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実害がない? 実害と言うでしょう、それは

 掃除を終わらせて美術室に向かおうと少し駆け足になりながら廊下を急いでいると、すっと目の前に箒が出されて危うく躓きそうになった。

「やだ、ごっめーん! 掃除してたら……」

 などと謝ってくるけれど、その子以外のくすくす笑いながら周りにいる子たちは、ちりとりさえも持っていない。

 明らかに私を転ばすためとしか思えないその行動に、男子相手ならここで言い返しようもあるのだけれど、相手が女の子の場合どうしたらわからなくて、つい固まってしまう。

 言葉上は謝っているわけだし、文句を言えば謝ったのにだの、怖いだの言われて、時には涙さえ浮かべてみせて、如何にもか弱げな被害者のように振る舞われるのはもう判っていたから。

 仕方なく気をつけてと言いながら去る位しか対処が思いつかない。


 けれど、その背中でヒソヒソと、ブスの癖に、男好き、うっうしい、目障りだのと言った陰口を聞こえよがしに囁くのが聞こえて、ふうとため息をつく。

 そろそろ私にも飽きてきたのか、鳴木の忠告を聞いたのが良かったのか、私に絡む男子は確実に数は減った。

 けれど反比例するように他のクラスの全く知らない女の子からの敵意を感じることは増えてきていた。


 先日もゴミ捨てに焼却炉に向かってたら、校舎の窓からゴミが降ってきたし……。

 その時も丸められた紙くずには、身の程を知れとか、一条君に近づくな、鷲尾君に触らないで、坂本君に話しかけるな……等の私に絡んで来る定番メンバーの名前が書いてあって。


「実害はないけれど、地味にくるねぇ……」

 なんて、絵を書く優樹の隣で、私はモチーフを彫りながら今日の事を愚痴ると

「実害がない? 実害と言うでしょう、それは」

 そう言って優樹は呆れたように私を見た

「そうなのかな? 女子の攻撃ってなんかチクチクするんだけど、回りくどくてどうしたら良いか分からないんだよねぇ……、それにあの子達には私何にもしてないんだけどなぁ?」


「何もしてないと言えばしてないかもしれないけど 一年の時だって女子の反感買った切っ掛けが戸田な事考えれば理由は明らかでしょうに……」

「まぁ、私があいつらと関わるのが気にくわないんだろうなってのは何となく判るよ? でも、話すな触るなって向こうから来るものをどうしろっていうのかなぁ、そもそもどこが良いんだか気がしれないよ……」

「あんたの評価は必ずしも他の人間の評価とは重ならないって事だよ、紗綾が興味が無いのは判るけれど、あんたとは違う価値観の人間がいるという事は理解しておく方が良いと思うよ」

 そう続ける言葉に思わず俯いてしまう、確かに私は他人の事に無関心と思われがちな所がある……らしい。

 けれど

「まぁ、今のあんたに彼らに憧れる子の気持ちを判れと言うのも、無茶な話だとは思うけどね」

 何て事も言ってくれるから、ほっとしかけたところで

「でも戸田一人でもああなったんだから、人数増えればより敵は増えるよね? 壮大な尾ひれをつけた噂話も広まってるみたいだし?」

 追い打ちをかけるのが、この親友で……。


「せめて、面白がって妙な噂を立てないで欲しいよ」

 私があいつらに気があるとか、あいつらが私を気になるから構ってるとか……、しかもその相手が一条、鷲尾、坂本、そして何故か鳴木迄入っていると香織に聞いた時は目眩がした。

「それぞれのファンからは考えたくも無いだろうけど、無関係な傍観者にしたらそういうストーリーは面白いんだとは思うよ? 皆好きだしね、誰が誰を好きだなんて話」

「鳴木なんて、塾では兎も角、学校では殆ど接してないんだけどなぁ……」

 そう言って溜息をつくと

「鳴木は、わりとあんたを気にしてくれているとは思うよ? 例の忠告も良く判ってるなって思ったし、ただまぁ、鳴木があんたをそうやって見ている視線を、塾での繋がりを知らない子が見れば、引っかかるものはあるのかもしれないね」

 優樹に言われて、確かにって思う部分もある、鳴木は余計なことを言ってきたり、ことある事にからかってきたりして、私にとっては塾での喧嘩相手だ。

 ……でも、時々助けようともしてくれる、あの数学の授業の時や、夏休みにしてくれた忠告みたいに。

 だからこそ、せめてあいつだけは巻き込みたくないんだけど……。


「絡んで来るのが減った分、残ってるのが目立って見えるのかもね? なんせ嫌味言われてるだけでも妄想で嫉妬して、攻撃してくるような思考回路だ……」

そう苦笑する優樹に、しみじみ女子はわからんと呟いたら、一応あんたも女子なんだけどねぇ……と笑われてしまった。

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