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えと……、ちょっと渡したいものがあるんだけど

「一条君てさ~、めちゃめちゃ格好いいよね?」

 皐ちゃんこと、来栖 皐ちゃんは莉緒の学校の友達で二年生からこの塾に入って来た。

私の憧れの真っ黒ストレートヘアーをさっくりと顎の下あたりで切りそろえている、流石莉緒と友達だけあってお洒落な女の子。

 ……でも、趣味が悪い?


「まぁ、背が低いのは何とも惜しいけど、ビジュアルは悪くないのよね、確かに……って、紗綾気持ちはわかるけどそんな顔していると眉間に皺出来るよ?」

 名前を聞いて反射的にしかめてしまった眉間を、莉緒につつかれる。

「私服もおしゃれだしね、あんなビシッとした格好している同級生見たことないかも」

 と、同調する松くんに

「七五三じゃん……」

 思わず呟いて、皐ちゃんに呆れた顔をされる。

「紗綾は一条君、何とも思わないの?」

「何ともというか、うざったい、面倒くさい?」

「ふうん? ……でもよく話しているよね」

 その言葉に、きっと今、私の眉間の皺はもっと深くなっていることだろう。


「おまえ、その髪少しはちゃんと梳かせよ、女だろ?」

「響くんだ、おまえの声、うるさい」

「乱暴女」

 あの皮肉げな顔で今まで言われた言葉がグルグルと脳内を周り、思わず拳を強く握ってしまう。

「……あーゆーの話しているって言うのかな?」

「でも、同じ学校でクラスも一緒なんだよね?」

「そうだよ」

「じゃ、これっ」

 と、手紙らしきものを差し出される

「はい?」

「一条君とお友達になりたいの、だから、紗綾お願い!」

「塾で渡せないの?」

「一条君、暫く塾休むって言ってたよ」

 そうなの? って驚いたら、本当に紗綾は興味ないことはスルーだねと、莉緒が苦笑していて

「確か、試合が近いとか言ってなかった?」

「あ、そーか……もうすぐ大会か」

 うちのサッカー部は結構強くて、今度の大会でも優勝候補だとか? そんな話でクラスの女子が盛り上がっているのを聞いたような気がする。


「うん、だから、紗綾! お願い」

 艶のある真っ黒な髪をサラっと揺らして小首を傾げる姿はTVでみるアイドルのようで、ちょっと見とれてしまう。

 これだけ可愛ければ私みたいな目にあうこともないんだろうなぁ……とため息がでる。


 ――あ、でも、一条と皐ちゃんが仲良くなれば、流石に塾で私にあの態度は取りにくくなるかもしれない? 

 それに、彼女からの頼み事なんて初めてで、こんな風に頼んでくるのを断ることはしにくくて

「判った、頑張ってみる、一条にコレを渡せばいいんだね?」

 そう言って、薄い桃色の可愛い封筒を受け取ったんだけど。



「さて、と……どうしようか」

 一条に会うのはそんなに難しくない、どうせ教室にいれば二言三言嫌味を言いに来る。

 けど、流石にここで渡すのは……。


塾のみんなの言葉でも明らかなように、一条は背は低いけど顔だけは良いからか、女子の人気は高い。

 下手なことをすると、また女子の敵を増やすだけだ。

 何より手紙なんて渡したら、最近ちょっと大人しくなっている男子達まで騒ぎ立てるに決まってる。


 うーん……と、唸っていると

「ますます不細工になるぞ」

 通りすがりの一条が嫌味を落としていく

「~~っ……って、一条、ちょっと待って」

 思わず言い返しそうになって、慌てて喧嘩腰の言葉を飲み込んで、呼び止めると驚いた顔をして立ち止まるのに

「えと……、ちょっと渡したいものがあるんだけど」

小声でひそっと言う

「おまえが? ……何だ?」

「や、ここではちょっと」

 と、話していたら前のドアが空き、先生が入って来た、そう言えば予鈴はもう鳴り終わっていて……。

「後でいいよ、ごめん、戻って」

 そう言うと、一条は少し迷ったようだけど、先生が教卓に教科書を置くのを見て、戸惑いを振り切るように自分の席へと向かって行くのにほっとする。

 危ないところだった、咄嗟に言い返しそうになった。

 でも、どうしよう? 渡す場所とか全然考えていなかったのに、つい……。


「藤堂、おまえ今日部活は?」

 授業が終わってすぐ、一条が私の席に来た

「ん? 行くよ」

「じゃぁ、放課後美術室に取りに行く」

 頷くと、それだけ言って廊下に出て行く。


 成る程、その手があったか……、部室ならば人は少ないし噂にもなりにくい、一条が私の頼み事に応えてわざわざ校舎の端にある、そこまで来てくれるというのは意外に感じたけれど、ともあれお使いは達成出来そうだと肩の荷が少し軽くなった気がした。

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