どういう風の吹きまわし?
――ん?
何か人の話し声がするなぁと思ったら、目の前に一条と優樹が居てちょっと吃驚する。
「おはよ、紗綾、あんたのことだから、部外者をここに一人にはできないと思ったんだろうけど、寝ちゃったら意味無いでしょうに」
困ったように笑う優樹を見ながら、ぼーっと状況を思い出す。
「……目を開けて眠るなよ? 課題しないでいいのか?」
「あ、いけない! 続きやらないと!!」
一条の言葉で一気に目が覚める。
そうか、私ここに彼を匿ってそのまま寝ちゃったのか。
「おまえ、塾の数学引っかかってるんだって?」
ソファーから立ち上がろうとして一条に声をかけられた。
「一晩かけたんだけど駄目だったよ」
窓の外が少し明るくなってしまうまで頑張ったのに、結局解けなかった数学の問題を思い出して情けない思いでそう呟いたら
「どこだ? 見てやる」
「えぇ? どういう風の吹きまわし?」
「一応匿ってもらったしな、やり方はともあれ」
思いがけないことを言い出した一条を、ついまじまじと見てしまう
「助かるっ! 少し早めに塾行って松くんか鳴木に聞こうと思ってたけど、二人とも捕まるか分からないし、そう言えば、一条も数学は得意だったね」
「『は』は余計だろう、まぁ、段々レベル上がっていくな課題……俺も国語の最後数問は空欄だ」
「え? 国語なら終わってるよ? 解説しようか?」
「そうか、おまえ国語『は』得意だものな?」
わざとらしく『は』を強調して返されてぐっと押し黙る
「まぁまぁ、痴話喧嘩は外でやって、ここは閉めるよ? あの子たちもいい加減諦めたことだろうし」
「痴話って!!」
優樹の言葉に思わずハモってしまって顔を見合わせてため息をつく
「取り敢えず課題やろうか」
「だな……」
二人でお互いの苦手をカバーしつつ課題をやってみると思いの外効率が良かった。
同じ塾で同じBクラス、英語は二人とも同じくらいで、数学が苦手でで国語が得意な私と、国語が苦手で数学が得意な一条は相手の分からない部分については問題なく解説出来る実力があった。
ついでに言えば、Aクラスに届かなかった理由も苦手教科があと少しで足を引っ張っていたという点も同じで。
だから、思わずこの効率の良さに一条を見ると、向こうも私を見ていて。
「これってさ」
「分からない所教えあえば効率よくないか?」
「だよねぇ? 全く分からないわけじゃなく、こう、ちょっと引っかかってる所外してほしい感じなんだよね」
「塾が始まる日の放課後に一時間ほど確認できれば丁度いいな、無駄に睡眠時間削らなくすむし」
なんて、感じたことは一緒みたいなんだけれど、問題は……
「ん~、でも、場所がねぇ? 塾の教室は開くのは20分前だし、自習室は基本会話禁止だし……学校の教室は」
「無理だな」
「だよねぇ?」
さっきまでの騒ぎを思い出しため息を付く。
「ここですれば良いんでは?」
優樹の邪魔をしないように、教室の後ろの方で勉強をしていたんだけど、デッサンの人形を片付けに来た彼女が通りすがりにそんな言葉を落としていく
「優樹、良いの?」
「会話するようなら隣の席は困るけど、教室は広いし、そこそこ離れてれば邪魔にはならない、勉強のためって言えば先生は大丈夫だろうし、一条には先生も同情してたから、教室を使いにくい理由は判ってくれると思うよ? ファンクラブは……まぁ、今日で懲りたみたいだからそうそう来ないだろうけれど、最悪気配を感じたら準備室があるし?」
「それは最終手段にしてほしいな……でも、いいのか?日比谷」
「言い出したのは私だよ」
そう優樹は頷いてくれて。
私達の小さな放課後の勉強会は開始したのだった。




