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紗綾 ~君と歩く季節~   作者: 萌葱
三年生 二学期~
71/117

……どうしたんだそれ?

 

「お~、ふっわふわ、一回さわってみたかったんだよねぇ……」


 授業が終わるなり私の所に来て、少し時間が掛かるから早く行ってと掃除当番を代わってくれた香織。

 悪いよって言ったんだけど、今日は会議で話し合いには参加出来ないから、これくらいはね、とかいいながら早く! と背中を押されるままに演劇部に行くと、香織の幼馴染だと言う成海君と後輩らしい女子生徒が二人居た。


 先に着替えたほうがいいねと促されて、奥の小部屋を借りジャージになって戻ると、彼は私の髪をほどいてぐるっとまわりを一周しながら楽しげにそう言って、私の髪を手のひらに取った。


「やっぱ藤堂さんといえばこの感じだねぇ」

 そして、丁寧に細くて絡みやすい私の髪をブラシでといてくれながら

「逆に言えば、この髪の毛を一見まっすぐにすれば、君とは思われない……ロングじゃ無ければ尚いいな」

 なんて言い出す

「ええっ? 髪切らないと駄目? まとめられなくなっちゃう」

「そう見えるようにするだけ、いちばん外側だけ軽く段入っているのを生かせると思う、切らないから安心して」

 鮮やかにウインクしながら微笑む、男子なのに美人さんと言いたくなるような成海君。

 だけどその柔らかな瞳には自信の篭もった強い光があって

「よろしくお願いします」

 大人しく全てを任せる事にした。


「こんなもんかな?」

 最初に髪の毛を外側だけ上のほうで止めると、流れている下の髪を二つに分けて編みつつ、頭の形に沿わせてピンで止めた。

 その後上の方に止めておいた髪を降ろしてブローしてまっすぐにして流す。

 なんて作業を説明しながらしてくれているんだけれど、鏡は出来てからのお楽しみとまだ見せて貰っていないからどうなって居るのかはいまいち想像が付かない。

「ちょっと前髪やるから、念のため目をつむって?」

「あ、うん」


「良いよ、どう思う?」

 そう言われて目を開けると、大きめの鏡が目の前に置いてあって、そこに映る姿に正直吃驚した。

 そこには肩に触れるくらいでまっすぐな髪を髪を切りそろえたように見える私が居て、いつも波打つような形の前髪も眉毛の下辺りに真っすぐに伸びて、うねりがない分少し長すぎる為か片側をピンで留めてあって……はっきり言って自分で見ても自分だとは思えなかった。

「髪型だけで、こんなに変わるんだ……」

 思わず呟くと

「君は元々イメージが固定されがちだから、変化もさせやすいよね?」

 大したことじゃ無いなんて謙遜するけど

「でも、この短時間でこの出来! やっぱり先輩は凄いですよ」

 鏡を持ってきてくれた女生徒は目をキラキラさせているのに、彼の実力が判る。


「何となくの事情は、香織から聞いているからここでのことは心配しないでいいよ、細くて柔らかで猫みたいだ、僕も楽しかった」

 気をつけてと送り出してくれる横で、小道具ですと言って女の子がファイルを渡してくれた。

 ……この格好で体育棟へ向かえば、どこかの女子マネと思ってくれるかな?



 初めて足を踏み入れた体育棟。

 バスケ部や陸上部なんて表示のある部屋が並ぶ中、一番奥の部屋の前に立ちラベルを確認するとサッカー部とあるのに、トントンとノックをすると

「開いてる」

 鳴木の声がしたのでほっとしてドアを開けた。

「失礼します……」

 思わず職員室に行く時みたいな挨拶をして、そういえば初めて勉強会に来た時の鳴木もこんな感じだったなと思いだす。

 別に悪い事をしているって訳でも無いのだけど、自分の普段足を踏み入れない場所というのはこんな風になる物なのかと思いつつ、するりと部室に入って扉を閉めた。


 ん、だけど? ……どうしたんだろう、雰囲気がおかしい。

 部室の中にはもう三人とも揃っていて、部室の中央にあるテーブルの周りに折りたたみの椅子を出して座って居るんだけど、なんだか、黙ってじっとこちらを見ている?

「藤堂なのはわかるが、……どうしたんだそれ」

 戸惑いがちな一条の声に、あ、そっか、……って、自分だって鏡を見て驚いたのに、この髪型に彼らが驚かないはずはないよなって気がついた。


「私がここに来ると悪目立ちするかなって相談したら、演劇部が協力してくれたの」

「すげー! 変わるもんだな、確かに遠目だとお前だって見えねぇ」

「私もそう思う、成海くんて凄い人だね」

 感心する黒田の言葉に頷くと、耳元でさらりと髪が頬に落ちる。

 そんな事がいちいち新鮮で少しくすぐったい。


「成海?」

「うん、演劇部のヘアメイク担当で美容師志望なんだって」

「あいつがやったのか?」

 一条は知り合いでもあるのか、成る程な、等と言っている横で

「……んな簡単に、男に髪とか……なよ……」

「ん?」

 鳴木が小さな声でなにか呟いて居たけれど、良く聞こえなくて聞きかえした。

 だけど、鳴木はそれには答えずに、振り切るようになんでも無いなんて首を振ると

「取りあえず座れ、始めるぞ」

 自分の隣の椅子をカタンと引いた。


 

いつもより少し早いのですが、この後少し予定が有るのでupしていきます。


又、再掲の時に拍手のURLも切り替えたのですが、お礼メッセージを直していませんでした。

気がついて直した時に、活動報告には記したのですが、こちらに書くのを忘れていました。

新作では無く、電車での一条とのやりとりの話です。


拍手の切り替えの狭間で見れなかった方がいらっしゃいましたら申し訳ありませんでした。








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