優樹! 紗綾は!? (side 優樹&黒田)
ここから、パタパタッと視点の切り替わるストーリーになります。
流れの関係で二人づつ予定ですが、分量は半々ではありません。
しばしお付き合い頂ければ幸いです。
~side 優樹
「藤堂さん、佐々木先生が用事があるから職員室に来てって」
「私?」
「うん、急いだ方が良いと思うよ」
「判った、優樹悪いけど……」
「それはいいけど」
紗綾が何を言いたいかは分かって、了解はする。
けれど、このタイプの少女がにこやかに紗綾に声を掛けるのに先日の屋上件もあった事だしと少し引っかかる。
だけど、呼び出したのは先生という建前だし紗綾もさっさと廊下に出て行くのに仕方なく
「あなたは誰?」
それだけ声を掛ければ
「F組の栗原葉子だよ」
にっこりと笑う頬には可愛らしいえくぼ。
それを胡散臭いと思ってしまうのは穿ち過ぎなんだろうか……。
本当は付いて行きたいとも思ったけれど、呼ばれてもないのに私まで行くのはどう考えてもおかしい……それに、放課後には予定があって。
その手伝いをしてくれる彼らももう美術室に来て居る事を考えると、あまり待たせる訳にも行かず、取り敢えずそちらに向かうしか無い。
気持ちを切り替え、美術室に行こうと席を立つと
「優樹! 紗綾は!?」
勢い良く教室に駆け込んできた香織が私を見つけて詰めよって来る
「今、F組の栗原さんとか言うのが、佐々木先生が呼んでるとかで職員室に……」
「職員室!? 私そっちから来たんだよ、あり得ないし……遅かったか」
そう言ってしゃがみ込む香織
「……何があった?」
「あったんじゃ無く、ありそうなんだ、さっき生徒会の子が女子が数人固まってこそこそ言ってるのを小耳に挟んだらしいの、聞こえたのは、藤堂、ムカつく、呼び出して、これだけ揃えば……とかそういう切れ切れの言葉みたいなんだけど気になるからって教えてくれたんだけど……って優樹! どこ行くの?」
「私一人では無理そうだし、助けてもらう」
「誰に?」
「彼らが美術室にいる」
そう教室を出ると、香織も私も行くと着いて来た。
今日ばかりは、焦る気持ちを抑えきれなくて、先生に見つからないようにと願いつつ走って美術室に駆け込む。
勢い良く扉を開けて中に駆け込むと、もう来ていたらしい鳴木と一条と黒田が驚いたようにこちらを見るのが判る。
今日は彼らに手伝って貰って美術室の大掃除をする事になって居たんだ。
先日部活としての片付けは済ませたけれど、その事で余計に他の場所の雑然さが目立ち、今までお世話になった場所への恩返しの意味でも整理を申し出れば、葛城先生は嬉しげに微笑んで
「僕の机の上のもの以外は好きに動かして頂いて大丈夫、助かります」
本当は一番何とかしたい場所を除いた、豪快な許可をくれた。
でも、確かに書類などの満載されたそこは生徒が触れないのも当然で、周りが片付けば近くに美術室の奥に有るあまり中味の入ってない書類用の棚でも持って来ようか、なんて話を教室でしていたら黒田が、俺も美術室には恩があるからなんて
「大物動かすなら男手必要だろ?」
手助けを申し出てくれて、そのまま鳴木たちのクラスまで行って話を纏めてきてくれた。
そのままの勢いで三人のもとに行く
「脅かすなよ日比谷、で? どれからやる」
のほほんと聞く黒田の横で一条が
「何があった?」
と聞いてくるのに
「紗綾が女子に吊るし上げされるかも知れない」
途端顔色が変わる三人に香織がさっきの話を繰り返しながら、訝しげに
「でも、何で栗原さん? 坂本の彼女だよね? 坂本って前は紗綾に付きまとって居たけど、今は大人しいし……」
「坂本!?」
呟いた言葉にこちらは心当たりがあった。
先日の消しゴムとそれに続く謝罪の件を思い出し嫌な予感に眉をひそめると、一条が
