修学旅行 2
修学旅行で借りているスキーウェアはサイズの違いだけで、男女とも色の違いはない。
昨日、鳴木は性別すら分からねーよなんて笑ってたけれど、確かにその通りかも。
でも、だったら私達も合流できないんじゃないかな~? なんてことに待ち合わせ場所に向かうリフトに乗りながら気がついて、昨日のうちに相談しておくべきだったと思ったけれど、今更どうすることも出来ない……ま、それならそれで別のコースに行こうと決めたところで、ガクンと椅子が揺れてリフトが到着した。
ぐるっと見回すと人の数はそれなりに見えるけれど、同じスキーウェアの人間は殆ど居ない。
確かにここはこのスキー場の高難易度のコースで、友達同士で楽しく滑るというよりも修行の場所のようだ、うちの学校の生徒には人気が無いのも無理は無い。
しかし、流石一番高低差のあるコースの一番上だけ有ってめちゃくちゃ景色がいい!
「うわぁ!」
……思わず呟いて、端の方まで駆け寄ってコースを眺める。
吸い込まれるような経路と真っ白な雪にわくわくしてきて拳を握りしめたら、後ろから声をかけられた。
「藤堂?」
振り向いてもよく分からないけれど、声は多分鳴木? 頷くと
「やっぱり、おまえなんか動きが特徴有るな、昨日目印の話を忘れたから、ちょっと不安だったけど、上がってくる奴の動き見てれば一目瞭然だろって一条に言われた、念のため、他の上がってくる奴も見てもらってるけどな」
そう云って、バンダナを私に渡す
「これ、腕に巻いとけ、目印になる」
ありがとうと云って鳴木を見ると、右腕に青いバンダナ、私に貸してくれたバンダナは紫色だった。
「一条は赤を巻いてる、と、自分じゃ無理だな、ちょっとストック持っててくれ、巻いてやる」
ボスッ……
雪って意外と硬いんだよなぁ……でも、きっもちいい!!!
散々滑って、ちょっと暑くなってきたので、ふんわりとした雪に背中から倒れてみた。
ウェアを着ているからそんなに冷たくはないけれど、ほっぺたに直接触る雪がほてった体を冷やしてくれる。
「おい、……転んだのか?」
一条が、ちょっと焦ったように近くまで来て覗き込んで来たから
「あんまり、気持ちよくてね、ちょっと寝転んでみたくなった」
「……そういうこと、普通女がするか?」
呆れたような声音に
「気持ちいいよ~、一条も寝る?」
「……っ、この、馬鹿」
私のとなりの雪を手でぺしぺしと叩いてそう言ったら、怒って向こうに行ってしまった。
うーん、昔から比べれば一条も随分接しやすくなったけれど、妙に怒りっぽくなったような気がする。
まぁ、あの滑りを見ればなぁ……
インストラクターの先生のような綺麗なフォームで結構ごつごつした面も全くそうは感じられないスムーズさで丁寧にコースを選んで滑っていた。
私の、父譲りのコースの迂回は最小限で最短距離を突き抜けるようなスキーとは大違いで、やっぱりあの繊細さが私を気に入らなかった原因だろうなと再確認してしまう。
「おまえ……寝るなよ?」
鳴木に言われてはっとする
「ったく、凍死するぞ?」
笑ってごまかして、ムクリと起き上がる、体についた雪を払って落とし、ん~~っ! と伸びをする
「ほんっと、気持ち良かった! 満喫した! 鳴木のお陰だね、ありがとう」
鳴木は一条ほど繊細では無いけれど、危なげの無いコース取りに、伸びやかなフォームでゲレンデと一体化したかのような自然な滑りは見て居て小気味良かった。
「楽しそうで良かったよ、俺も面白かった、おまえの豪快な滑り、……おまえが滑り抜けたトコに居た女子大生っぽいのが、かっこいいねー、何処のの男の子だろう? ……なんて言ってたぜ」
「あ~、髪の毛アップにして、帽子に入れてるしね~」
やっぱこの格好では性別は判りにくいかと頷いたら
「ぜってー、だからじゃねぇって!」
自覚無いのかよと吹き出されてしまった。
「スキーウェアと帽子とゴーグルで性別すら判らないって言ったの自分なのにさ……」
帰りのバスで優樹に自由行動の時の話をしていた。
バスの中はとても静かで、それもそのはず、帰り時間のギリギリまでみんな滑っていたから、生徒の殆どは疲れきって眠っている。
私も実は眠いのだけれど、身体が痛くて寝るどころじゃないと嘆く優樹がちょっと可愛そうだし、話し相手になれば気は紛れるかなと起きていることにしたんだ。
あの日部屋に戻った時はもう他の子も居たし、余りゆっくり話す時間は無かったから、丁度良いかなと、そのままなんで鳴木達と行動するようになったのか、なんて話になったんだけど。
私の話を聞くと優樹は、薄く人の悪い笑みを浮かべて
「しかし、鳴木もクロスワードで部屋に呼ぶとか、……あんまり女子と話しているところとか見たこと無いから人畜無害タイプと思ってたけど、結構、素で天然なのかもねぇ? ……紗綾みたいだ」
……なんて、この返答。
お付き合いして健気に起きている友達に言う言葉かなぁ? これ