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紗綾 ~君と歩く季節~   作者: 萌葱
三年生 二学期~
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なんでそんなの出来るんだ?

「今の時点では出来ることは自衛、しか無いか?」

 鳴木はそう言って、手元にあるメモをパサリと机に置き

「確かに、あの手紙もこのメモも、犯人捜しの材料としては弱い」

 腕を組む一条はそのメモを睨み付けるような強い瞳で見つめていて

「そうだな……校内でってことはないだろうけど、極力外行くときは誰かと居たほうがいい」

 黒田はそれを纏めて掴むと、見てるとムカつくし、捨てるのがマズいなら俺が預かる、なんて、私の目から隠すように自分の鞄にしまいこんでしまった。

 

「出歩くと言っても、普段は近所の商店街と学校と塾くらいだよ?」

 お母さんにお使いを頼まれたり、本を買いに行ったりって近所の商店街にはよく行くけれど、小さい頃からずっと通っている場所だから殆どのお店の人は顔見知りだし、何より家からは歩いて五分。

 そこで足りない買い物とかは基本家族と行くし…… 

「問題は塾じゃねぇ? 行く途中にあいつらに会ったらシャレになんねーだろ?」

 そんな、黒田の言葉に

「明るい時間だし大通り選べば大丈夫」

 大げさだよと言うと

「おまえは何故そう脳天気なんだ?」

 鳴木が呆れたように私を見た。


「俺と電車にすればどうだ? 駅で待ち合わせるか、家まで迎えに行っても良いが……」

 すると、一条がとんでもないことを言い出すからぎょっとする

「今更、電車に戻すとかはママに話さなければいけないし、それに、それこそどんな噂になるか分からないよ!」

 想像しただけでどんなやっかい事になるかと身震いしながらそう言ったら、一条は不機嫌そうな顔をして黙った。


「帰りは最近はいつも三人だし、行きもいつものところで待ち合わせれば大丈夫だろ?」

「ま、それが妥当だとは思うが、ただ、帰りはともかく行きだと結構人がいるんだよな」

「人通りがあるのは安全上は良いが、見つかってこれ以上どうこう言われるのは面倒じゃね?」

 確かに、噂が広まった原因の一つに、夏休みの塾の一緒に帰る姿を見て居た人が居たらしいことは香織から聞いている、

「現状でこれ以上噂が広まるのもやっかいか、……ちょっと待ってろ」

 そう言って一条は部室を出て行った。


「これ、髪、崩していいか?」

 程なく戻ってきた一条は、ドライヤーと霧吹きとブラシなんかを手に持って居て、そんな事を聞いてくるのに頷きつつ

「どうしたの、それ?」

 って聞いたら、演劇部で借りて来たと答えてくれながら、私の後ろに回りあっという間に髪をほどくと、今度はすっすっと少しずつ髪をとっては編んでいく気配がする。


 ほんの三分ほど、前髪は成海君がやってくれたままで、今度は髪を一本に纏め編み込みにして後ろで纏めている。

 普通に後ろ一本の三つ編みにするのとは違い、編み込んであるから癖が分かりにくくなるのにこんな方法もあるのかって思う

「へぇ、結構雰囲気変わるもんだな」

 感心したように黒田がいうのに

「藤堂は、もともとの髪のイメージが強いしな、当分塾にはこの髪型で行けばどうだ? ……、毎回こんなストレートにするのは無理だが、編みこみ位なら練習すれば出来るだろ? 教えてやるから覚えろ、……前髪だけはブローすればいい」

 そんな事を言いながら前髪を取られて霧吹きで水を吹きかけられ、とたん癖が出てくる髪に少しがっかりしていると、大ぶりの丸い回転するブラシを持って

「良く見とけ」

 と鏡越しに目を合わせられる。


 そうやって、ブラシで前髪を取り、伸ばしながらドライアーの風を当てて伸ばしていく、すると、不思議なことに前髪がまっすぐになった!

「すごいねぇ~」

「俺の姉なんて小学校の時からやってる、俺からすればやったことが無い方に驚く……いいから半分自分でやってみろ」

 ほら、とブラシを渡された。

 そうやって、見よう見まねで背中に立つ一条に教えられつつ前髪を伸ばしていくと

「うん、まぁ、悪くはないな、後は家で数回練習すれば上手くなるだろ」

 じゃ、次は編みこみだ、と言って折角結んだ髪を解いていった。


「あう、指がつるよ? これ」

「おまえ、三つ編みは見ないでできるんだから大丈夫、ストレートは絡みにくいが、癖毛はもっとやりやすいから」

 根気よく、髪の取り方と指の順番を教えてくれるのに集中して居ると

「しかし一条、なんでそんなの出来るんだ?」

 訝しげに黒田が言うのに、私もそれは不思議だったので鏡越しに一条を見る

「姉のをやらされることが多かったんだ、……小さい頃はおもちゃにもされたし」

 すると、余り言いたくはなさげに、けれど私と黒田の視線に負けたように答えた内容に納得して、同時にしみじみ思う。

 確かにこれだけ整った顔である、小さい頃はさぞや……

「ああ! 可愛かっただろうな~、ちょっと見てみたいかも……」

 端正な作りの顔で、けれど幼子特有の愛らしさで、多分不本意で少し拗ね気味の小さな一条を想像して、思わず呟いたら。

 ……鏡越しにぎろっと睨まれた。



ここまで読んで頂き有り難うございました。


今日はクリスマスイブと言う事で急遽クリスマス短編を拍手お礼の方にupしました。


三年生のクリスマスはきっちり本編に書き込んでいるため、クリスマス拍手は無理かなと思っていたんですが、二年生の時の鳴木との一コマを思いつき一気に仕上げました。


少し過去の彼らを懐かしく楽しんで頂けましたら嬉しいです。

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