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そーか、「と」と「な」は近いよね……。

「よ、よろしく」

「お…、おぅ」

 新しい教室は出席番号順に席が振られ(今までずっとそこは大抵戸田だった)私の隣には鳴木が座っていた。

 そーか、「と」と「な」は近いよね……。

 女子の出席番号13番の私と、男子の出席番号13の鳴木。

 しかし微妙な番号である。

 

 戸田よりは気が楽ではあるのだけど、鳴木は鳴木で一体どういう顔をすればいいのか判らず、何だか落ち着かない。

 週に三回は塾で顔を合わせるし、塾では割としゃべっている気もする、……ばーかとか天然に対してうるさーい! とかってのが会話だというのなら、だけど。


 けれど、ここは学校。

今まであまり学校で鳴木と会うことはなかったので、一体この場所でどんな顔をしたらいいか判らず、取り敢えず挨拶だけしてみた。

 すると、鳴木もちょっと吃驚した顔をして、それでも返事は返してくれたことに少し驚く

「初めてだわ……私」

「何が?」

「新学期にこんな平和な挨拶したの」

 鳴木は一瞬訝しげな顔をして、何かに思い当たったように眉をひそめた

「戸田?」

「うん、……あぁ、何だか開放感を感じる、自由ってこういう感じ?」

「いや、知らねーけど?」

 そんな初の穏やかな会話をしていると


「へぇ~、珍しい、仲良しなの?こいつと」

「浮かれすぎじゃね? 戸田が居ないとそんなに嬉しい?」

 ニヤニヤしながら鷲尾と平田が私の机を囲みつつ、鳴木の方を見ながら言ってくるのに焦る、これでは鳴木が私の巻き添えになりかねない

「うるっさいな、なにか関係有る?あんたたちに」

 だから、鳴木に意識を向けないように、自分の席にガンっと座り直し下から睨みつけた。


「ほんと、可愛くない」

「本ばっかり読んでる根暗女のくせに」

「だから、それがあんたに何の関係が?」

 そんなすさんだ会話をしていると、鷲尾と平田越しに驚いたようにこちらを見ている鳴木と目が合った。


 この前声を掛けられて、勘違いしてきつく当たってしまった事もあったけれど、基本的には鳴木とは塾でしか接触は無かったからこう言う私はあまり知らないはずで、それでも何かを思ったのかこちらに動こうとする鳴木をぐっと睨んで止める。

 いま、下手に口を出せば巻き込んでしまう、だから、これで分かってくれると良いのだけど……。


 分かってくれたのかどうだか、ふいと視線を落とした鳴木にほっとして、周りを見回すと心配気な顔でこちらを見ている優樹を見つけて大丈夫と微笑んでみる。

 優樹も身体があまり強くないから、こんな厄介ごとには巻き込みたくない。

 さて、どうしようかと思ったら

 ガラッ…

 前の戸が開いて先生が入ってきた

「HRはじめんぞ~」

 すると、のんびりと響いた新しい担任の言葉に

「いい気になってんじゃねーぞ?」

 そんな手垢にまみれた捨てゼリフを残して私の目の前の壁は消えていった。


「なんか、前よりひどくなってない?」

 憩いの美術室。

 小学校の時からの私を知る優樹が心配そうにこちらを見てそう言って来る

「やっぱ、そう思う? なんかね~、微妙に雰囲気違うんだよねぇ、まぁ、小学生の時よりかは男子は大きくなってるしねぇ、壁になって鬱陶しいんだよね」

「……あんたも、なんかすさんだ気がする」

 あぁ、それは何か凹むなぁ……。


 コリコリと薔薇の花を彫りながらため息を付く。

 去年の共同制作は意外と好評だったらしく、今年は薔薇を彫る事になった。

 あの形式の共同制作だと生徒一人一人の自由度は妨げずに何となくまとまりを持たす事ができる。

 そう、モチーフを彫る人間さえいれば。

 そこで、今回は薔薇の花を彫って少しゴシックな雰囲気の風景をと言うことになった。

 やけに甘い雰囲気のお題に何でですかって聞いたら

「薔薇って意外と彫りやすいんですよね」

 そう言って、ニッコリとする

「まさか、それありきですか?」

「ええ、彫る方の事を最優先しました、簡単な割に華やかに見えるんですよ」


 私にとっても此処は唯一校内で気を抜ける場所、去年の成果で彫刻刀の基本的な使い方もずいぶん上達したし、モチーフを彫ることに否やは無いのだけれど、相変わらずの先生の様子に苦笑して

「お気遣いありがとうございます」

 そう言ったら

「いえいえ、お手数おかけしますが頑張ってください」

 こちらは苦味成分の全くない甘い笑顔で微笑えまれたのを思い出して、やはり葛城先生には勝てないと思いながら手先を動かしていると


「ごめん、私せいぜい小学校の時の様子を見て、あんなものだと思ってた、戸田より周りの方が大変だったんだ」

 心配そうな顔で優樹が私を見る

「いや、まぁ、多少鬱陶しいだけ? 壁があまりに厚い時は、突破して優樹の所に行ってたしね」

「だから、三学期は休みごとに私のところに来てたのか……」

 何だか、更に暗い顔をしてしまった優樹に

「大丈夫大丈夫、大分メンバーバラけたからこれからは落ち着くよ」

 そう言って微笑んだ。



 今日の塾はなにか言われるかなぁ? と思ってたけれど、鳴木に関しては意外と平和だった。

 ただ、新学期だけ有って新入生が増えた、男女4名ずつ、そこに何故か一条が。


 ――う……そ……でしょう? なぜこいつがここに? 

 まぁ、鳴木がここに通っているから、紹介したというのは想像付くんだけど。

 でも、あんまりだ、ここでも面倒くさいことになるのかな? 塾の帰り道、満開の桜の下を自転車で通り抜けながらため息をつく。


 二年生から雨の日以外は自転車で通うことにした。

 私の方向音痴を知っている両親は心配したけれど、電車で寝ちゃう私も心配だったみたい。

 先日とうとう終点まで寝過ごして一時間も遅くなってしまったら、パパに自転車にしなさいと言われて、休みの日に車で一回、自転車で二往復もした挙句漸くお許しが出たんだ。


遊歩道沿いの細道を走りながら、ふと見上げると夜空に浮かぶピンク色の雲みたいな桜。

 それは綺麗だけれど、何処か不穏さも秘めていて……。

 なんだか私の新学期への期待と不安を表しているみたいだなって、自転車を止めてしばし見つめてしまった

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