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紗綾 ~君と歩く季節~   作者: 萌葱
三年生 一学期~
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教えてくれねえか? (side黒田) 2

「本当に大変だったんだな……」

 日比谷のしてくれた俺の知らなかった藤堂のこれまでは想像以上にやっかい事だらけだった。

 そんなあいつをずっと見ていたこの親友は

「三年になって今のクラスになるまで、あの子は教室では殆どの時間ずっと何処か緊張してた、たまに笑顔を見せても、すぐにふっと何かが気になるかの様に顔を強ばらせて……、だからね、そんな人間が教室で寝るって凄いと思わない?」

 それ位気が抜けるようになったのなら、素直嬉しいんだとほっとしたように笑う。

「人と関わるのなんざ、まっぴらと思ってもおかしくねえよな? ……なのに、元クラスメートってだけの俺に何であそこまで?」

「恩人って言ってたけどね」

「恩人?」

「遠足で助けたんでしょう? みのりと、……戸田とのことがあったし、敵にまわらない上助けてくれた黒田は恩人だって、紗綾は言ってたよ」

「あんな事でか? あの……馬鹿」

 大昔のたった一回、遠足で面倒みただけ、それを覚えていて、そんな事を言うなんて。

 そんな事が記憶に残るほどキツい事が多かったはずなのに、迷ってた俺に手を差し伸べ自分の精一杯をしてくれた。

「元々お節介って言うか、世話好きなところは有るとは思うけどね? 弟が居て従兄弟も多いせいか長女気質って言うか? 敵と思った人間にはあれほど攻撃的なのに、一回受け入れるととことん無防備になるし……」

 そろそろ敵か味方かの二元論じゃ、カテゴリーは足りなくもなると思うんだけどね? そんな言葉を困り顔で続ける日比谷の言いたいことは判らないでも無い。

 

 例えば、黒田おまえの横は安心できるんだなと呟いて、一瞬苦しげな顔を見せた鳴木、あれは……。

 今まで連中の中に居ても課題にしか頭が行かなかった俺が、初めて違う視点で三人を見るようになった切っ掛けがこの日だった。



 しかし、尽きない勉強の日々、課題を提出し、また新たな課題を受け取り、再び毎日はプリントに埋め尽くされていた。

 けれど確実に力はつき、ずっと藤堂が側に居なくても、集まりの時に少し三人に確認する程度で進んでいけるようになっていて、俺にも少しだけ周りを見る余裕ができて来ていた。

 そして、気づいた。

 勉強会の最中ふと顔を上げると、藤堂の動きを無意識で追っている鳴木の視線。

 鳴木に公式の確認をしながら、それを必死に書き留めている姿を見て、ふと優しげに細められる目元。

 その表情には覚えがあった。

 付き合う前のみのりを見ていた兄貴……、俺達は親が仲が良くて小さい頃から一緒にいることが多かった。

 みのりは小学校の頃からずっと兄貴が好きで、けれど俺たちとは年が離れている兄貴はずっと妹のように接していた。

 けれど、中学生になった頃から兄貴の視線はみのりを追いかけるようになり、みのりが二年になったときに漸く二人は付き合い始めた。

 ずっと妹のように思っていたみのりをいつの間にか好きになって、だがその歳の差が、ずっと兄貴を躊躇わせていたらしい。

 人の恋路に口出すのは野暮とずっと思ってきたが……あの時は心底呆れながら思い切り背中をどついちまった。


 あの頃兄貴は自分の気持ちを押し殺しながらも、みのりが側に居ると隠しきれないかのように優しい目であいつを見ていた。

 鳴木を見てその視線を思い出す、それはつまり……。


 そして、一条。

 校内でも一二を争う有名人だけに名前くらいは知ってたものの、話なんてしたこともなかった。

 だから藤堂と一緒に居るようになってよく見るようになってから、そのポンポンと言い合い、一条は怒り、藤堂がへらりと笑う姿にこんな奴だったのかと思った。

 だが、程なく学校や塾で藤堂以外の人間と居るときに見る、冷静であまり感情を動かさない姿に、皆が知る姿はこっちだと知った。


 日比谷に聞いて驚いた昔のあいつらの関係。

 今の姿を見れば信じられねえほど、一条は藤堂にきつい言葉をぶつけて、あいつは持ち前の気の強さでそれを弾くように返してたという、

 俄には信じられねえ過去の二人、今のあいつらには全くそんなわだかまりは感じられねえ。

 ただ、一つ共通していることがある、一条はずっと藤堂の前では常に無い姿を見せているって事だ。  

 基本的にあまり感情を出さないはずの奴が、たった一人だけに特別な理由……。


 そこまで考えたときに、何を考えていたんだと思っていたあの噂は意外と当たっていたのかもしれねえと思う。


 あの、噂の頃から藤堂を好きだったのかどうかまでは判らねえけど、きっと特別だった。

 その特別さがあいつらを追いかける奴らのカンに触り、その嫉妬は藤堂をおとしめる言い訳を作る。

 みのりの予想もあたってる部分はあったわけで、しみじみ女ってものの怖さを感じた。


 そして、藤堂にそんな想いを抱きながらも俺を連れて来いと言って、自分たちの中に入れ、全く手を抜かずここまで面倒を見てくれているあいつら

「凄えよな……」

 その度量のでかさに驚きながら、だが、男として負けたくねえって、……何故だか強くそう思った。

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