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紗綾 ~君と歩く季節~   作者: 萌葱
三年生 三学期~
113/117

――しかし、なんでラブソング?

「立ち位置はここだと背景は少し右……で、柱はこっちでどうかな?」

「その空間に鏡を置くんだね? 中央よりやや左、良いね、そこならスポットライトも当てやすいし」

「うん、それなら効果的に視線を集められるるから、一人語りのシーンでも映えるかなって」


 来週体育館で行われる別れの会、今はそこでの出し物の一つ、演劇部による寸劇のリハーサル中。

 と、言っても演技の方は終わっていて、今やっているのはその動きを見た上での大道具のセッティング作業。

 演劇部の背景などの書き割りはいつも美術部が担当しているのだけれど、私は公演が行われる度にその使い方を少し不満に思っていた。


 先日、生徒会室に演劇部の背景に使うベニヤを倉庫から取り出す為の申請書を書きながら

「協力するのは良いんだけど、もう少し有効に利用して欲しいんだけどな」

 思わず日頃思っていた事を香織にぽろりと漏らしてしまえば

「そうなんだよ! うちの部ってどうも演出って物が分かってないというか、演技に意識を向けすぎなんだよね」

 いつの間にか成海君が来ていて、ちょっと前のトラブルで手助けしてくれた彼に、本人が所属する部の愚痴を聞せてしまった事を申し訳なく思ったものの

「僕達は引き立て役で裏方なのは良いんだよ? だけど、何も考えていない訳じゃ無い、あの大きな鏡を使うって言うから後ろ姿にも凝ったのに、結局適当に位置取りされたら生かせないじゃ無いか……しかも僕はちゃんと説明したのに、だよ」

 日頃裏方の彼も同じ事を思っていたらしく、嘆く様子に

「だよね? この前の書き割りだって螺旋のように降り注ぐ花びらって言われて、優樹が折角あんなに綺麗に書いたのに、始点のあそこに柱立てる? ちょっとずらしてくれれば良かったんだよ?」

 私もつい乗ってしまい

「張り合う訳じゃ無いんだ、合わせる事でより効果的に出来るのに、勿体ないよね」

 気がつけば生徒会室でそのまま、裏方の苦労なんてものについて話し込んでしまった。


「でもね、仕方ない面もあるんだ、演出って部活レベルじゃ結局裏方じゃ無い? メインの役の子はそんな余裕が無いし顧問がやる気なくてね、大抵は端役の子が大道具や小道具なんかをセッティングしてるんだよ、兼任だとどうしてもね……」

「成る程、専任の子が居なければ役の方に意識が向いちゃうのは仕方ないのかも?」

 ふむ、と頷けば

「んじゃさ、別れの会手伝わない? あれってやっぱ最後だし友達と一緒に過ごしたいって子が多くてね、当日担当の立候補少ないんだよ、来てくれるなら演劇部のセッティングは任せるから背景なんかは微調整出来るんじゃ無いかな? 私もあんたが居てくれれば心強いし、助かる」

 優樹の絵を一番効果的に使えるのは紗綾じゃ無い? そんな香織の言葉と

「いいね! それ、もし藤堂さんが担当してくれるなら僕も最大限手伝うよ」

 それに喜んだ彼女の幼なじみの言葉に後押しされて……気がつけば私は、別れの会実行委員会の一員として組み込まれて居て。

 鳴木でさえ二学期の半ばには部活を引退していたというのに、香織の役職を引き継いだ後輩からもその仕事ぶりを出来るだけきちんと見習いたいと乞われ、教師からも手の届く範囲で良いからと続投を懇願された香織の有能副会長ぶりを、しみじみ感じる今だったりする。


「紗綾~! そっちの整理終わったら、このメモ、ブースに届けてくれる?」

「あ、はーい、今行く~」

 演技で使った道具をしまい込んだところに掛かった声に客席に向かうと

「次、俺達だろ」

 丁度、次に舞台に立つ軽音部が体育館に入ってきた。

 その中に鷲尾が居るのに引っかかったけど、だからといっていつまでも立ち止まっている訳にも行かず香織の元に行けば

「うん、軽音部はセッティングお願い……紗綾はこれね、軽音は機材特殊だから手伝いは良いよ、一休みしてブースに居て」

 テキパキとした指示をくれるのに、長居は無用と舞台脇の少し小高い場所に設置された小部屋に向かった。


「……おっかしいな? セッティングって普通舞台の上でやらない?」

 元々少人数の実行委員会、さっきまで居た子も香織のメモに出て行ってしまい、パイプ椅子に一人座りながらも、いつまで経っても小窓の下にある舞台に人がいる気配が無いのを訝しく思っていると、実行委員会をしているうちによく話すようになった、生徒会の後輩が疲れきった様子でブースに戻ってきた。

