おい……、大丈夫なのか?
塾も通っているし、国語と英語はわりと得意なんだけど、どうにも数学が苦手。
なのに、先生に黒板の前に出ての証明の問題に当てられてしまった。
制限時間はは15分、唸りつつ解いていると、隣の鳴木が
「おい……、大丈夫なのか?」
と小さな声で囁くように声をかけて来た。
その声を聞いて振り向いた私の表情に、答えは聞くまでも無いと悟ったのか
「問の15だよな? これは最初に……」
解き方を教えてくれようとした。
……んだけど、私はパニック!
問題を解くどころではない。
私に関わると面倒なことになるよ? 私への攻撃の余波を受けて、つっかかられたり、妙な噂を流されたり。
だから、学校では私にはかかわらない方がいいって! そんなことをグルグル考えつつ、
「あ、ありがと、うん、……大丈夫」
兎に角会話を切り上げようと適当なことを言うも、私の数学の弱さを知っている鳴木は訝しげな顔をして
「本当に判ったのか?」
なんて言ってくれる。
とてもありがたいと思う、でも、一刻も早く会話を切り上げたくて、機械的にコクコクと頷き、漸く私に話しかけるのを止めた彼にほっとして一人問題に向かい、それから5分ほど、再度頭を抱えて悩んだけれど、結局答えは出せず。
先生には出来たのか? と言われて、軽く首を振った。
そのやりとりを鳴木がどう思っただろうとは気になったけれど、好意を受け取れなかった余裕のなさと、問題を解けなかった気恥ずかしさにそちらを見ることは出来ず、ぐったりと机に顔を伏せることしか出来なかった。
次の授業は体育でバスケットボール。
私が、得点板の数字をめくっていると、普段余り接点のない加藤さんがすっと寄ってきた。
「……藤堂さんっていいよね」
ぼそっと呟いた言葉の意味がわからず、まじまじと顔を見ていると
「男の子に構われてさ」
と、何故か恨めしげな上目使いで言われるのに意味が分からず
「いやいやいや……、見ていればわかると思うけれど、嫌がらせと言うと思う、アイツらは嫌いなんだよ、私が」
慌ててそう答えると
「嘘、さっき鳴木君に教えてもらってたじゃん、それにいつもっ……」
ついさっきの出来事を強い口調で指摘して、重ねて何か言いかけて思い直したように言葉を飲み込むと、そのままじっと私を見つめるのに、思わず言葉を失ってしまう。
だって、大抵の彼女曰く『構われる』と言うのはどう考えても嫌がらせとしか思えない私への攻撃で、さっきの鳴木の好意(だったのかな?)は確かに嫌がらせでは無いけれど、あんな行動は私も初めてで……。
そんな事を考えてたら、なんて言葉を返せば良いか判らなくなってしまって、じっと私を見つめる彼女を見つめ返してしまっていたら、加藤さんはひとつ溜め息を付くとそのまま友達のところに戻っていってしまった。
教えて貰って、って……さっきの? だよね? 彼女の席は私よりかなり前の方で、一番後ろの私の事は、いちいち振り向かない限り知りようが無いと思う。
それに、鳴木と話していたのは5分にも満たない筈で、誰かに見られたらまたからかわれるかもって、確かにそれを危惧して教えてくれようとしたのを断ってしまったのはあるけれど、そんなたった一回のあれだけの時間の出来事を見て居て指摘されるなんて……。
「藤堂さん! 点数! ちょっとしっかりしてよ」
どうやらスリーポイントを決めたらしいクラスメートからの声かけにはっとして、取り敢えず動揺した心を誤魔化して機械的に試合を見守るように心を入れ替えたけれど。
やっぱり私に関わると相手にとってろくな事にはならなそうだと、改めてそう思った。