぎ出す。
うん、コレくらいなら大丈夫、黒田ぐらい背が高いとちょっと無理かもと思うけれど、一条の体格はよく後ろに乗ってくる従兄弟と同じくらい。
順調に走りだした私を見て鳴木は吃驚した顔をして
「大丈夫なのか?」
と呆れてた。
「うわ……本当に走ってるよ、中々見れない図だ」
そう言って、少し前を走りだしたのは黒田
言葉に引っかかりはするが、先の方の確認に行ってくれたみたいだし……まぁ、よしとしよう。
「おまえ、ジンクスはいいのか?」
道は順調でペダルも軽やか、気持ちいいなぁ、なんて思ってたら背中から声がした
「ん? あぁ。例の後部座席の? 大丈夫だよ、好きな人なんて居ないもん、でもさ……あのジンクスって同性だとどうなんだろ? そう言えば、この前鳴木の後ろに一条が乗ってたけど……恋が芽生えたりするのかなぁ?」
「気色の悪い事を言うな! 第一あのジンクスは乗った二人の問題ではなく、意中の相手以外だと敗れるって意味だろうが」
「まぁね……あっ! ごめん、さっきはそこまで考えてなかったけど、これって一条の好きな人は怒っちゃうかなぁ?」
やっぱ気にしちゃう? って恐る恐る口にすると、肩に載せられた手に力が入って、少し重くなった気がした。
「俺に好きな人? ……なんでそう思う?」
「だって、ジンクスのこととか聞いてくるから、私もこの前黒田に乗せてもらったときに思い出して焦ったけど、あの時はみのりが彼女だと思ってたからだし」
「違うのか?」
驚いたように言う一条に
「そう思うよね~、でも、違うらしいよ、身内みたいなもんだって」
答えながらあまり人の話を勝手にするのも良くないか、と話を戻す
「一条の好きな人か、どんな人だろ? きっと綺麗だろうなぁ、付き合ってるの? あああ! ……私のことで怒ってない? 噂ちゃんと否定している?」
「落ち着け、俺を落とす気か? 彼女も居ないし好きな奴は……ノーコメントだ」
「えー」
「えーじゃない、別にお前に教える義務なんて無いだろう」
「むぅ……」
そう言われ、確かにと返す言葉がなく黙る私に
「馬鹿で天然……」
背中からそんな言葉が聞こえた。
「え?」
「そんな奴なら面白い、かもな?」
「ずいぶん変わった趣味だねぇ?」
思わずそう答えたら。
「全くだ……」
と、私の言葉に答えた声は。
……何故かとても疲れているように聞こえた。
明日から、PC前に居られないので少し早いのですが、このお話をUPして今年の締めとさせていただきたいと思います。
その後は七日月曜日を予定しております。
本年は大ボケの本編削除など色々ありましたがここまでお付き合いいただきまして本当に! ありがとうございました。
来年からもひとまずこのお話完結に向けて頑張って行きたいと思っておりますのでよろしくお願い致します。
また、予定通り拍手ネタを本日からクリスマスネタから今回のお話別視点に変更します。
彼は何故気分を変えたのかというあたりを楽しんでいただければと思っております。
今年一年、お付き合いいただきましてありがとうございました。
来年も引き続き頑張りますのでよろしくお願い致します。