「どうしたの?」

「先輩~聞いて下さいよ、軽音部が客席に人間が居ないとやりにくいとか我儘を言い出して聞かないんです、も~、こっちは人数がギリギリなのに困っちゃいますよね?」

 そう言いながら置いてある鞄から資料を探すのにどんな状況なのかと、扉から顔を出せば、鷲尾がこちらを指を差し

「あの暇そうなのでも良いって言ってるだろ? 早くしたいんじゃねーのかよ」

 なんて言ってる声が聞こえた。


 確かに私はメインは演劇部担当で他は雑用係だから音響には関係ない、置物代わりくらいにはなれるのだけれど、鷲尾と私の確執を知っている香織が出したくないと頑張っているらしいのに、また守られていると気づく。

 だから、部屋を出て外付けの階段を降りながら、その音に反応してこちらを見る香織に

「誰でもいいなら私が座るから」

 そう言って最前列のど真ん中に向かい

「さあ、どうぞ?」

 と鷲尾を見れば、途端セッティングを始めるのに胸をなで下ろした。


 ――しかし、なんでラブソング?

 軽音部の演奏は二曲なのは手元の進行表で知っていたけれど、一曲めの定番旅立ちソングは納得の選曲だったのに、次の曲はバラードで、客席に私一人だから仕方ないのだけど、全く視線を逸らさずに歌われるのに居心地の悪さを感じながら内心首をかしげていると、漸く演奏が終わり……そのまま、ステージから飛び落りたボーカル兼ギターの鷲尾に

「どうだ?」

 と聞かれた。


 何故誰も居ないよりはマシで座っただけの私に聞くかな? と思うけど、言われてしまえば答えないわけにもいかず……

「最初の曲は良いね、如何にも卒業って感じで、次のは何で卒業式にバラード? とは思うけど、ま、メジャーな曲のほうが皆は喜ぶからそれも良いかも……この時間舞台は軽音部の物だし、最後の演奏だから……あ」

 ふと、この前の学園ドラマで舞台の上の男子が一人の子を見つめつつ歌い上げるなんてシーンがあったのを思い出す

「誰か聞かせたい人が居るって事か……健闘を祈るよ」

 本当は個人的理由過ぎないかとか、我儘言って香織に迷惑掛けるなとか言いたいことは他にもあったけど、ここでトラブるのが一番迷惑になると、余計な言葉は飲み込んで席を立つと

「待てよ」

 呼び止められてまだ何か有るのかと振り向けば

「おまえはどうなんだよっ?」

 怒鳴るように聞いてくるのになんなんだと思う、正直知らないよと言いたいところだけど、それでは喧嘩を売ることになるよなぁ……と

「私なんかの意見を聞くくらいなら、不安を消すくらい歌い込めば良いんじゃないかな?」

 自分なりに真摯な回答をし、再度歩き出せば背中に

「ほんっと……可愛くねぇ」

 とか呟く声が聞こえ……何を今更とは思ったけれど、喧嘩にはならなかったのだから、合格点かなと思う事にした。


 香織の元へと急ぐと心配げな視線に

「少し大人になったよ、私」

 胸を張り、今のやり取りを話すと、深くため息をつかれてしまい焦る。

「え? これじゃだめ?」

 すると

「ううん、助かった、ありがとう、次の準備掛かってくれる?」

 晴れやかすぎる笑顔が少し引っかかる。


 けれど、忙しい彼女だけにそれ以上引き止められないし、自分の仕事もあるしで取り敢えず倉庫へ戻り必要な小道具を準備して。

 ……そんな作業に没頭しているうちに、私はすっかりその違和感を忘れてしまったのだった。


 

ここまでのお付き合い、ありがとうございます。


 あれから、構成を見直しまして、何とかこのまま週1ペースで完結までの道筋が見えてきました。

 今後余程の落とし穴的な物を発見しない限り、最後までペースを守れそうです。


 只、最近本当に余裕が無く拍手を全く触れて居ません。

 ネタはいくつか有るのですが完成までが遠くて……設定的にパラレル風に受け取って貰うのも良いかなって暖め続けている一条の一編があるんですが、順番が次は違うキャラかなー……と言うのも有り悩みつつ放置しまくりで申し訳ないです。


 代わりと言ってはなんですが、こちらも長らく放置の過去拍手の手直しupを一本しました。

 少し粗く感じて早めに下げた話なので、細かい修正ではありますが読み逃した方も二度目の方も楽しんで頂けたらと思います。


 あと少しになりますが、お付き合い頂ければ嬉しいです。

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