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紗綾 ~君と歩く季節~   作者: 萌葱
三年生 一学期~
63/117

聞かせてくれる?

 明日はいよいよ帰るという最終日の夜。

 消灯時間を過ぎて、ひそひそと続いていたおしゃべりも途切れがちになり、少し重く感じた瞼を丁度閉じようとしたその時に

「紗綾……起きてる?」

 莉緒に小さな声で声をかけられた。


「……ん? うん」

「あの……嫌だったらいいのだけれど……」

 何だか言いにくそうに何かを言いかけるのに、どうしたのだろうと身体を起こすと、松くんも皐ちゃんもまだ起きていたのか彼女を伺っているのが判る。

「あのね、ずっと……知りたかったんだけど中々聞けることじゃないし、……こんな機会もないし」

 いつも歯切れのよい莉緒が珍しくなんだかゴニョゴニョ言っているのが不思議で、少し笑いながら

「大丈夫だよ? 言ってみて」

 そういうと、莉緒もむくりと体を起こして、私の手を握り

「紗綾の学校の話を聞かせてくれないかな?」

 と言った。


「え?」

「紗綾が学校の話をあまりしたくないのは判っているの、でも、私は紗綾のことをちゃんと知っていたい、こんな話、塾では中々できないし……勿論どうしても話すのが辛いようだったら……」

「ううん、話すのは別に構わないんだよ、でも、気持ちのいい話じゃないし嫌な気分になるかもよ?」

 そう答えると、莉緒はは聞かせてくれるかな? と真っ直ぐに私を見て、するといつの間にか松くんと皐ちゃん迄起き上がって

「私もずっと知りたいと思ってた」

「聞かせてくれる?」

 その真剣な眼差しにずっと気にしてくれていたんだと分かり、心配をかけていたことを知った。


 そして、私は中学一年から始まったあの日々を振り返る

 小学校から続いた戸田との腐れ縁、そこから始まるクラスでの孤立。

 その後クラスが変わっても続いた、わざわざ他のクラスから遠征してくる男子達の嫌がらせと、それが引き寄せた女子からの敵意。

 莉緒達は、時に信じられないと怒り、時にため息をつきながら私の話を聞いてくれていて……。

 話ながらなんだか不思議な気がした。

 ずっと続くと思っていた敵意のこもった周りからの視線……けれど、実際は少しずつ変わっていった。


 なによりの変化は一条や鳴木との関係かも知れない。

 勿論彼らも最初から今みたいだった訳じゃ無い、けれどいつの間にか、鳴木のからかいは度を超えることは無くなり、一条のきつい視線も言葉も消えて。

 最近では一緒にいることがとても自然だと思えるほど側にいて、時に助けてくれたりする。

 学校では今でも距離をとっているけれど、考えてみれば一緒に勉強するためにわざわざ美術室まで来てもらうなんて、あの頃の私が知ったらきっと信じられないと叫ぶだろう。

 だってさ? 塾のたびに鳴木追いかけて廊下走ってた気がするよって、ため息をつけば、皆からもクスクスとした笑いが漏れるのに、自分もつられて一緒に今、笑っている事にこっそり驚く。


 そして、三年生になってから黒田と同じクラスになった。

 敵だらけだと思っていた男の子の中で、彼だけは私にとっては例外で

「黒田はね、昔、私を助けてくれたんだ……」

 昔の遠足の話をすれば、皐ちゃんが納得したように

「意外と面倒位の良いタイプかもね?」

 なんて頷いている。


「今のクラスはね、他の男子も私に絡んでくる子は居ないし、かなり平和なんだ、一、二年の頃は流石にちょっと大変だったかな? ……でも、塾で皆といられたから頑張れたんだ」


 だから……ありがとう、改めて私を心配げに囲んでくれている彼女達に心からそう言ったら、莉緒にギュッと抱きしめられた。

「強いね、紗綾」

「強くなんて無いよ、多分もっと違うやり方もあったはずだしね」

「そんなことない、……話してくれてありがとう」

 そう松くんにも言われて

 なんでかな? あの頃は涙なんて出なかったのに、いま優しい皆の気持ちに触れたら、眼の奥が少し熱くなる気がした。

「辛いことを思い出させちゃって、ごめんね」

 いつも元気な皐ちゃんまでがそんな事を言うから焦ってしまうけれど、口を開くと声が震えてしまいそうな気がして更に首をふるしか出来なくて。


 ずっと、気にしないのが一番良いって判って居るのに、それでも時に心が揺れるのが悔しくて、もっと強くなりたいと思っていた。

 だけど、その分こんな風に心配してくれる周りからの想いを、私は気がつかなかったのかもしれない。

 そんな事をふと、思った。

 

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