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居場所、あげましょうか?

「ねぇ、優樹、私と戸田にはもう前世の因縁が有ると思うことにした…」

「はぁ?」

「あのね、世の中には何故其れが嫌いか判らないものってあるじゃ無い? 私は言わずと知れたあの虫なんだけどね、毒も無いのに無条件で感じる生理的嫌悪感……不思議だよね? でもね、あれって太古の昔は地球上で最も強い生物の一つだったことがあってね、アレにやられた生物ってものすごく多かったんだって! だからね、その記憶が残っている私達は殆ど無意識でアレが苦手なんだって!」

「紗綾、あんたはまた何処でそういう話を拾ってくるの……」 

「昨日読んだホラー漫画! 読んだ時コレだ! って思ったんだ」  


 理由が分からないずっと向けられてきた敵意、多分私は彼を前世で何かしてしまったんだと思う……。

 なんてね? 本当は霊とか前世とかそういう話題への信憑性はは半信半疑な状態で、絶対に有るなんて思ってはいない。

 でも、未だに陰謀論の消えない宇宙人やUFO話、私は体験したことは無いけれど、幽霊が出たとかそれを祓ったとかそんな怪談話、理由は思いつかないのにの何故か嫌いなもの、世の中に不思議なことは沢山ある。

 可能性の一つとしてそんなのもあるかなぁって、そう思ったんだ。


 そう昨日考えたことを話すと

「まぁ、確かに、人の心ってものは何を生み出すか分からないものだけどねぇ……」

 頷く優樹に、でしょう? きっとあいつの心も! と勢い付くと

「いや、奇天烈きてれつなものを生み出しているのは……」

 こちらを見て薄く笑うと、筆を洗ってくると席を立ってしまった。


「ふむ……、じゃぁ藤堂さんは戸田くんに前世で何をしたんでしょうかねぇ?」

 ガラリと美術室の扉が開き顧問の先生が入ってきながら、入り口の側に座っていた私を見て面白そうに笑った。

「葛城先生? 今日は会議だったんじゃ?」

「その予定だったんですけどねぇ、ちょっと早く終わってしまったんです、戻ったらなんだか面白そうな話が聞こえたものですから……」

 それ立ち聞きとか言うんじゃないですか? 恥ずかしくて不満を言うも、あれだけ大きな声では聞こえちゃいますよ、と言われ押し黙る。

 興奮するとつい声が大きくなってしまう……、元々よく響く声だと家族にも言われるので気をつけているのだけど。

「ま、大丈夫ですよ、美術室は元々奥まったところにあるし、部室に近寄ることの少ない美術部員位しか用がある人はいませんしね、元気があるのは良いことでしょう……ところで、どうですか? A組は?」


 4月の入学式でのクラス発表で、私は(約一名を除いて)殆ど知り合いの居ないクラスに決まった。

 けれど、このクラスは私以外は元々の知り合い多かったのか、クラス初日から何となく纏まりが決まってきてた模様で、私は見事に一人あぶれてしまっていた。

 けれど私は、一人で居ることも嫌いじゃなかったし、他のクラスにも友だちはいるし……って、それほど気にしては居なかったんだ。

 戸田圭一、小学校一年の頃からずっと一緒だった彼との確執が、私の中学生活に暗い影を落としはじめるまでは。


 あいつの私に対する態度のせいで、小学生の頃から戸田の尻馬に乗ってはやし立てて来る男子は一定数居て、敵に回ることは多かった。

 けれど、弟も居るし、生意気盛りの従兄弟の中で一番年上の唯一の女の子という環境で育った私は、何か言われたら言い返すし、やられたことには文句を言う、物をとられたら追いかけて取り返す等々、自分で対処ができていると思っていた。


 ううん、出来ていたのだと思う、だからこそ、学校も余り大事と思わずあいつと私を同じクラスにし続けたのだろう。

 けれど、中学生になって、ほぼ初対面の女子の中で、友達の多い男子に構われるというのは、全く別の意味を持つのだと最近知った。


 構って貰おうとしている、女の子とはしゃべらない癖に男の子ばかりに積極的に近寄っている……等、聞こえよがしな言葉をひそひそと交わしながら、何故か苛立たしげに私を睨む女子と関わり合いになりたくないと距離を置く女子。

 ……気がつけばクラスの女子はそのどちらかになってしまっていて。

 そして、男子も戸田の尻馬に乗って私をからかってくるのが約半数、残りの半数はやはり関わり合いになるのを恐れて私には近寄らなくなってしまっていた。


「あはは、相変わらず……ですね、卵焼きの中でひとりゆで卵になって転がってしまった感じです」

 そんな風に現状をぽつぽつと話していると

「ふむ……、一回固まってしまうと、なかなか紛れ込むのは難しいですからねぇ」

 先生の言葉に溜め息を付いていると

「居場所、あげましょうか? ……うちの部員の殆どよりもここに来ているのですし、いっそ美術部に入るとか?」

葛城先生は唐突にそう言ってにっこりと微笑んだ。


「え? でも、絵は見るのは好きですけど上手では無いですし、手先も器用というわけでも無いんですけど……」

 そういうと、先生は今日の会議の内容について話し始めた。


 なんでも、今日の会議でこの部活は幽霊部員が多く、発表会などの特別な時期だけ部員が集まることが多い様子を部活としての纏まりが無いと言われたらしい。


 確かに、ここはいつ来ても優樹一人のことが多い、けれどそれは『表現というのは無理に一箇所に押し込めてやらせるものではなく、心の向いた事を心の向いた場所で迷惑にならない範囲で』と言う先生の指導方針の結果故であって、生徒は大抵は戸外の景色の良い場所で写生などをしている。

 だから決して活動していないというわけでは無い。

 それに、煮詰まった生徒に対する的確さは、その指導を少し見ていれば分かる話なのに……。

 つい先日、どうしても色が纏まらないと相談してきた生徒に、ある一点一箇所に少し筆を加える事を教えるだけで、何処かぼやけて見えた縦横無尽に色彩が広がる絵を、印象的な締まりのある絵にしてみせた手腕は忘れられない。

 

「芸術って理解されにくいんですよね~、文化祭では美術部での共同制作を出せって言われちゃいましたよ」

 困ったように呟く先生に

「もしかして、共同制作の人員確保ですか?」

そう笑いながら聞くと

「よく分かりましたね」

と、微笑みながら

「風景画が得意な生徒が多いので、架空の異国風の町並みを書いて貰って、そこここに煉瓦に見える彫刻を貼って統一感を見せる……どうでしょう?」

 此処には彫刻を得意とする生徒は居ないというのに、そんなことを言いながらニコニコと私を見ている。

「つまり、私に煉瓦の壁模様を彫れと……?」

「えぇ、幸い余分な木片は沢山有りますし、煉瓦なら基本のラインは直線ですのでそんなに難しくはありません、色々な形に整えてボードに貼ればそれなりの雰囲気になるかと……」

 一見、教師の都合に合わせた勝手な提案にも思える言葉、けれど入学以来約二ヶ月、優樹の側でだらだらしている私を排除したことは無いこの先生の提案は、役目を与えることで学校での居場所をくれるようにも思えて……、気がつけば先生の差し出す入部届を受け取っていたんだ。

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