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本当におまえじゃ無いんだな? (side 一条)

 授業が終わった後、相変わらず塾の連中とくだらない話でもしているのか、中々出てこないあいつに苛々しながら、……俺は駐輪場へ続く廊下から動く気にはなれないでいた。


「紗綾、自転車気をつけてよ~? ちゃんと前見てね!」

「も~、皐ちゃんまでそんな事を言うんだから、私は意外としっかりしているよ」

「しっかりしている人は、自分で自分のことをしっかりしているとは余り言わないものだよ?」

「ま、松くんまで~」

 教室を出た後も去り難いのか、入り口でそんなやりとりをして居る。

 ここでの藤堂はいつも気を張っているように見える学校での姿が嘘のように、気の抜けた笑顔でへらへらとしまりがない。


「じゃぁね! また!」

 ようやく別れを告げると、勢いの良い足音が近づいてきて

「……一条?」

 遠目に見ても緩みきった笑顔だったのが、俺を見つけた瞬間訝しげに強ばる。

 色々な女を見てきたが、俺を見た瞬間こんな顔をする奴はきっとこいつくらいだ。

「戸田への手紙、本当におまえじゃ無いんだな?」

「はぁ? 一条まで何を言い出すの?」

「なら……」

 ――別にいい…。

 その、呆れたというような表情かおに違うことは確定だと、肩の力が抜けるのが判った。


 今日のサッカー部での戸田は酷い物だった、押さえきれない苛立ちをぶつけるような乱暴なプレー、チームメイトを怪我させかねない強引な突破。

 すると、隣の鳴木が『ありゃ相当藤堂の手紙が効いてるな』なんて呟くのに驚いて、なんのことだと聞けば、藤堂名義のラブレターが戸田に届いたらしいとか言い出した。

 丁度顧問に呼ばれた鳴木は『偽物らしいけど』なんてそれだけ言って走って行ってしまったから、不確定な『らしい』ばかりの会話……それにしても、藤堂が戸田を? どう考えても結びつかないしあり得ない、現に鳴木も偽物だと言っている。

 だけど、もし本当だったら? そう思ったら確かめずに居られなかった。


「一条?」

「…っ! なんだっ」

 突然、目の前に訝しげな藤堂の顔があり驚くと

「それは、こっちのセリフ、言いかけで黙られると気になる」

「……おまえに好きな奴でも出来たなら、少しは静かになるかと思ったんだ」

 咄嗟に、言おうと思って居た言葉を引っ込めて、思っても居なかったことを口に出してしまうと、藤堂は目を丸くした後吹きだした

「あぁ、それは悪かったね、少なくとも私に好きな人は居ないし、いつか出来るとしても戸田はあり得ないよ」

「人の気持ちなんか分からないだろ、あいつだって女には人気のある方だし、まぁ、好きになっても、おまえみたいな奴に応えるとも思えないがな」

「あぁ、もう、うるさいな~、戸田は無いよ」

 そうきっぱりと言い切った癖に、ふと、何かを考えるような顔をする。

 その様子に、やはり何か残る感情があるのかと見ていると、何かを思いついたかのようにふっと笑った。

「例えば、……私が一条を好きになったりすると思う? お互いあり得ないって思うでしょ? 戸田もそんな感じだよ」

「なっ……」

「じゃぁ、私は帰るよ、親心配するし」

 そう言って走って行く後ろ姿を呆然と見送る。 

 

 本当は今日ここに居たのは、万が一あいつが戸田を好きなら、止めておけと言うつもりだった。

 あれほどの拒否反応、本当だったとしても叶うはずが無い。

 そして、再度繰り返しでもされるたびに、戸田があんな状態になられたらこちらにも被害が及ぶ。

 だから、鳴木の偽物だという言葉をきちんと確認したかった。


 だけど、やはり藤堂は戸田に興味は無いどころか、俺を好きになることだって無いとかきっぱり言って去って行った。

 俺だって、あんな女は趣味じゃ無い、断じて。

 その証拠に、あいつと関わるとこんなに気分が悪くなる。

 本当に、何で俺は自分の時間を潰してまでこんな時間までこんな場所に……、そう思うとますます藤堂に苛立ちが募るのが判った。

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