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咲夜って……誰?

「特別な消しゴムなの?」

 莉緒がてのひらの上で消しゴムを転がしながら嬉しそうな顔をしているのを見て声をかけると、うふふと笑いながらないしょだよと言って、消しゴムのケースをずらして

「ほら」

 と見せてくれた。

 そこには『春臣』の文字、莉緒の彼氏の名前。


「今、学校で流行っているオマジナイ、こうして消しゴムのケースで隠れるところに名前を書いて、誰にも触られずに使い切ると恋が叶うの、付き合っている相手の場合は、ずっと一緖にいられるって言われててね、もう大分小さくなって来たなって……」

 嬉しそうにふわりと微笑んだ。


 塾の授業中、数学はついていくのに必死で余裕はないけれど、国語の時間はプリントを配られた時など少し時間が余る。

 さて、何で時間潰そうか……と思って、消しゴムが目に入った。

 今使っているのがかなり小さくなっているので、さっき買ってきた新品の消しゴム。


 恋が叶うおまじない……。

 好きな人は居ないけど、会いたい人、……というか居たらなぁ、って人なら居る。

 消しゴムに咲夜って書いたら、咲夜みたいな人に出会えるかなぁ? 会えるかは分からないけれど、好きな人の名前を書いた消しゴムってちょっと特別な感じで楽しそう?

 そう思って新品の消しゴムの封を切り、ケースを抜いた。


「おい、無視すんなよ鳥の巣頭」

「気がつかなかっただけだよ、何の用?」

「教室に居ると目障りなんだよ、お前」

「そう言われてもね、これ返却日今日までなんだ」

 折角の休み時間だというのにこいつらは……、本を読んでいると、鷲尾と平田に絡まれた。

 鳴木に夏休みに言われたことにも一理あるのかなと、無視をするのは止めて私なりにまだ柔らかい? と思える言葉を返して見る。

 少し悔しいけれど、相手の言葉に少しだけ折れてみせると、満足するのも居るんだというのが最近の発見。

 その効果は有るみたいで、私のクラスまで来る馬鹿は少し減ったような気もして居る。

 ただ、一年の頃から何かとうるさいこいつとかは飽きもせず突っかかって来るんだ。


 貴重な休み時間を私なんて構って楽しいのかなと呆れつつ、本ごしに様子を伺っていると、机の上にある私の消しゴムを摘まんで

「面白みのねぇ〜消しゴム、本当に女か?」

なんて言って、弄び出すのに、あっ……、って反応してしまった

 その様子に、何か有ると思ったのだろう。


ケースを抜かれてしまい 

「咲夜~?」

「あ、それ女子がやってる、なんか下んねーおまじない? とか何とか」

 鷲尾も平田も他の女子とは普通に話したりしているので、それで知ったのだろう、消しゴムの名前の意味を判ったらしい。

「咲夜……、誰だよ?」

「学校にそんな奴居たか?」 

 ――学校になんて、居る訳がない

 訝しげな二人が可笑しくて、思わずくすりと笑ってしまう、すると少し驚いた様にこちらを見る。


「馬鹿じゃね? 咲夜はお前なんて好きにならねーよ」

「そうだよ、咲夜は他に好きな人がいるもん、でも良いの、だから返して?」

 そうはっきり告げると鼻じらんだような顔をして席に戻っていった。


 ふう……と溜息をついて消しゴムをケースに入れて筆箱に戻して、顔を上げると鳴木と目があった。

 二学期になってくじ引きに寄る席替えで隣の席では無くなったけど、一列置いての斜め前の席。

 うるさかったかなって、ちょっと気になったから、『お騒がせしました』ってつもりで少し頭を下げた。


 けれど、鳴木はふいっと顔を背けしまって、あれ? って思ったけど、そのまま先生が入ってきたので、私もも正面を向いて……まだ授業の準備してない事に気がつき、慌てて教材を取り出した。


 今日の塾は期末試験対策。

 試験日は学校によって微妙に違う上、うちは少し日程が早いらしく一年の時から試験対策はうちの学校の人間だけのことが多い。

 対策中の生徒は別室で試験対策のプリントをすることになっており、一枚ごとに終わったら講師に聞きに行くというシステム。

 なので、今この教室には、私と鳴木と一条だけしか居ない。


 静かな教室にペンを走らせる音だけが響く中、どうやら講師に新しいプリントを貰いに行くらしい一条が席を立つのに集中が切れペンを置き、ふーと伸びをしたら、こちらを見ていた鳴木と目が合う。

 伸びをしたまま

「ん?」

 と首を傾けたら

「咲夜って……誰?」

 そう言われて、とたん固まる私。

 ――聞こえてたのか。

 流石に小説のキャラクターというのは言いにくいし、馬鹿にされるのは眼に見えている。

 答えに詰まってると

「何?」

 重ねて聞かれ

「や、うーん……憧れの人というか……」

 と、上手く言えずに口ごもると

「へぇ……」

 つまらなそうに呟いて、鳴木もプリントを持って出ていった。

 何故そんなことを? と思ったけれど、今まで色々なことで散々からかわれてきたし、ネタにでもする気かなぁと思って、プリントの続きに目をやった。


「ふふっ、さ~あやっ! これっ!」

 翌週の塾で、莉緒が片手に本を持ちながら私に話しかけて来た。

「えぇ? 嘘! 近所の本屋さん寄ってきたけどまだ出てなかったよ」

「家の近所に少し発売日早いところ有るの、この辺の本屋さんだと週明けかしらね?」

「それ、何処にあるの? 行こうかな~」

 私の大好きな咲夜のシリーズの新刊が出るというのは知っていたけれど、私の行動範囲の本屋さんにはまだ置いていなくて、なのに莉緒の家の近所の本屋さんには並んでたと聞いて休みの日ににそこまで行こうかと考えていると

「紗綾、そこまでしなくても月曜日には手に入るでしょう? っていうか、まだ咲夜が一番なの? 大丈夫? 咲夜はリアルには居ないのよ?」

「ぶっ……」

 瞬間後ろの席で鳴木が吹き出すのが判った。

 これで咲夜の正体がバレたかなぁとため息を付きながら後ろを向くと

「お……まえ、咲夜って漫画のキャラクターなのか? 年、いくつなんだよ!」

 そんな事を言いながら、そのままゲラゲラと笑っている……

「小説だもん……」

 訂正するも、我ながらその言葉には説得力が無く、鳴木は更に笑っていて。

 その様子に不思議そうな顔をする莉緒に学校での騒動を話して、莉緒のまねをしてみたと消しゴムを渡す。

「え、触って良いの?」

「もうそれは破られちゃったから……抜いて良いよ」

 そう言ったら、それは残念ねって言いながらそのケースを抜くと、……目をまん丸にして私を見て

「紗綾……ごめん、こればっかりは鳴木君に賛成するわ」

 そう言われてしまった。

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