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紗綾 ~君と歩く季節~   作者: 萌葱
三年生 一学期~
65/117

それ、笑ってて良いところなの? (side 優樹)

「久々だね~、優樹の部屋も」

 私の部屋のソファーに座って、心地良さげにクッションになつきながら嬉しげに私を見る紗綾。

 塾の合宿に行っていたとかで少し焼けたけれど、そこに座って私を見つめる様子は小学校の時から少しも変わっていない。

 考えれば、それは結構すごいことなんじゃないかと思う。


 入学早々、男子も女子も敵に回してクラスでも孤立した紗綾。

 久しぶりに同じクラスになったあの時はその苛烈な態度に驚きもしたけれど、こうして私に笑いかける姿は、身体は大きくなったというのに昔のまま……。

 そう、小学校の時に孤立とまでは行かないまでも、病気がちで学校を休むことも多かった私が久しぶりに行けた学校で、中々クラスに馴染めず一人で絵ばかり書いていた手元を覗き込んで

「うわぁ……上手!」

 そう言って私のスケッチブックを覗き込んだ時の表情かおのままで、あの日々の中でも彼女の芯の部分には影響を受けていないと言う事が私には嬉しかった。


「紗綾も忙しそうだったしね、どう? 夏期講習」

「毎日勉強ばっかでちょっと疲れが出る頃かな~、あ、でもね? 塾の先生がこの前皆頑張っているからってアイスクリームを振る舞ってくれたんだ! 甘いのは苦手だけどあれだけ暑いと美味しく感じるね~」

 塾のことを口に出せば、嬉しげに報告を始めた紗綾の話を聞きながら、そう言えば伝えなければいけないことが有ったのを思い出す。

「ちょっとね……、気になることがあるんだ、聞いてくれる?」


 学校は夏休み中も受験生である三年生のために幾つかの教室は開放されて居たから、勉強をしに来る生徒の姿はよく見かけたし、部活に通う下級生の姿もよく見かけた。

 そして私も絵を書きにほぼ毎日美術室に通って居たのだけど、気になったのは、何故か最近ちょこちょこと全く関係ない生徒が美術室を覗きに来るようになって居た事。

 教室の扉を突然開けて中を見回すのは、主に三年生の女子ばかりで、美術部うちに用が有るのかと聞いてみるとあやふやなことを言って去って行く彼女たち……。


「あそこも全く人が来ないという訳じゃないし、……そろそろまずいかも?」

 多分一条や鳴木がここに来ていたことに気がついた生徒が居て、休み中に噂が広がったんじゃないかな? そう言って紗綾を見ると

「確かに、まずそうだね……」

 僅かに目を伏せて私の言葉を聞いていたけれど、くるりと笑顔を見せて

「やっぱ一条とかの関係だと噂回るの早いね~、予定変えて勉強会を塾に変えて良かったよ! じゃ、今後も塾でって事にした方が良さそうだね? 皆にももうあんまり近づかない方が良いって言っておく」

 そう答えるのに、ほっと息をつく、これ以上あまり面倒事に彼女を巻き込みたくなかったから。


「あとね、紗綾」

「ん?」

 それと、もう一つ

「黒田にこの前紗綾の一、二年の頃のこと聞かれたよ、本当は本人に聞くべきだと思うけど、辛かったこと紗綾に聞くのもって迷って私の所にきたみたい」

 先日、本人不在であの頃の話を彼に話した事、彼が好奇心や野次馬根性で聞いてきた訳じゃ無いことは良く判っていたけれど、だからこそ彼女には伝えておこうと思った。

「私も勝手に紗綾の話するのもどうかって思ったけど、彼、みのり経由で女子の間で言われている噂まで耳に入れてるみたいで、で、あの勉強会のメンバーでしょ? 混乱したみたい……かといって、私もあんたに話をさせるのも嫌で、ごめん、独断で話した」

 黒田の気持ちも分かったし、必要だと思ったからとはいえ、自分の話を知らないところで話されるのは気分が悪いだろうと思い頭を下げると

「や、やめてよ、優樹、二人とも私を通さなかったのは私を思ってのことなんでしょ? それに、私のミスだ……、あんな噂流れたのにあのメンバーで勉強会って意味分からないよね、黒田も混乱するよ、私こそ嫌な話、優樹にさせちゃってごめん」

 そう頭を下げ返されて、紗綾こそやめてと思わず笑ってしまった。

 この、てらいのなさがやはり紗綾だと思う。

 

「基本的には同じクラスだった人間とかは知ってる話で、そんな個人的な話まではしてないつもりだけど……」

「大丈夫だよ、私は優樹信じてるし、っていうかさ、聞かされて嫌になる話はあっても話されて困る話なんて無くない? 大体個人の噂話って良く聞くのは好きな人とか勝手に話されるとか? そういうのは嫌かもしれないけど、私の場合色気は一切ない話だし」

 さっぱりしたもんだよ、そう続けて笑うのに

「それ、笑ってて良いところなの?」

 相変わらずの紗綾の様子に嫌な気分にはさせなかったらしいとはホッとしたけれど、女子としての感性は相変わらずなまま明るく笑う彼女。

 全くその心はいつまで居眠りを続ける気なのかと……周りの彼らを思うと知らずため息が漏れるのは止められなかった。

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