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紗綾 ~君と歩く季節~   作者: 萌葱
三年生 三学期~
116/117

だけど、だから……このまま卒業したくねーんだ

少し早いですが、この後予定が有るのでupします


いつか外すつもりで、ここ迄付けっ放しにしてしまった(再掲)を終了前に外しました。

タイトル変更?にはなりますが勿論中身には代わりはありません。

「……成る程、鷲尾君がね」

 そして、会が終わった後の放課後の生徒会室。

 さっきの出来事を聞かれるが侭に話し終え、香織がこめかみを抑えた途端


 ガラリ

 勢いよくドアが開き覗き込んで来た顔は……あれ? 最近どっかで見たような

「軽音部が何の用? って言うかノック位してほしいんだけど」

「わりぃ、焦っててよ、やっぱここか、ちょっと話聞いて欲しいんだが……」

 眉を顰めた香織の言葉に思わず引き攣るも、彼女の役目を考えれば無下にも出来ないだろう。

 私達の話し合いは後にすべきかと席を立とうとすると

「藤堂だよな? おまえにも聞いて欲しいんだ」

 引き留められ

「今日の鷲尾の話だ」

 続く言葉に思わず体が固まってしまった。


「今日の、って事はあいつが藤堂に何をしたか知ってるんだな?」

 すると、一条が私を隠す様に目の前に立ってくれたのだけれど

「ああ、あいつが暴走したのは判ってる、だが理由もあるんだ頼むから……」

 一条越しに私を見つめて来る、軽音部では確かドラムを叩いてた気がする彼が大きな体を縮こめるようにこちらを伺うのに、仕方なく頷いた。


「今回の舞台は俺達にとっても最後で……だから」

 悔いの無い物にしようと、軽音部は話し合ったらしい。

 例えば、ミスの無いようにとか、上滑りしがちなフレーズを丁寧に弾きこなすとか、そんな話が出る中、鷲尾が見返したい奴が居るって言い出したらしい。

「また藤堂か? いい加減ガキっぽい事やめろよ、本来女子に絡むなんてらしくねーのに、なんであいつだけにはおかしくなるんだか」

「判ってるっ! だけど、だから……このまま卒業したくねーんだ、あいつに俺を認識させてからじゃねーと……」

 ドラムの彼はそんな会話があったと教えてくれるけれど、私はどうにも判らなくて首をかしげてしまう

「そもそも、どうして鷲尾はそんなに私に拘るの?」

「まぁ、それは……」 

 言葉を選ぶように彼は言い淀んだけれど

「おまえが鷲尾に関心を持たないからだろ?」

 突然口を挟んだ一条が

「注目を浴びるのに慣れている人間は無視される事には慣れてないんだ、ましてや部活も人前でやる事を選ぶ鷲尾なら、自己顕示欲も強いだろうしな」

 床を睨むようにしながら忌々しいとでも言いたげな口調でそんな分析を口にすれば、春日君も違う部分もあるが外れては居ないと頷いて

「まぁ、鷲尾君が紗綾に聞かせたがってるのは判ってたけどね、でも、今更って思わない? だから私も何も言わなかったんだけど?」


 香織まで思いも寄らない事を言い出して……本当に今日は驚く事ばかり起こる。

 倉庫での出来事、春日君の話に今の香織の発言。

 だけど、それで判った事は一つある。

「きちんと聞くべきだったんだね、私」

「ふざけるな、それこそ勝手すぎるだろう」

 私の言葉に一条は怒ったけれど、あの日私はなんて答えた?

 ――不安を消すくらい歌い込めば良いんじゃないかな?

 だけど、私は客席にさえ居なかった。

 鷲尾の思惑なんて知らない、勝手な自己顕示欲できつく当たられてたなんて冗談じゃ無い。

 でも……

「判ってるんだ、あいつが悪い、今までやって来た事を考えれば副会長や一条の言う事を否定なんて出来ねぇ……でも、頼む、もう一回だけあいつの歌聞いてやってくれねえか?」

 私も鷲尾の努力を無碍にしたのかもしれない、そう気づいてしまった所に、春日君は真摯に頭まで下げているから……。


 きちんと向きあおう。

 そう決めはしたものの、やはり気まずい……重く感じる音楽室のドアをゆっくり開ければ、部屋にしつらえられた舞台上のメンバーはもうスタンバイして居て、私達が席に座るなり演奏は始まった。

