おまえの言動が主な原因だろ
「失礼します……」
美術室で優樹のデッサンを眺めつつ勉強会の準備をしていたら、鳴木と一条が一緒に入ってきた。
あの日鳴木と話していたら、突然何処か思い詰めたように、俺も一緒に勉強をしたいと言ったら邪魔か? なんて言い出すのは驚いたけれど、調子を崩しているらしい鳴木の突破口にはなるのかなと、優樹と一条に確認してみないとだけど、私は歓迎するよと笑った。
一条は勝手知ったる、といった慣れた風情だけれど、美術の授業以外でここに来るのが初めての鳴木は、職員室に入室するような挨拶をして入ってきて
「紗綾から話は聞いてる、煩くなければ別に構わない、一応葛城先生にも許可はとったよ」
そう言う優樹に
「悪いな」
なんて、軽く頭を下げている
公園でその後、俺、おかしくなってたみたいだ……なんて呟いて、鳴木はごめんって謝ってくれた。
「一体何だったの?」
って、聞いたけど、困った顔をして言葉に詰まっているのに言いにくいことでもあるのかなって、追求しないことにした。
学年が上がって更に身近になった受験という物を前にして、少し三年生全体がピリピリしているところはあったから、それに当てられたのかなとも思ったし。
私としてはいつものあいつに戻ってくれさえするならそれで良いかなって、実際今もここに居る鳴木は落ち着いていて、その事にほっとする。
「んじゃ、はじめようか」
そう言って優樹の隣の席から立ち上がり後方の一角へと席を移す。
最初に開いた国語のテキストの鳴木の答案を指でたどっていて、手が止まった
「鳴木……、これ最近塾でも学校でも重要ポイントだって言われた所じゃ無かった?」
大抵の所はきちんとした答えが書かれているのに、つい最近習った箇所に幾つか穴があるのに驚くと
「……本当だ、おまえ、完全聞いてなかったな?」
一条でもそのポイントはきちんと押さえていたから、呆れたようにそんな事を言っているのに
「うわ! 全く記憶に無い……」
本気で驚いている鳴木
「……今までの項目は兎も角、ここ最近の部分は本気で復習しとけ」
一条に同情したようにそんな事を言われて、情けねー、なんて頭を抱えている鳴木を見て思い出す
「あ、そうだ!」
隣においておいたかばんを手に取り、中から小さな包みを2つ取り出す
「はい、こっちが鳴木、こっちが一条」
「なんだ?」
「ん?」
パパの会社で今度出す新製品。
各種ハーブをブレンドしたお茶で、効能を前面に出して販売していくんだって。
宣伝と効能の確認兼ねて各家庭に結構な量の試供品が配られたから、そのお裾分け
それに効能見たら二人にぴったりで……
「見てもいいか?」
頷いたら、不思議そうな顔で袋を開ける二人
よく眠れる、集中力を上げる……等のハーブティーを多めに入れた鳴木は納得した顔でサンキュといい
「よく眠れる、集中力……は分かるが、なんだ、この穏やかな気持になる、とか美肌だのというのは」
「一条怒りっぽいんだもん、よく眉間に皺がよってるし」
すると、一条はやはり眉間にシワを寄せ
「おまえの言動が主な原因だろ……」
睨むので
「気に入らないなら、返してくれていいよ?」
手を差しだしたら、ふうとため息をついて鞄の中に入れて、悪いなと言った
なんだかんだ言いつつ素直にお礼を言う二人を見て、黒田を思い出す。
あれからクラスではみーのが居ない時の黒田が絡む用事はいつも私に来る、みーのは休み時間に教室を開けることが多いので、必然的に私に声がかかることになって、それはいいのだけど、どうも黒田は素直にお礼を言わずにはぐらかして来る。
「紗綾がムキになるから面白がってるんじゃ無い? スルー出来ないあんたもねぇ……」
優樹にはどっちもどっちだと苦笑されるんだけど、昔の記憶のせいか私はどうも今の黒田のそういう所につい口を出しては、向こうも口の減らないタイプだけにぽんぽんと言葉が返ってきて……喧嘩とかでは無いのだけれど少しの用件でも時間が取られること夥しい。
「黒田もこれくらい素直ならねぇ……」
思わず漏らした愚痴に
「黒田?」
「隣だとか言ってたよな、やっぱり何か有るのか?」
二人に同時に見つめられて、ちょっと吃驚する
「ん~、素直じゃ無いんだよねぇ、悪い奴じゃ無いんだけど……」
と言いかけて、一条の後ろにある時計に目をやって、もう余り時間が無いのを知った
「ヤバい、……兎に角これやっちゃおう?」
そう言って、手が止まっている二人をせき立てた