おまえ、めちゃくちゃだな
「黒田、教材費出して欲しいんだけど、あと、私の椅子に足載せるのやめてくれない?」
自分の席で机に片肘を突きながら、席を立っていて空席だからって私の椅子に足を乗っけてお行儀悪く雑誌なんて読んでいる黒田に声を掛けると
「あぁ? 教材費? つか、おまえそんな係だっけ?」
雑誌から目を離して私を訝しげに見上げて来るから
「係りの者はあなたに怯えて仕事になってません」
というか、男女組みなのに、こっちに頼みに来るってどうなのよって思うけど……
やっぱこの目つきの鋭さかなぁ? なんて心の中で思うと、目の前に茶封筒が出された。
「遅れて悪かったな、……って伝えといてくれ」
「了解、あと、足」
「へーい」
いい加減な返事にこっちは期待できないなとため息を付いて、本来の集金係の元へ向かう
「ありがとぉ~、ごめんね、どうしても怖くて……」
「いいけどさ、相方の藤井はどうしたの?」
「私に頼んだって言ってどっか行っちゃった」
「あのへたれ……ま、これで任務終了だね、あ、そうそう、遅れて悪かったって伝えてくれって」
そう云って、自分の席へ向かうと背中のほうで、意外……と呟く声が聞こえた。
悪いやつじゃないんだけどねぇ……。
そんな怖いかなぁ?
「渡したよ、黒田」
「ご苦労、下がるがよい」
余りといえばあまりの態度にちょっとそれはどうなのって思う。
「ありがとう はい、復唱」
「あん?」
「あ、り、が、と、う」
「めんどくせーなぁ……」
「あのね、お礼は基本だよ? 注意する人がいるうちが華だよ?」
「おまえ、ばーちゃんみてぇ……」
お礼も言わずに余計なことだけは口に出す黒田に頭を叩きでもしたくなるけれど、まさか本当にするわけにも行かないしと、見下ろすと一条のように整えられた髪。
えいっ! って思いっきりぐちゃぐちゃにかき混ぜてみた。
教室がざわっとしたけれど、キニシナイ
「お……まえ、めちゃくちゃだな」
すると、怒ると言うよりは呆然と私を見て、そんな事を口にしている黒田におやっと思う。
いつもはきっちり櫛目の通った髪が、今は全体が空気を含んでふわりと立ち上がって、少し長めの前髪がおでこにはらりと掛かって、いつもは鋭い光を持つ瞳を少し隠すせいか和らいで見えるその様子に、昔の面影を感じた。
「いいね、それ、何か懐かしい、……いつもそうしてればいいのに」
「はぁ?」
黒田はおかしなものでも見る目で私を見た後、直してくると云って席をたった。
その姿を見て、思わすクスリと笑みが零れた。
怯える女の子と交代して決まったこの席は、実のところ決して居心地は悪くない。
多少大きくなって、目付きも悪くなって、ひねくれて、柄も悪くなったけれど、……黒田はやっぱり昔と同じ黒田君だ。
私に対して暴力を振るったり乱暴な行動を取ったりはしない。
ただ、私の方に少し問題があって……。
自分から席を替わるといったのに、最近黒板の文字が霞んで見えることに気が付いてしまった。
今の状況で席を変えてもらうのはちょっと言い出しにくい。
一応ママに相談もしたけれど、遼の小学校で役員をしていて、折り悪く大きな行事前でとても忙しそうにしていて、毎日放課後私が家に帰っても殆ど家に居ないような状態。
案の定、眼鏡屋さんに行く時間が取れないから少し待って貰える? と申し訳なさげに言うのに無理も言えなくて。
それに私も眼鏡自体に少し抵抗があった。
邪魔そうだし、元々何かを付けると言うことが余り好きでは無い。
だから、ママにもちょっとそんな気がする、くらいで大したことは無いように言ってるんだけど……。