不吉な予言はやめて下さい
中学生になってから三回目のクラス発表の掲示板前。
今までかなりの衝撃を受けてきたので、覚悟を持って見上げたんだけど
「あれ?」
「ふむ……平和?」
そう、結構平和である。
女子は一年の時にこうだったらと思うくらい、長い付き合いの子がちらほら居るし、優樹も香織も一緒だ。
男子は……そもそも私が名前を知っているような男子は大体は私に絡んできた相手で、そう言う意味では、引っかかる名前は多少居るけど、これくらいなら……って感じ。
それに半数は、顔も浮かばない知らない名前だった。
これなら、最近は突っかかってくるのが減っているのもあるし、問題はなさそう。
「でもねぇ……あんた、トラブルメーカーというか妙なの引き寄せるからねぇ」
喜ぶ私の隣で優樹が不穏な事を言う。
「不吉な予言はやめて下さい……あれ? なんか懐かしい人がいる、みーのに、黒田君ってもしかして」
小学校の時に一緒のクラスだった、黒田君? ……黒田直樹、そうそう確かそんな名前だったような。
改めて丁寧に名簿を見ていくと、懐かしい名前が並んでいるのを見つけた
「みーの? ……って時々廊下で話してる子? でも珍しい、あんたが男子に敬称つけるのなんて」
みーのこと、橋本みのりは小学校入りたての頃に仲良くなり、一、二年生の頃は本当によく遊んだ。
だけど三年生の時のクラス替えでクラスが離れてからは、みーのはどんどん女の子っぽくなり、どちらかというと外を駆け回るような遊びが好きだった私と居ることは減った。
そのあたりからは一緒に遊んだりとかはしなくなったけれど、でも今でもたまに廊下とかで会うと、パッと明るい笑顔で私の名前を呼んでくれる。
黒田君も同じ頃のクラスメート。
戸田のせいで私の男子のクラスメートはかなり悲惨なんだけど、なんと彼は昔私を助けてくれたんだ。
遠足のハイキングでで同じ班になったんだけど、体力には自信があったはずが、風邪気味だったにも関わらず前半に飛ばしすぎてしまったせいか動けなくなってしまって。
その時にみーのと一緒に班から遅れていく私に付き合ってくれて、その上彼は私のリュックまで預かってくれた。
当時から男子は敵か無関心な傍観者と思えていた私には、彼は恩人にさえ思えた。
そんな話をしながら新しいクラスに向かおうとすると
「サヤ! 久しぶりだね~」
本来私の名前はさあや、なんだけれど何故か彼女が私の名前を呼ぶとそう聞こえる懐かしい呼び方。
小柄な、けれどメリハリのある体つきと垂れ気味の大きな瞳にポッテリした唇、人なつっこい笑顔のみーのが後ろに立っていた。
「みーの! 9年ぶりに一緒のクラスだね、宜しく!」
「ナオくんも一緒だよ~」
「ナオくん?」
「うん、覚えてる? 一、二年で一緒だった」
言われて、そういえばみーのと黒田君は幼馴染で、彼の事はそんな風に呼んで居たのを思い出す。
「うん、今その話をしてたとこだよ」
「ナオくん~、こっち~」
すると、彼女が黒田君を呼ぶのを見て、私は軽く固まった。
「黒田……君?」
昔もちょっと目つきの鋭いところはあったけれど、俊敏な印象の活発な男の子だった、だからなんとなく鳴木みたいな感じを想像していたんだけど。
久々に顔を合わせた彼は、女子の中では背が高い私をほぼ真上から見下ろす均整の取れた高い身長、昔からキツめだった瞳は更に鋭さを増し、その中学生離れした風貌と相まって迫力を増していた。
みーのを見て笑っている顔はなんとなく昔を思い出させるものではあるんだけど。
「あれ? 藤堂? ……おまえ、ちっとはでかくなったみたいだケド、せんっぜん変わってねーなぁ~?」
そう言って私を見る顔は昔とは違う人を寄せ付けない雰囲気もあって
「そっちはずいぶん変わったね、ともあれ同じクラスらしいよ、宜しく黒田君」
「ぶっ……そうはっきり変わったとか言う奴、久々見たわ、ホント無駄に気が強ぇーの、かわってねーみてーだな……行くぞ、みのり」
そう云って、先に教室へと歩いていった
「あ~、やっぱあの彼なのか、昔からあんな感じなの?」
「いや、さっきも言ってたとおり、あまりに違うから吃驚したよ、時の流れを感じた」
「そっか、私が知った頃はあんな感じだったから、紗綾から名前が出た時は吃驚したけど……ま、取り敢えず教室行こう、HR始まっちゃうよ」
気がつくとボードの前に沢山いた生徒は殆ど居ないことに気が付き慌てて昇降口へと走った。




