表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紗綾 ~君と歩く季節~   作者: 萌葱
三年生 三学期~
114/117

さて、どうしよっか? まだ結構早いねぇ

少し早いのですが、この後予定が有るので早めにupします。

今後も週1のupは変わらずの予定ですが、多少時間が前後するかもしれません。

よろしくお願いいたします。


 受験の終了は塾のカリキュラムの終了でもあって、だから皆と会うのはこの卒業を祝う会が久しぶりだった。

 ここは高校生の大学対策もやっていたけれど、まだ志望校さえ決めていない私は一度退塾を決めており、桜花を決めて尚、難関と言われる魁皇大を目指す松くん以外は皆一時期塾を離れるから、こんな風にこの場所で皆と居られるのは今日が最後……。


 高校生になっても月一回は絶対集まろうと約束はしたけれど、塾で会える最期の日となると思うと……。

 皐ちゃんに渡されたサイン帳にメッセージを書きながら、ぽたりと涙が落ちたら、もう駄目だった。

 慌ててサイン帳と一緒にペンを一条に回し、パタパタと堰を切ったように零れだした涙を押さえたけれど

「……っ」

「紗綾ったら、泣かないでよ……つられちゃうじゃない」

「大丈夫? 鼻真っ赤になっちゃってる、擦っちゃだめだよ」

 莉緒と皐ちゃんにそう言われるんだけど、どうにも止めようが無く。


「……えっ……くっ……」

 それどころか大きくなる嗚咽に

「どっか、栓抜けたか?」

「泣きすぎだ……」

 黒田と一条には呆れたように頭上から声をかけられ

「まぁ……色々有ったよな」

 無理も無いかと諦めたような鳴木の声もして。


 その間松くんは黙って背中を撫でてくれていて……ひくつく喉を押さえつつ深呼吸をすれば、漸くすこし落ち着いたかなとも思ったのだけれど。

「大丈夫ですか? 本当によく頑張りましたね」

 だけど塾長の高木先生がニコニコしながら近づいてきてそういうのに、また景色が滲むから、口を開くとまだ嗚咽しかでない気がして深く頭を下げると

「今までありがとうございました」

「寂しくなります」

 皆も口々に先生との別れを惜しむ言葉を告げているのに、最後がこれなのはあんまりだと内心慌ててしまう。


 そんな中特にお世話になった黒田はお礼を言いつつも

「あの時は大変でした……」

 なんてしみじみ言っていて……その心底苦労したと言いたげな声音にあの頃を思い出せば、知らずくすりと笑みが零れ。

 涙に区切りがついて、漸く私も先生に言葉でお礼を言う事が出来た。


 お別れ会は塾のあるビルのホールを借りて行われ、正味二時間ほどの物だった。

 それらが全て終わり、会場を後にするもお昼に始まった会だったし、まだまだ日は高く

「さて、どうしよっか? まだ結構早いねぇ」

 皐ちゃんが腕時計をみて呟くのに、何となく別れ難かったのも有り顔を見合わせていると

「あのね、私皆で行きたいなって思ってる場所があるんだけど」

 遠慮がちに松くんが手を上げて皆を見て

「合格祈願のお礼に天神様」

 どうかな? って首をかしげ

「あ! そっか」

 そういえば、忙しくて合格のお礼にも行ってないことを思い出した。


「丁度いいんじゃね? 俺は賛成」

 黒田が真っ先にその案に乗って、皆も口々に賛成するのを松くんはニコニコと見つめて居たけれど、ふと思いついたようにように莉緒を見た

「伊達くんも居ないと悪いかな?」

 すると、彼女はふわりと笑って、今度のデートコースにするわ何て言って、そのまま私達は天神様に向かう事に決まった。


 駅からの道を歩いて、見覚えのある森のような緑を見て

「こんなに近かったんだ……」

 あの日の距離が信じられないほどの近さに思わず呟けば

「余程苦労したのね」

 と莉緒に笑われてしまった。


 あの日と同じ晴天の空の下境内へと続く石段、皆がそれぞれ感慨深げに足を運ぶ中

、私も引っかかること無く登れるのが嬉しくてトントンとリズムよく登って……

「うわっ」

 調子にのっていたら足を踏み外してしまい、隣を歩いていた鳴木に腕を抑えてもらう羽目になる

「おーまーえーはー」

 呆れましたという顔をしてため息をつかれてしまい、ごめんと謝る

「ちょっ……」

「大丈夫?」

 後ろから皐ちゃんと莉緒に声をかけられて、振り向いて大丈夫と答えれば彼女達と一緖に歩いていた黒田に

「もっと落ち着けよ」

 怒られてしまった。


「紗綾?」

 先を歩いていた松くんが心配そうに振り向くのに、平気! 笑顔を向けたのだけれど、その隣にいた一条が眉間に皺を寄せてこちらを見てるのが判り、ご心配なくって軽く指をひらひらとさせたらため息を付いて前に向きなおってしまった

「一条……いつかあそこに皺できそうだよね?」

「出来たら確実におまえのせいだな」

「え? なんで?」

「大抵おまえ絡みだ、あいつのあんな顔」

 鳴木の言葉に驚いて、マジマジ見つめてしまう。

「普段の一条はそんなに感情を出す方じゃ無い、元々冷静な奴だしな」

 なんて、更に続いた言葉が信じられない。

 出会った頃から今まで、一条も随分変わったとは思う、顔を合わせればキツい視線と言葉をぶつけて来たのが、いつの間にか態度は和らいで、今では何かと粗の多い私を心配して、助けてさえくれて……だけど、感情を出さない?

 確かに彼は整いすぎて人形かと思えるようなその顔には、大人っぽい落ち着いた表情を浮かべて居るのがデフォルト。

 だけどずっとその顔で居る事は少なく、結構怒りっぽいし、感情豊かとさえ言えるんじゃ無いだろうか? 

 眉をしかめる顔は第二のデフォルトだと思うし、呆れたような顔や怒る顔、最近はふわりと優しい笑顔さえ見せるようになって居て……

 「嘘でしょう?」

 信じられなくてブツブツと呟いていると、隣で鳴木がくすりと笑うのが判った。


 お礼も出来たし、石段も無事降りた。

 そうだよね? お願いを聞いて貰えたんだからきちんと挨拶はしないと、流石松くん、ナイスアイディアだったと感心しながら、開放感にうーんと伸びをしていたら

「お前もう迷子とか見つけるなよ」

 と黒田に言われてぐっとつまる。

 そんなつもりは無いのに、これまでの年月を思い返せば蘇るトラブルの数々

「居ないといいとは思うけど………自信ないよ?」

 嘘は言いたくないから、正直に真情を吐露すれば。

 途端隣に居た松くんが吹き出し、それを切っ掛けに天神様に明るいみんなの笑い声が響きわたる事になった。

 ……当然、私以外の。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=623019519&size=88
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