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紗綾 ~君と歩く季節~   作者: 萌葱
三年生 二学期~
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おまえ、ラブレター貰ったって?

 久しぶりの学校の廊下を歩きながら、こんな風に新学期を楽しみだと思うのは入学式以来かもしれない? って思う。

 少し前なら、またあの日々が始まるのかとうんざりする気持ちを鼓舞してこの廊下を歩いていた。

 だけど今は、教室に行けば周りを気にせずに優樹や香織に会えるし、今日か明日のHRででも席替えはしてしまうだろうけれど、今はまだ隣の席は夏休み中殆ど毎日顔を合わせていた黒田。

 それに、例え席替えをしたとしても、今のクラスには私が隣の席になったからと言ってあからさまに顔を歪ませてくるようなのは居ない。

 

「おはよう、紗綾」

「藤堂、久しぶりだな、少し焼けたか?」

 教室に入るなり普通にかかる声に嬉しくなって、頬を緩ませつつ私の席に向かい、鞄から筆記用具とノートを取り出して机の中に入れようとして……ザラッとした感触に驚き慌てて中を見る。

 何か、黒いものが机の中にある? 取り敢えず雑巾を持って水道へ向かうと黒田とすれ違い

「新学期そうそう掃除かよ? やっぱばーちゃんみてぇ」

 そう笑うのに

「ちょっと埃っぽいみたいでねー」

 と返して教室を出た

 ――まぁ、あれは埃ではなく、土だと思うけどね? 


 それから数日後、下駄箱を開けると手紙が入っていた。

 普通ならラブレター? とかトキメクところなのかもだけれど、微妙にいろいろな嫌がらせの経験がある私はまた呼び出しかとため息をつき、その場でビリビリと破き中身を出した。

「おはよー……何それ?」

「あ、優樹、なんかね、封筒が入ってた、呼び出しかなぁ? それか、あれ? あんたみたいのが一条君に近づかないで! とかのたぐい? でも久々だねこういうの」

「今までのそういうのいって、そんな繊細な封筒で来たっけ?」

 言われてみてみれば透かしが入っているような妙に綺麗な封筒で、その中からは如何にも女性らしいレースの便箋……開いてみると


『 藤堂紗綾 様


  僕は君のことを思うと夜も眠れません

 

  すっと君のことが大好きです


  君と話がしたいのです。


  今日の放課後 桜塚公園の広場で17時半に君を待っています。


                 君を愛するものより 』



「おはよぉ、サヤ! って! なにそれ! ラブレター??」

 盛り上がるみーのに、そう見えるけど多分違う……見て良いよ、と手紙を渡し優樹の方を向く

「何というか、薄い文章だね? ……しかも、こんなコロン臭い手紙書く男子なんて存在するの?」

 封筒をあげた途端広まった、明らかに女性物っぽい甘いコロンの香り

「封筒も男子が使うものとは思えないし、多分いたずらっぽいけど、こんな香りわざと付ける意図が分からないなぁ……」

 女子のたちの悪い悪戯だよねと呟くと、彼女も私に視線を向けて苦笑していた。


「おまえ、ラブレター貰ったって?」

 黒田が教室に入るなりからかうように話しかけてくる

 みーの、……話すなら全部を伝えようよ~、と思いつつ、話すよりも見た方が早いだろうと黒田にも見て良いよ、と手紙を渡した。

 すると、すぐ違和感を感じたらしくなんだこれ? と私を見た

 そりゃそうだろう、好きだと言ってくるわりに気持ちを伝える言葉は定型文のような短い文章、話がしたいって……手紙を出さないと話も出来ない人が私を愛している?

 突っ込みどころが多すぎて、みーのも読んだ後は困った顔をして、行かない方が良いと思うよ? と私を見た。


「世にも珍しい女性物のコロンを振りまきつつ、透かしの封筒レースな便箋に手紙を書く男子からのラブレター? ありがちなところで言えば、私をバカにしようとしている女の子からのお手紙? 大方呼ばれた先にのこのこと出向けば、そこには誰も居なくって、ってパターンか、待ち合わせ場所には女の子が居て、馬鹿じゃ無いの? 自分がモテるとでも思ってるの? とかなんとか言われるパターン?」

「何でおまえ、そんな冷静な……」

「んー、ここまでのは珍しいけれど、わりと慣れてるから」

「どうするんだ?」

「ほっとく、どうせこの時間は塾に向かっているし」

「しかし、コロンか……」

「ん? 何か知っているの?」


 便箋の端をくんって嗅ぎながら呟く黒田を見上げる

「ちょっと流行ってるらしいぜ? この前古文でやっただろ、文に香を焚きしめるとか花を添えるとか、あれ、あの時代は男もやるって言うので一部女子が盛り上がってたとか」

「……男子がそういう手紙を渡すのが流行っているの?」

 流石にそれは気持ちが悪くは無いかと眉を顰めると

「いや? 俺が知ってるのは、付き合うならそんな人が良いって振られた奴を知ってるってだけだが」

「無茶言うねぇ~」

「全くだ、そんな事する男が居ると思うか?」

 苦い顔をしている黒田に、だよねぇ~……って、思う。

 お話の中の夢のような男の子である咲夜だって、手紙にコロンを染みこませたり女性物の便箋を使ったりするような描写は無かった。

 だからその話を聞けば、更にこの手紙はやはり女の子の物としか思えなくて……。

 一部の女子にそんな風潮が有るとすれば、香りやレターセットで雰囲気を出せば私が喜んで出向くとでも思ったんだろうか? ……方法は何だか的外れだと思うけれど、その強引さに何だか少し、今までの呼び出しや悪口の手紙とは違う得体の知れなさを感じてしまう。

 心配そうな顔をする黒田に大丈夫だよと笑うと、黒田は複雑な顔で丁寧に便箋をたたんで封筒にちゃんとしまって返してくれたのだけど、……手元にあるそれを見ながら、綺麗なレターセットである事が今までの味も素っ気も無い嫌がらせの手紙よりも、より心地悪さを強調させる事もあるんだななんて事をふと思った。

二学期編とか……もう少し格好良くタイトルを付けたいのですが、どうにもセンスが無く便宜上この章タイトルで行きたいと思います。


少し波乱含みの二学期編、お付き合い頂ければ嬉しいです。

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