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紗綾 ~君と歩く季節~   作者: 萌葱
三年生 一学期~
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何をやらかしているのかと思いきや (side 黒田)

 再会する前から、噂だけはよく聞いていた。

 凶暴、乱暴、気が強い……そこまでか? とは思ったが、昔同じクラスだった頃戸田やその取り巻きの、ガキっぽいちょっかいに立ち向かっている姿を思い出せば、まぁ、判らなくもねえか? なんて思って居た。

 だが、男好き、色目を使う、媚を売る……、みのりが怒りながら言っていた女の中で流れているらしいあいつの評判と、何人かの男との間で流れているらしい、そいつらが藤堂を好きだの、藤堂が気があるから突っかかって行ってるんだのって噂。

 こっちはまるで想像がつかないんだが。

 ……全く、あの跳ねっ返りの元クラスメイトは一体何をやらかしてるんだ?

 

「そもそも、戸田が中学になってまでサヤをいじめるからあんな事になるんだよ! 女子の噂はちょっと不思議だけど……少なくともサヤが男の子に柔らかく接している姿なんて見たこと無いんだけどな、やっかみ?」

「まぁな、たまーに廊下で騒いでるの見る限りじゃ、凄え勢いで言い返したり、存在すらないかのように無視してるようだが、媚びたり色目ってのは見たことねえし? ま、そういうものはそもそも人前でやるものでもねえから、二人だけになると変わるとか?」

 うわ、あいつがっ!? ……思わず想像して、いっそ見て見たいもんだと吹き出す

「そんな事サヤがするわけ無いでしょ!? 大方構われている事への嫉妬だと思うけれど……ふふ、意外とサヤがもててるのかも知れないよ? 戸田の執着だって怪しいと思ってるしね」

「そりゃあり得ねぇだろ」

 みのりが妙に嬉しげに言う言葉を俺は一蹴した。


 二年の頃にあいつの名前を良く聞くようになって、みのりと噂をした昔なじみのクラスメイト。

 一体どんな奴になったのかと思いきや、実物の藤堂は……まぁ、美人かと言われれば、みのりのような色気も日比谷のような端正さもねえし、塾でのこいつの女友達のような華やさもねえし?

 だが、俺を恐れずポンポンと物を言うところは時にうざったくもあったが、妙にびくびくした周りの奴らに比べれば付き合いやすいし、歯ごたえがあるところも面白い。

 口も態度も悪い俺を恐れずに正面から俺を見る藤堂、その真っ直ぐさは鬱屈とした気分を晴らすような清涼感もあって……。

 

 だからなのか、つい、進路の悩みなんて物をあいつに打ち明けたのは……。

 桜花高校……この辺では名門と言われる難関校。

 特に憧れていたとか言うわけじゃ無いが、なにも家に縛られることは無いと言われ、届くかもしれないと言われた途端、今まで決まり切っていると思って居た未来に違う道があると知った。

 沢井に行った兄貴は親父にそっくりで、真面目な分俺より成績は良かったが、迷うこと無く好きな道を究めたいと沢井に行き、同時に家の工場にも入り浸って、車やバイクに触れている時間が何より楽しいなんて言っている。

 俺だって、小さい頃から近くにあったそれらは嫌いじゃねえけど、親父や兄貴ほどのめり込めるかと言われたら即座に無理だと言うだろう。

 だけど、もっと成績を上げろと言われてもどうすれば良いかなんてよくわからねえし……親に言われた話と、担任の話がぐるぐる脳裏を巡った挙げ句、勉強法を変えることも塾の目処も付かないまま、けれど新しい選択肢への期待も諦めきれずにやけくそ書いた第一希望。


 柄じゃねえとか、きっと無理だとか思いつつ、こそこそするのもみっともねえから無造作に渡した進路調査票を、あいつは受け取るとそのまま、桜花に行くのか? なんて真っ直ぐに聞いてきた。

 そのストレートさに呆れつつ、ふと、こいつならどうするだろうと思った。

 好奇心の儘、今考えたら情けねえ愚痴のような相談をあいつにしていて、でも藤堂は俺の話を黙って聞くと、感情的な物は全てすっ飛ばして、塾に行くのか行かないかのシンプルな二択を俺に差し出した。


 目を覚まされたような気がした。

 いろいろグチグチ言いつつも俺は結局言い訳ばかり考えて、自分を守って居ただけだ。

 みっともねえのは必死になって届かない事じゃ無い、それを怖がって動かねえ事だって、思った。

 そうやって向き合う事を決めた途端、あいつは驚くことにその日中に俺を逃げようが無い程の受験へと向けたレールに乗せて見せた。

 あの日から始まった課題の山への挑戦、のほほんとした塾長はその雰囲気のまま、辞書くらいはあるんじゃねえの? っていうプリントの山を俺の前に積んだ。

 結果今はこんなにプリントにまみれたような羽目になっているけれど面倒見の良いあいつはそれにさえ付き合って、学校に居る時間の殆どは俺の質問に答えて、本当にお人好しっつーか……。

 

「おぉ、進んだね~、で? 今日の質問は?」

 今日も教室に入るなり俺の所に直行して積んであるプリントをぱらぱらとめくり嬉しげな顔をしてる。

 俺の目指している高校はこいつの目指している場所でもあり、それって一人増えても邪魔なんじゃねえ? なんて考えも頭をよぎるんだが、こいつはそんな事は全く気にしちゃいない様子で、俺が保留にして印だけを付けていたところをチェックなんてしてくれて

「ちょっと、ストップ、今やってるところ、この印の所と一緒に解説しちゃうよ? いい?このto~はね?」

 

 俺にしてみれば、あの日約束があったらしいのを蹴ってまで、塾を紹介してくれただけでも借りが出来たと思って居るのに、こいつと来たらその後もこんな風に助けてくるから借りは溜まる一方。

 だけど今はそんな事を考えるよりも、ここまで助けられてのし上がれなければ格好が付かない。


 だからまずは、課題を終わらせねえと? 色々考えるのはそれからだ。 

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