 私を見返したくて頑張ったという鷲尾、一年の時から続いた確執はとうとう三年間続いてて……でも、そんな諸々の感情を排除して初めてきちんと聞いた軽音部の演奏に、いつか優樹が言って言葉を思い出した。


 数学や英語のテストみたいに答えが有って点数が付けられる物と違って、絵とか音楽とかって物は先入観とか固定概念ってものが結構やっかいで、実物を見るより先に脳裏にある情報によってその受け取り方が変わるって。

 「だから、私の絵をいつも冷静な審美眼で捉えてくれる葛城先生は凄いんだ、先生の目が有るから私は周りの言葉を気にせずブレずに表現が出来る」

 って、珍しく優樹が真剣に先生を褒めていた。

 あの時は言葉の意味が良く判らなかったけれど、あの日に聞いたものと同じ筈なのに全然違って聞こえた演奏に、私の耳には『偏見』て余計なエフェクトがかかっていたんだなって思った。


 普段私をののしるかあざ笑う言葉しか聞いた事が無い鷲尾の唇から紡ぎ出される声は、歌うときは艶やかに優しく響き、英語のフレーズも一条のような綺麗な発音で耳にするりと入ってくる。

 そのボーカルを引き立てる演奏も滑らかで、小気味の良いドラムのリズムが良いアクセントになって居て……素直に耳を傾ければ、あの日の歓声は正当な評価だったんだって思う。

 リハーサルの後からずっと猛練習をしたとは聞いたけれど、それにしたってレベルなんて急に上がるものではないだろうし……やっぱり私の聞く態度の問題だったんだろう。


 だから、今度こそ素直な気持ちで惜しみなく拍手を送れば、鷲尾は少し目を見開き嬉しげに笑って頭を下げ、私以外には人懐っこい笑顔を見せるのは知っていたけれど、私に見せるのは初めてだと思った。

 だけど、その場所を動いてこちらに歩こうとするのに体はビクリと反応してしまい……それに、鷲尾は泣きそうな顔をして

「ごめん……来てくれて、ありがとう」

 それだけ言うと舞台の後ろにある準備室に消えた。


「行くぞ?」

 私が春日君の要求をのんだ途端大きく溜め息を付くも、ここまで付き合ってくれた一条はそのまま席を立ち、今は生徒会室からは出れないと唇を噛みながら、心配げに終わったら報告をしてと言ってた香織の元にと戻りながら浮かぶのは……さっきの鷲尾。

 手首を掴んだ手の力は強くて、私を押さえた腕と胸は熱く硬くて……男子って本当はあんなに力が強いって始めて知った。

 人の感情に疎いと言われて居る私だけど、流石にこの期に及んで嫌がらせだけであんな事をされたとは思えなくて……若しかしたら、彼は私にほんの少しくらいは表出していた感情とは違う物を持っていてくれていたのかもしれない?


「鷲尾……あれで良かったのかな?」

 少なくとも、私に聞かせるために努力したらしい、それを受け止める事くらいは出来たのかな? そんな事を呟けば

「十分だろ? 甘過ぎだ、おまえ……あんな事されて、脳が沸騰するかと思った」

 何故か、私以上に怒っているような?

「大げさだよ、そこまでの事じゃ……」

 キツい声音に隣を歩く彼に顔を向けると

 ――ダンッ!

 歩いていた廊下の端に私を囲い込むように強く両手を打ち付けた。


「……一条?」

 驚いて、その囲いを外そうと腕に手を掛けてもぴくりともしなくて、私を見つめる鋭い瞳をわけも解らないまま見つめ返せば

「……馬鹿、煽るな」

 腕を解き

「判っただろ? もう力の男女差はかなりはっきりしてるんだ、もう少し警戒心を持て」

 もうこちらは見ずにすたすたと歩き出すのに、それを教えてくれようとしたんだって理解出来て

「判ったよ……ありがとう」

 その後ろを歩き出せば

「………馬鹿」

 やるせなさげに呟く声が微かに聞こえた気がした。

残り後一話になりました。

本当にここ迄のお付き合いありがとうございました。

色々と懐かしく書き連ねたい言葉も有るのですが、それは次週最終回まで待ちたいと思います。

最後迄お付き合い頂ければ、とても嬉しいです。



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