「坂本の彼女ってそいつなのか? まずいな、斉藤の話が本当ならアイツら別れたとか聞いたが」
「それって!」
「ああ、斉藤が言うには坂本が振ったらしい、傷心の女は浸け込み易いとか馬鹿な事を言っていた」
「まさか藤堂のせいなのか?」
「それは分からないが、逆恨みはされるかもしれないな、元々坂本は藤堂に執着してたし」
「やだ……やだ! 探しに行かないと、紗綾……」
「一条、福本がこの一週間バスケ部は放課後三年が指導に出ているとか行ってなかったか?」
「そういえば後輩がたるんでるとか言ってたな……そうか! 坂本がまだ居るか」
「俺が呼んでくる、だけど、何処に連れていけば良い?」
黒田の言葉に皆で一斉に香織を見る
「あのね? わたしそんな事したこと無いよ?」
「判ってるよ香織、ただ、女子関係の噂って私詳しくないし、何か心当たりない?」
「うーん……部活とかやっている子は部室使いそうだけど、今回は結構バラバラっぽいんだよね、だからありがちな、校舎裏と屋上と体育棟?」
「取り敢えず、ざっと回るしか無いか……と、屋上はないな、空手部が演舞の練習をしているはずだ、黒田、悪いが」
「任せろ、あいつだって関わってるんだ、見つかるまで引っ張りまわす」
多少不穏ながらも頼もしいセリフを言う黒田に坂本を任せ、教室を出ようとすると鳴木に止められた
「日比谷と手塚はここに居たほうがいい」
無視して廊下に飛び出ようとすると
「落ち着けって、お前ら巻き込んで何かあるのをあいつは一番嫌がるだろ? それに何もなければここに戻ってくる、待つ人間も必要なんだって」
そう言われて、頭に血が登っていたことに気がついた
「紗綾をお願い……あの子、女子にはほんと弱いんだ」
ここで待つ事を決めて、その分走り回って貰う事に頭を下げると、隣で香織も泣きそうな顔で同じ格好をしているいるのが見えた。
それに判ったと答えるやいなや三人は廊下に飛び出していった。
~side 黒田
あの馬鹿あの馬鹿あの馬鹿!
何の用か位聞けよ、女だからって甘く見るな、ほいほい付いていくな!
こんなに心配、させるなよ!
体育館についてドアを開けるとバスケ部が練習しているのが見える
その中に坂本が居るのを見つけるやいなや叫んだ
「坂本! ちょっと来い!」
「黒田? 悪いけど今忙しいんだ終わるまで……」
「待てねぇ!」
そんな悠長な事は出来ねーと間髪入れず怒鳴る俺を訝しげに見ると、仕方が無いとでも言いたげに側に居る奴に声をかけてこちらに歩いてくるのを待ちきれず、引っ張って体育館の端まで連れて行く。
本当は時間を掛けずに見つけるなり叫んでやりたいくらいだったが、こんな事を仲間には知られたくはねーだろうと思ったのと、何よりこれ以上藤堂が噂のネタになるのは避けたかった
「なんだよ? 大体それ、上履き」
「お前の元カノが藤堂呼び出した、手塚の聞いた噂では今日あいつを吊るし上げるとか言ってる奴らが居るらしい、ちょっと来てくれねぇか?」
なのに、俺の足下をみてまだ暢気な事を言っている坂本の耳元で早口で用件を告げた。
「……っ!? どこだ?」
案の定、顔色を変えて俺を見つめる坂本に
「わからねぇから取り敢えず、体育棟とか校舎裏とかそれっぽい所を回るつもりで居る、だから」
おまえも付いてこいと言うつもりが
「悪い、今日は俺抜ける! ……行くぜ」
俺の言葉を遮って、コートの仲間にそれだけ告げるとそのまま体育館を出てく
その為に俺はここに来たのは確かなんだが、その必死な背中に合格発表の日に感じた面倒事の予感を再度感じたものの、余計な事を気にしてもたもたしてる暇はねーし……。
取り合えず今出来る最善はこれかと、思いっきり体育館の床を蹴り走り出した。