表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紗綾 ~君と歩く季節~   作者: 萌葱
三年生 三学期~
106/117

おまえ、本当にアレだけて大人しくついてくるのな?

 すべり止めの結果は出てそっちの合格は貰っているけれど、桜花の結果は明日発表。

 落ち着かないけれど今更どうする事も出来ないし、美術室で優樹の隣で彫刻でもしようかと廊下に出ると、坂本に呼び止められた。

 何の用かと、思わず身体を固くする私に困ったように

「何もしねーよ」

 両手を上げながら、言いにくそうにちょっと時間あるか? なんて言ってきた

 坂本が私に話? 意外な言葉に驚いて思わず反射的に頷いてしまえば

「なら、ちょっと来てくれ」

 って、人気のない廊下の先に無言で足を進めるのに、同じく黙って後をついて行った。


「おまえ、本当にアレだけて大人しくついてくるのな?」

その先の階段の踊り場へ到着するとくるりと振り返り、呆れたようにそんな言葉を掛けられ、今までも散々鳴木達に言われて居る不用心だのって言葉がよぎりちょっと焦るけど……でも、坂本の瞳にいつもの攻撃的な光が無い

「なっ、……なんだよ?」

「ん? 大丈夫かなって、今の坂本の瞳には険がない」

 その光を確かめようとじっと坂本を見つめれば、慌てたように瞳を逸らすのに、妙な事を言ってたくせにとおかしくなりながら

「喧嘩を売る気じゃ無いんでしょ? 用事って?」

 聞けば、彼は一つ溜め息を付いて

「ほんっと、おまえって妙な女だよな」

 そんな今更な事とを呟きつつ、ポケットに手を入れ新品の消しゴムを出して私に差しだした。


「何これ?」

「試験の日、俺に折って半分渡してくれたろ? それまんま返すのもどうかと思ったし……正直あの時は助かった、情けねぇけど一瞬頭真っ白になったし、あれで集中が戻った」

 新品でもなかったし別に良いよと言ったのだけど、受け取ってくれと真剣な様子に大人しく手に取る事にした。


「おまえさ、何で助けたんだ? 俺、あんなに……」

 流石に先を言いにくそうに口篭るのに

「戸田へのラブレターをさらしに来たり、廊下でとうせんぼしたり、わざわざ端っこのクラスまで遠征してきて嫌味を言ったり?」

「おまっ……」

 今までの自分の所業を自分で口にするのは抵抗がありそうだから、続きを言ってあげたのに、目を見開いてこちらを見る坂本。

 その態度にあの頃は兎も角、今はそれが良くない事だという自覚くらいは有るのかと思いつつ

「ま、わだかまりがないわけじゃないよ? でも、あの場面で助けるかどうかは別だと思ったの、大事な試験で人としてアタリマエのことしないで見過ごす人間に私がなりたく無かっただけ」

 そう答えると、思い切ったように頭を下げて

「悪かった……許してもらえる事じゃねーのは判ってる、許さなくていい、ただ、謝らせて欲しい」

 そんな言葉に溜息が出る

「いいよ、もう、謝られても過ぎた時は戻らないし、それに私の対処も問題はあったみたいだしね? だからって私が悪かったって思うつもりはないけど」

 正直な私の気持ちを口にすると、頭を下げたまま固まったように動かずに居る坂本。


 ――ちょっとずるいよ? って思わなくも無い。

 だけど真摯に謝って居るのは流石に判り

「坂本が謝るのを聞けば良いの?」

 仕方なく問いかければ、勢い良く頷くのに

「聞けば良いのね?」

 観念して受け取る事を決めると

「今迄の事悪かった……ごめん」

 男子の中でも大柄な体は私より頭一つ以上高く、丁度黒田位? そんな体を綺麗に曲げて再度礼をして。

 そのピシリとした所作は悪く無いと思ってしまった時点である意味私の負けだろう。


「……謝ってくれたということは自分の非を認めて二度と私にああいうことはしない?」

「ああ……」

「なら、その謝罪は受け取る」

 私の答えに詰めていた息を吐く坂本に何とも複雑な気分だ。


「用はそれだけ?じゃぁ、私美術室行くんだけどいいかな?」

「判った、悪かったな」

 まだ真っ直ぐに私を見つめる視線を背中に感じ、少しむず痒く思いつつ、そのまま階段を降りて美術室に向かう。

 消しゴムが切っ掛けなんて思いがけない事だったけれど、これって坂本と和解することになったのかな?

 過去にされた色々なことが頭をよぎれば、決して何にもない事にはできていないと思う

 だけど、これからまた同じ高校に通うかもしれない人間とこれ以上いがみ合うことはないのだと思うと気持ちは軽くて。

 ……一緖に同じ高校通えることになるといいなと素直に思うことができた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=623019519&size=88
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