そんなに俺は頼りないか? (side 鳴木)
気がつけば強く握りしめていた拳とかみしめていた奥歯に、自分が怒っているのだと気がつく。
おかしな手紙に呼び出され。無謀にも一人で様子を見に行って、危ない所を日比谷の勘と彼女に頼まれた黒田によって免れたと聞いて、昼間のこいつの行動の理由が判った。
自分を待つかもしれないメンバーの心配はする癖に、自分のことは棚に上げる……こいつの悪い癖、だ。
この手紙は、恐らくは藤堂に何らかの意図を持つ持つ女の仕掛けで、本人もそう思っているのは明らか。
……ならば、自分が巻き込まれた側で有る可能性も高いのに、この後に及んで俺達に話すことすら渋ってみせた姿にいい加減にしろと思う。
……そんなに俺は頼りないか? と口を開いたら責め立ててしまいそうで、だから、一条と黒田が俺の言いたいことを言っているのも有り口をつぐんで居た。
けれど、明日の集合場所の話になり、確かに今は美術室は避けた方が良いと言うのは賛成で、部室を使えと提案した。
完全な個人利用だし、反論も多少は覚悟していたが素直に頷く藤堂に正直ホッとした。
……どうにでも言いくるめる気は有ったが、ここで遠慮なんてされれば、穏やかにそれが出来るかは自信が無かったから。
帰り支度を始めると、公園に寄るという藤堂達に一条も同行を申し出て俺もそのつもりだったから異存も無く、後ろに乗せて走ることにした。
そうして夜風に吹かれながら走っているうちにだんだん頭が冷えて来るのがわかり、すると徐々に怒りよりも、俺があいつのそばに居ることが負担になるんじゃないかって不安がじわりと胸に広がりだす。
本当は俺には藤堂を責める権利なんて無い。
あいつを助けたいと思うのも側に居たいと思うのも俺の勝手で、結局はそんな俺の想いがあいつに余分な敵を作っている部分もあって……。
藤堂は良く気にしているけど、俺は噂になることなんて気にした事は無い。
相手があいつで、それが広まることで当たり前に俺の側に居るようになるのなら、いっそそれを望むくらいだ。
本当の彼氏じゃなくても良い、それでもそんな噂が広まれば、あいつも諦めて俺のそばに居るようになるんじゃないか?
そしたら俺は学校でも普通に一緒に居られるし、守ってやることが出来る、……そんな事を思ったことも有った。
けれど、どうやっても俺を巻き込むことを嫌がるあいつは学校では近寄りもせず、たまに来たかと思えば今日みたいに肝心なことは言ってこない。
「もう、学校では一切近づかなければあいつは平和なのか? だけど、これ以上距離が離れるのは俺は……」
学校での関わりなんて、 勉強会を塾の教室に変えたら、後はひと気の無い廊下ですれ違った時に少し会話をする位、用事が有る時は美術室の窓を校庭からノックして植え込みの陰からあいつに声を掛けるけど、そう長い時間取れるわけもなくいつも要件のみ。
そんな物だって言うのに、未だに一度広まった噂は燻ったままで、あいつを敵視する女の数は少なく無い。
「馬鹿を言うな」
思わす弱音を吐けば、背中を叩くような強さで言葉が戻って来た
「これ以上離れる? 冗談じゃ無い、確かに藤堂は女の敵が多いが、大半は嫉妬混じりのヤッカミだ、俺達が距離をおいて喜ぶのはあいつらだぞ? それこそ、思う壺ってやつだ」
苛立たしげにそう言いながら、
「俺が側に居たい奴は俺が選ぶ、それで辛い目に合うなら本来はこっちに責任を被せれば良いんだ、そんな文句なら幾らでも聞いてやるし、対処だってする……なのに、一人で抱え込むから、……あいつも馬鹿だ」
藤堂の事で感情を揺らすのは珍しくは無いが、それでもこんな風に胸の内を晒すのはこいつにしては珍しくて。
一条も助けを求めない藤堂にもどかしさを感じてるのが判った。
公園の少し手前で自転車を止めた黒田は自転車を取りに行くといって自分の自転車を藤堂に預けて歩き出し、一条も場所の様子を見たいといって黒田に付いていった。
藤堂と二人きりになって思い切って口を開く
「おまえ、今日の質問、確かに今日小テストだとか言ってたけど……違うんだろ?」
今日の昼休み珍しくあいつから声をかけられた。
要件は公式の確認なんかで、それは少し不思議だった。
その対策ならこの前の勉強会でかなりしっかりやっていた筈で、それにあの位の問題なら苦手科目なこいつなら兎も角、今の黒田でも解ける。
……だけど学校では滅多に寄って来ないあいつが俺の隣で笑って居るから、まぁいいか、なんて流した自分が馬鹿だった。
「少し、自信の無いところでは有ったけど本題は違った、休み時間無駄にしちゃったよね……ごめんなさい」
「違う」
「えっ?」
つい、責める色を乗せてしまった俺に藤堂は謝るけれど、その謝罪は何処までも的外れだ
「俺が言いたいのはそんな事じゃない……わざわざ俺を探したのなら、いっそ何しに行くか言ってくれれば良かったんだ、そうすれば着いて行く事だって出来た」
「そんな事頼めないよ!これは私のトラブルだもん」
慌てた様にいう言葉に、どうすればこの壁は消えるのかと苛立つ
「いい加減にしろよ? 友達を大事にしたいって思うのはお前だけじゃないんだぞ?」
だから、本当はあまり使いたくない言葉を言えば漸くあいつはハッとした顔をした。
「それに、『私の』とか言うが、今回の犯人が女子なら、俺たちが迷惑を掛けたかもしれないって分かってるから、黒田は俺たちを呼んだんじゃ無いのか?」
すると、すっと視線を逸らすのに図星かとため息が漏れる。
女子なんて物はは本当に面倒くさい、俺が誰を好きでも関係無い筈なのに妙な噂を立てたり、相応しく無いと勝手な評価を下し挙句その矛先は藤堂に向かう。
結果唯一面倒なんて思った事はなく、いっそそう思うほど頼れば良いと思うこいつは気を使い距離を開ける一方で……。
だけど、きっとこの頑なな程の硬い壁が今までの出来事からこいつの心を守ってもきたんだろう。
もう、そんな意地を張るなと崩したい思いも有るけれど、それは力ずくな強引さでする物でもないって分かって居るから。
「せめて、相談だけはしろ? もし、黒田や日比谷が気を回さず、一人で行ったおまえに何か有ったら、あの伝言を受けた俺はどう思うか、それ位は分かれよ」
これ位の言葉は友達でも許される筈だと、心配を言葉に滲ませれば
「うん……本当にごめんなさい」
流石に思うところは有ったのか、反省をしたように、もう少し慎重になるなんて申し訳なさげに眉を下げるから
「そうしてくれ、ま、慎重なおまえなんて、あんまり想像つかないけどな?」
あまりにしゅんとされるのも見てられなくて、ついいつも通りの軽口を添える俺は、つくづくこいつには弱い。
すると、少し笑って
「もうっ」
なんて言いつつ
「……でも、確かに反論は出来ない?」
なんて続けるのに
――だったら、守らせろよ?
そう言いたくなったけれど、流石にそれは友達の言える言葉ではないよなって、胸の奥に呑み込んだ。
過去拍手を本編とシリーズとして纏め別枠でup開始しました。
先日の本編削除に巻き込まれ消してしまった作品と新規(過去の拍手お礼ですが)一作を置いてありますので、宜しければそちらも合わせて読んで頂けましたら幸いです。




