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紗綾 ~君と歩く季節~   作者: 萌葱
三年生 三学期~
107/117

行けたか?

 掲示板の前で自分の番号を探すのは流石に怖かった。

 今までの成績や模試の結果ではそう悪い確率ではなかったけれど、それでも不安はあったから。

 だから、自分の番号を見つけた時は安堵に体の力が抜け、一瞬しゃがみ込みそうになったけれど、同時にその場で叫びだしたいような込み上げる物もあって、……けれど、ここは受かった人間も落ちた人間もいる。

 だから、そっと人混みから抜けだし、少し離れた所で息をつくと、ひときわ背の高い見慣れた姿がキョロキョロしているのを見つけて手を挙げる。

 結果を聞かなくても、いつもは近寄りがたいと言われるキツめの顔立ちが嬉しそうに緩んでいるのをみてほっとする


 黒田も私の表情で察したのだろう、駆け寄ってきて確認するように

「行けたか?」

 と言われ頷く

「そっちは?」

 問い返せば

「当たり前だ」

 と、胸を張るけれど、少し瞳の奥が潤んで見えた、……なんて事は、気のせいという事にして置こう。


 そんな会話の最中さなか、一条も私たちを見つけて近寄って来た。

「行けたようだな?」

「一条も?」

「おまえ達が行けて、俺が行けないわけがないだろ」

 大したことではなさげに言うけれど、流石に長い付き合いだからこそ、少しだけその作り物めいて整った顔が高揚して居るのは判り、そんな風に喜びを押し込めるところが如何にも彼らしいと思う。


「報告しねーとな……」

 メモを指でたどりながら連絡する先を確認する黒田、その電話番号の羅列に驚き、思わずどうしたの? と聞けば。

 受験勉強のスタートが遅かっただけに家族のみならず、工場の従業員までもが参加したらしいフルサポートを受けてダッシュを仕掛けた彼の周囲では

「いいじゃないっすか! このままじゃ俺ら寝れないですよ!」

 彼の結果を知りたいとこのまま居残るという夜勤明けの従業員と

「気持ちはありがてーが、休んでくれ、寝不足の奴らにお客様のマシンは触らせられねーんだ」

 そう、複雑な顔で彼らを帰らせるお父さんの間で一悶着有ったらしく。

 それを言われれば仕方が無いかと肩を下げつつ、工場を出た来た彼らは偶々その周りを散歩していた(と、本人は言っていたけれど、多分発表前のどきどきで寝れなくてじゃないかな?)黒田と鉢合わせして……。

 仕事はきっちりするし、睡眠もしっかり取るからって言いながら、判り次第連絡を欲しいと番号を渡されたそうだ。


「落ちてたらどうする気だろうな? あいつら、傷口に塩じゃねーか」

 なんて、恐らくどちらも思って居なかったであろう事を呟きつつ、嬉しげな黒田の隣で、なおも辺りを見回すと、人の多い中でもぱっと目を引く涼やかな友人の姿がが目に入った。


「松くん!」

 思わず声を上げれば、丁度きょろきょろしていた彼女とも目が合い、クラスメートに声をかけて走ってくるのに、私も走りだす

「紗綾! 大丈夫だった?」

「うん、松くんも?」

 私の言葉に頷いて、これで同じ学校だねと私の手を握り

「他のみんなは?」

「鳴木はちょっと前に推薦で決まってたし、一条も黒田も行けたよ」

 私の報告に、ほっとしたように良かったねと笑顔を見せた松くんに

「莉緒と皐ちゃんも決まったって言ってたし、……終わったんだねぇ」

 口に出したら、なんだかやっと実感が湧いた。


 何だか感無量で言葉も無く、松くんと見つめ合ってしまっていると、私の横に人が立つ気配。

 顔を向けると、少し前であればそのまま踵を返したくなったであろう人物が

「どうだった?」

 と、聞いてきた。

「受かったよ? 坂本は?」

「お前のお陰でな」

 いま迄の彼からは受けた事も無い穏やかな表情と感謝の言葉をに戸惑ってしまう。

 それほどの事をした訳じゃ無いんだけどな……。


「じゃぁな」

 去っていく背中を見送っていると、松くんに誰? と聞かれるけれど

「元クラスメート……みたいなもん?」

 などと答えてしまい更に戸惑わせてしまう。

 けれど、他になんて言ったら良いんだか。

 もっと話したかったけれど、後ろから松くんを呼ぶ声に、じゃ、また塾でねと約束して二人のもとへと戻った。


「松岡も合格か」

「松くんだもん! 当たり前だよ」

「良かったな、でも、さっきの坂本じゃないのか? おまえ、また関わり持つようになったのか?」

「結果聞かれただけだよ、坂本も合格だって」

「ほんとかよ? 試験の時の事で寝た子を起こしたりしたんじゃねーの?」

 なんて黒田が心配そうな顔をするから、一条にまで何やったんだと突っ込まれ……。

 この前の消しゴムの話をして、そういえばと謝られたんだったと、先日の一件を話した。


 結果、二人がかりで、坂本なんかに言われてそんなホイホイ付いていくなと怒りだし

「穏やかだったから大丈夫かなって思ったんだよ、暴力はもともとなかったし……」

 って言ったんだけど、私の言葉に黒田は面倒くせえと呟きながら空を仰ぎ、一条は頭痛がするというようにこめかみに指を当てて眉間に皺を寄せて見せ……。


 全員合格したのはすっごく嬉しいのに、何故だかそこに漂う雰囲気はとてもそんな感じには見え無かったらしく、他にもうちの学校から桜花を受験した生徒はそれなりに居たはずなのに、声を掛けてくる生徒は一人も居なくて。


 ……その後暫く私達は不合格だったという不本意な噂が校内に流れていたとか居ないとか。

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