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紗綾 ~君と歩く季節~   作者: 萌葱
三年生 一学期~
57/117

勿体ない?

 八月の頭に行われたのクラス分けテストの結果、私はAクラスに上がることができた。

 一条となんと黒田も一緒だ

 驚いたけど、この二ヶ月程の黒田の頑張りは目をむくものがあったし、元々成績は悪くなかっただけに、方向性を示されるとその吸収力はものすごかった。

 勿論、松くんと一時不調だった鳴木もそのままAクラス。


 ただ、莉緒と皐ちゃんはBクラスだった。

 けれども、元々彼女達の志望校はお祖母さんの代から通っているとかいう、この辺では有名なお嬢様学校。

 それなりの成績も必須だけれど、それだけでは入学できないと言われる代わりに、縁者の卒業実績があればかなり有利と言われる学校である為、そんなには落ち込んでいない。

 夏期講習中の今は一緒にお昼を食べているし、授業の合間に顔を合わせれば、おしゃべりに花が咲くのは今も続いている。


「それにしても一条君の英語の発音は綺麗だね」

「あ! 私もそれ思った」

 デザートのリンゴにピックを刺して、一個どうぞと私にくれながら松くんがそんなことを言い出すと、隣で皐ちゃんも頷く

「あぁ、良く英語の曲聴いてるからじゃ無いかな? この前電車で一緒になった時にイヤホンしてたから何聞いているのって聞いたら、聞いてみるか? って聞かせてくれたんだけどさ……」

 いきなり英語が流れてきて吃驚したというと

「ふふっ、なんだからしい話ね」

 莉緒がくすりと笑う。

「でも、なんでいきなり?」

「ん? 今朝の勉強会で発音記号の確認してたんだけどね、凄く判りやすくて綺麗だったの、耳が良いんだね」

 感心したように言う松くんに成る程と思う。


 高木先生に勉強会の話をしたからか、夏期講習以降いつも二十分前から開ける事になっていた教室が、三年生のみ一時間前に開く事になり、生徒同士が自由に教え合える様にと解放されるようになった。

 今まで通り、静かな環境で勉強したい時は自習室を、誰かに聞きたいことがあるときは教室を、と選ぶことが出来るわけだ。


 因みに、何故三年生だけかというと、

「もし、一年生の時にそんな部屋があったら、君たちは大人しく勉強だけに使ったと思いますか?」

 と、苦笑した高木先生の返事に理由があると思われる。


 夏期講習が始まってから、教室が開放されたのもあり講習前にも勉強会をすることにした。

 メンバーも増えて松くんと莉緒と皐ちゃんも一緒に、毎日はちょっと大変なので週に三回。

 松くんは鳴木と並ぶほど成績は良いのだけれど、英語のヒヤリングが余り得意で無く、そう言えばここ最近は一条が良く教えていた。


「ほんっと、毎日勉強ばっかり! つまんないよね~、頭パンクしそう!」

 もっと夏休みらしいことしたい、と皐ちゃんが嘆くと

「でも、来週からは合宿があるじゃ無い?」

「う~、まぁ、それはちょっと楽しみだけど……」

 松くんの言葉に、少し言葉を緩める皐ちゃん。


 受験勉強の本番の夏休みだけに、八月一杯は土日を除く殆ど全ての日が塾の夏期講習なんだけれど、ずっとそれでは気の毒という塾側の配慮なのか、三泊四日の海辺での合宿があって、私達はそれに参加することになっていた。

「うんうん! 今年は泳ぐの諦めてたからすっごい楽しみだよ!」

 嬉しくなってそう言うと

「紗綾、ほんっきで楽しみは海水浴!?」

 何だか、妙に真剣に私を見る皐ちゃんに、なんでそんな事を? と、思いつつ、うん!って答えたら

 彼女はふわりと私に両手を回して

「ずっとそのままの紗綾で居て欲しいけど、……それも勿体ないような」

 そんな事を言いながら、ぎゅうって抱き締められてしまったんだけど。


 ――勿体ないって何がだろう?

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