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格好いいとかそういうの以前の問題だよね?

「今日ね、はる君と駅で待ち合わせしているの、習い事から戻る時間が一緒になるからって、駅で待ち合わせて家まで送ってくれるって」

 駅のホームで電車を待つ間に、莉緒が嬉しそうに言うのを見て、そんな風に会えたら幸せな人が居るというのが少し羨ましくて、私なら誰に会えたら嬉しいかなって思ったら

「……咲夜に会いたい」

 思わず零れた言葉に

「紗綾……」

 呆れたようにため息をつく松くん

「だよねぇ? 恋愛が分からないとか言うから、私のとっておき貸したけど、……嵌まりすぎ」


 夏期講習中のお弁当の時間にお気に入りの本の話になった

 私は本や漫画は大好きだけれど、いわゆる恋愛物と言われるジャンルには弱い。

 小学校の時から友達から少女漫画を借りたりとかはしていたのだけれど、何だかストーリーが心に入っていかない。

 私が借りてきた本をママが読んで目を潤ませてることがあって、何処が良かったのって聞いてみたんだけれど、私の琴線には全く触れなかった箇所で……。

 そもそも、私は家族や友達は好きだと思うけれどそれとは違う種類の「好き」って事は良く判らない。

 そんなことを言っていたら、次の日に莉緒が夏休みの宿題! といって10冊! もの、とっておき恋愛小説を貸してくれた。

 カラフルな表紙のの如何にも女の子らしい文庫本、本屋さんで見たことはあっても今まで手に取ったことが無かったそれは少女向けの恋愛小説だという。 


 うえぇ~、とは思ったけど、読書は好きだし、莉緒は熱心に勧めるしで、えいっ! て読み始めたら、何だか……不思議だった。


 久々にそういう話を手に取ったせいなのか、漫画よりも文章で書かれている分、心の移り変わりが分かりやすかったのか、ストーリーが素直に心に入っていく。

 読んでくうちに、胸がドキドキしたり、キュウっとと絞られるように胸の奥が痛くなったり、読みながらそんな感覚が自分に生まれたことに驚いて……気がついていたら、夢中で読んでいた。


 私にとって男の子というのは弟と従兄弟たち以外は基本的に厄介ごとの元だった、けれど、小説の中での彼らは優しくて誠実で……。

 中でも、艶やかな黒髪と神秘的な瞳、爽やかで包容力があって、なにより主人公を大好きな咲夜は一番のお気に入りになった。

 リアルなアイドルに夢中になった事は無いけれど、こんな男の子が居るなら会ってみたいと初めて思った。


 莉緒に借りた本は一気に読んでしまって、返却後はお小遣いと溜めておいたお年玉を使って一気に揃えたから、今では私の本棚の特等席に収まっている。


「紗綾、リアルに格好いいと思う人いないの? 学校とか」

 そう松くんに言われて、思い浮かぶクラスの男子。

 ありえない! 戸田と、あいつと仲のいい男子の私に対しての所業はくだらないの一言で、意味が分からない。

 何で大人しく本を読んでいるのを取り上げたりするの? 日直だからと黒板をきれいにしている端からチョークでいたずら書き、体育の時間に体育館履きを忘れ教室に取りに帰って、急いで授業に向かおうとすれば、廊下で通せんぼ! 馬鹿らしすぎて涙が出る。


 格好いいとかそういうの以前の問題だよね?


 ふたりには軽く、クラスで上手く行ってない程度のことは話している。

 塾に学校のことは持ち込みたくないのであくまで軽く、けれど答えを返せなくなった私を見て察したのか

「ん~、まぁ、私の貸した本が楽しかったなら良かったよ、咲夜が格好いい?」

 莉緒が優しく笑ってくれたので。

 ほっとして頷いた。

 

「あ、紗綾の方の電車来るって!」

「あ、ほんとだ、お先に、だね~」

「じゃ、また来週ね」

「うん、ばいばい、ふたりとも気をつけてね!」

 反対方向の電車を待つ二人にそう言うと

「紗綾が一番心配!」

 莉緒と松くんが口を揃えて笑ってそう言うのに、ちょっとふくれつつ電車に乗った。

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