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紗綾 ~君と歩く季節~   作者: 萌葱
三年生 一学期~
39/117

友達? (side 鳴木)

 ……何で、こんな事になった?


 いつもの駐輪場、チェーンの暗証番号を合わせて、カチャリと解けて落ちるそれを手に取ると同時にあいつがビルから出てくるのが見えた。

 そのまま籠に鞄を入れて鍵を外すのを待ち、殆ど会話もせずに

「行くぞ?」

 それだけ言って自転車に跨ると、藤堂は何か言いたげな顔をしつつも黙って俺の後ろを走り出すのが判る。

 ……こんな事を続けていても仕方が無いのは判っては居ても、最近こいつを見ると、もやもやとした苛立ちが沸き上がり、感情がコントロール出来ない。


 三年になって藤堂とは学校でも塾でもクラスが離れた。

 元々学校では距離を取って居たから、時間が合えば一緒になる塾の帰り道以外はほとんど接点がない。

 なのに……口を開けば、何を口走るか判らない程のかつて無い感情の高ぶりに……いつもは少しは会話するはずの駐輪場でも話しかけることさえ出来なくなっていた。


 キィーーッ!

 俺がそんな風になって三回目の帰り道の途中で、すぐ後ろを走っていた藤堂のブレーキを踏む音がして、何か有ったのかと振り向くと、少し怒ったような顔をした藤堂が俺を見て言った

「鳴木、私に言うことがない?」


 顔がこわばるのが判ったけれど、言える言葉なんて見つからなくて、無いと答えるも

「なら、何で? 私、何かした? そういう態度取られるのすごくストレスなんだけど、余程帰宅時間ずらそうかと思ったけれど、まずは聞いてみようと思った」

「ずらす?」

「十分もずらせば別になるでしょう? 元々約束しているわけでもないし」

 丁度良いんじゃ無いか? こいつに苛立つのなら少し距離を置くのも、俺には思いつかなかった考えにそれも一つの方法だと納得する自分も居るのに、……気がついたら、促されるままに自転車から降りて居た。


「……時間大丈夫なのか?」

 そう言って、少し前にあいつが桜を見上げていた遊歩道に入り、入り口に自転車を置いた。

 歩きながら、あの時にここで俺の髪から花びらを摘まんで、唇を寄せた姿に動揺したことを思い出す。

 あいつが俺をそんな対象には思っていないことなんてわかりきっていた筈なのに、あの後もフラッシュバックのようにあの光景を思い出しては、胸の奥がむず痒い様な気分になっていて……、でも今はそんな事を思い出すと、同じ場所がざらりとした肌触りの悪い何かにでも塞がれたような気分になるのが判る、……本当に俺はどうしたというのか。

「大丈夫、最近は塾の終わりも不規則だし、遅くなることが多いのはママも判ってるから」

「不良娘」

「良いんだよ、友達の話を聞くのも勉強のうちだもん」

 勢いよく先日と同じベンチに腰掛けて、俺を見上げる

「友達?」

 屈託の無い振る舞いと言葉に、ちりりと棘のような違和感。

 その慣れない痛みに又、苛立ちが募る。

「え? 違うの? 鳴木は友達だと思ってるんだけど……私だけ?」

 判ってる、こいつが悪いわけじゃ無い、俺が訳もわからず、勝手に苛立っているだけ。

 だけど、俺を見る、強いけれど特別な感情を乗せないクリアな、こいつ独特の視線。

 その真っ直ぐさが嫌いじゃ無かったはずなのに、それを揺らしたくなる。

「……おまえだけかもな」

 傷つけたい、なんて思った事もなかったような衝動が湧き上がる儘に放った言葉

「そっか、私の片思いか、ま、いいけど」

 でも、そんな言葉さえも簡単にすり抜けて……。


 話すと言っても、何でこんな気分になっているのか……、藤堂は何もしていないし、何か有ったわけでも無い。

 だから、本当に何を言うべきかもわからないでいると

「そう言えば、一条が言っているの聞いたけど、……授業に集中出来てないって?」

あいつの方からそんな事を言って来た。

 一条に、聞いた? 

 確かに最近夜に眠れない……だから授業中引きずり込まれるような睡魔に襲われる時があって、危うく今日は後少しで教師に指されそうになった。

 けれど、今はその事よりも……


 藤堂の口から出た奴の名前に体がすっと冷えるのが判った。

 そして、脳裏に浮かんだ光景。


「本当に助かったよ、ありがとう!」

「判ったから、……落ち着け、階段滑るぞ?」

「大丈夫だよ! 不安だったけど、一条のお陰でちょっと楽しみになった」

「なら、良かったな」

 数日前塾に向かって階段を登っていると、よく響く藤堂の声がした。

 すると上の階から降りてきたらしい藤堂と一条が階段から降りて来て、そのまま廊下へと出て、教室へと向かって行く。

 以前ならば想像も付かないほど楽しげな笑顔をあいつに向ける藤堂と、落ち着けなどと言いつつもその声は柔らかい一条。

 そんな二人の様子に距離の近さを感じて声を掛けられなかった。

 

 ――もしかしたら、俺が眠れなくなったのはあの日からか?

「最近塾の前に一条と課題の確認しているんだけどね、心配してたよ?」

 藤堂の口から出る、あいつの名前にズキリと痛む胸、いつの間にか二人でそんな事をしていたという事にも驚いて

 

「鳴木……?」

 言葉を返せないで居る俺を訝しげに覗き込んでくる藤堂。

 その瞳はあの頃から変わらなく見えるのに……、いつの間にか一条と?


 瞬間胸の中で疼く、こいつを誰にも取られたくないという想い。

 「……っ!!」

 俺は……いていたのか?

 だから、あの二人を見てから、おかしくなった?


 友達なら、他の男と居る姿を見ても不安になったりはしない。

 もう、一緒には帰らないと言われて、この時間さえも無くなればこいつとの接点は本当に無くなるなんて事に、ここまで焦ったりはしない。


 あの光景が原因でここまで調子を崩した事自体が、明らか過ぎて、気がついてしまえばもう、認めることしか出来なかった。

 友達なんかじゃない。


 俺は、藤堂が好き……なんだ。  

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