おまえ、この前から何やっているんだ?
塾を決めた次の日から、黒田は凄かった。
学校へも課題を持ってきて、空いた時間は一日中それに向かって居る。
ただ見ているとテキストを開いて唸っている時間も多いので、気になって声をかけてみた
「手助けが居る?」
考えること全てに手を貸すのは黒田のためにはならないけれど、どうしても分からないときに手を貸してもらうことの有効性は知っていたから、もし必要なら、手を貸そうと声をかけた。
黒田も借りていいものか迷っているようだったから
「全部助けたら力にならないけれど、引っかかっている所外す位なら助言するよ? もし聞きたいところとかあるんならお気軽に」
と言ってみたら、迷いながら国語の文法問題を指さす。
試しに解説しながら一問を解いてみて、似た問題を独力で解いて貰って確認をする、すると少し助言しただけでするっと飲み込んでいる。
その理解の速さに驚いて、必要な時は手を貸すよと伝えて席に戻った。
それからの一週間程は、何だか必死な日々だった。
休み時間毎に黒田の質問を受けて、放課後も勉強会の日以外は放課後の教室でプリントに埋もれていた。
苦手な数学だけは、質問を保留してもらって勉強会で確認してから塾の教室で教えることもあったけれど。
優樹に勉強会に呼んだら? と言われたけれど、黒田を塾に呼んだのは私で、彼はまだ私が一方的に教えている状態で、今一緖にやってしまうと、鳴木と一条の負担になってしまう。
黒田を塾に引き入れたのも、助けたいと思ったのも私個人の好きでやっている事で、だから二人には迷惑は掛けられない。
今は黒田の基礎と弱点の穴を埋める期間で、少なくともそれを補完するための課題が終わるまでは一緒にやるのは難しいと思う……プリントの課題を卒業したら、又違うかもしれないけど……なんて話をすると
「そか、それは任せるよ、まぁ、必要なら私は構わないってのだけ言っておく」
優樹はそう言ってくれた。
「おまえ、この前から黒田と何やっているんだ?」
いつもの勉強会で、一条が相変わらず眉間に皺を刻んで私に言ってきた
「ちょっとした勉強会というか、今、黒田塾のテキストとは別に塾長に山のようなプリント出されてるって話したじゃない?」
「勉強会? ならここに連れてくればいいんじゃないのか? これ以上増えると日比谷に迷惑になるのか?」
私の言葉に鳴木は不思議そうな顔をしていて
「ううん、優樹はこの前呼んだら? って言ってくれたんだけど、まだ黒田は教え合うってレベルではないし、二人の負担になるのは悪いなって思って、ただ、ちょっと自分で無理だと思う部分はここで聞かせてもらってるけど……」
「お……まえ、、だからこの前あんな初歩みたいな数学聞いてきたのか? こんな時期にこんなの聞いてきて大丈夫かと思ったが」
「あはは、流石に解けるよ~、ただ、人に解説するのはちょっと自信がなくて……ま、良い復習にはなったけど」
「日比谷が問題ないと言っているんだったら、連れてきたらどうだ? 俺は構わないが……おまえは? 一条?」
「ああ、第一こいつに数学を教わる黒田が心配だ」
「確かに……藤堂が数学って」
頷く二人に失礼なと言うも、あんな問題で解説に躓くのに心配ないとか言えないだろうと真顔で言われ、更に、今後レベルアップしていくなら俺達に聞いて黒田に伝えるなんて二度手間だろうと言われてうーんと唸る。
「おまえだって言ったろ? 教えることだって復習になるんだ、気にするなよ」
そう鳴木に言われて顔を上げると一条も
「三人で分けた方が負担だって三分の一だ、それ位の割り算も出来ないのか?」
なんて……。
多分黒田だけじゃなく私の心配もしてくれたんだって流石に判って。
「ありがとう」
そんな風に優しくされることには慣れてないから、何だかくすぐったかったけれど、嬉しくもあって……素直にそういう事が出来た。