私は実際しりとりをしていただけです
「うわ~」
確かに八人もの人間をいきなり受け入れれると言うだけ有って、物凄い大きな日本家屋。
立派な門には『増田』と表札が有り、そこくぐると見事な日本庭園が広がっていて
「増田……ってもしかして?」
「会長、じゃないか? この辺に住んでいると聞いたことがある」
前を歩く一条と伊達君は落ち着き払って何か話してはいるみたいだけれど、私はこんなお屋敷みたいな場所には来たことがないのでなんだか緊張してきてしまった。
そんな中がらりと引き戸を開けると、たけるくんが元気に
「ただいまー!」
と大きな声を上げ、すると奥から人がわらわらと出てきて……
「たける!!」
一番最初に出てきた貫禄のあるおじいさんが、たけるくんを見つけて抱きしめて声も出ないでいる所に、ご両親が見つけた経緯と私達のことを説明している。
するとたけるくんを抱きしめているおじいさんの隣に立つ、たけるくんのおばあさんらしき人が潤んだ瞳でこちらを見つめ、ありがとうございますと丁寧に頭を下げられてしまった。
上がっていって欲しいと乞われ、今更断る事も出来ず、そのまま広い畳の部屋に通されて、少し待ってくださいね? と襖を閉めたのに漸く息をつくと
「藤堂……おまえ」
黒田にため息をつかれ
「文化祭の時もそうだが、ほんと、おまえと居ると普通のことが普通には終わらないよな」
鳴木に迄言われて
「え~、私のせい?」
「確かにトラブルではないけれど……凄い引きっぷりね」
莉緒にまで言われてしまい、ぐぬぬとなっていると襖の向こうに人の気配がして、先ほどのたけるくんの祖父母らしき人とご両親が入って来て、私達の正面に座る。
「孫の恩人をお待たせしてしまって申し訳無い、息子夫婦からも話は聞いたが……」
やはりたける君の祖父母である事が解り、こちらも自己紹介をしようと思ったけれど、口を開くまもなく
「本当にありがとうございました」
揃って頭を下げられて焦ってしまう
さらに、お祖母さんが私を見つめて
「貴方が声をかけて引き止めてくださったから……」
声を震わせるのに、そんな大したことをした訳でも無いんだけどなぁ、と思う。
私としては、あの子を引き止めただけで、周りを探しに行ってくれたのは鳴木と黒田と伊達君と莉緒で、松くんと皐ちゃんは一緖に遊んでくれて、一条はその間周囲を見ていてくれていて
「だから、私は実際しりとりをしていただけです」
そう言ったら、一家の方は目を丸くして、周りの友人一同は吹き出した。
「彼女も吃驚しているのでそんなに頭を下げないでください、お孫さんが無事でよかったです」
「おや? 君は、何処かで……」
「はい、一条の息子の和人です、増田会長ですよね? お久しぶりです」
「おお、一条くんの! 何だか随分と大きくなった」
「ありがとうございます、今日は友人と一緖に受験の祈願と初詣に来たのですが、こんなことになるとは、……伊達くんも一緖なんですよ」
そう行って伊達くんに視線を振ると
「お久しぶりです、伊達の息子、春臣です、この辺にお住まいと聞いてはいましたが驚きました」
「これは驚いた! 伊達君まで」
とっさに一条が対人スキルを発動してくれた為、私一人に集中して居た視線が緩まるのにほっとしたところで
「すまない付き合いのある方の息子さんまで一緖とは思わなかったので……ところで君たちは、中学生、なのかな?」
尋ねられて、私達も自己紹介する事が出来た。
「同じ学校の友達ではないのかね?」
「塾の友達なんです」
「なるほど、校区を越えての繋がりか! ……それは素晴らしい、あの子にもそんな友人が今後」
私達の関係にいたく感心してくれたようにうんうんと頷くのに
「父さん、それよりも……」
たける君のお父さんが困ったように声を掛けると
「おお、いかん、つい、な……丁度おやつの時間でもあることだし、実は向こうで新年のパーティーをやってるんだが、美味しいケーキもあるし、参加していってはくれないか?」
最初は威厳も貫禄も有り少し怖く見えたお祖父さんも、優しく微笑んでそう言って下さるのに、丁度何処かで休もうと思っていたこともあって、素直に受けることにした。
たけるくんのご両親は準備があると先に部屋を出ていき、少しして案内をしてくださると席を立つお祖父さん達の後を付いて行く。
先頭ではお祖父さんと一条と伊達君とで何やら盛り上がっており、莉緒と皐ちゃんはお祖母さんとにこやかに会話を交わすなか
「俺、マナーとか無理だぞ?」
その少し後ろを歩いていると、黒田が困ったよう耳打ちをしてきた
「ナイフやフォークの並ぶフランス料理とかじゃないんだから、音を立てて食べたり飲んだりしなければ大丈夫と思うよ?」
不安げな様子に、お誘いを受けたのはお茶だしそこまで厳密なマナーはないだろうと答えるも
「ずいぶん余裕だな、入り口で緊張してなかったか?」
ここに足を踏み入れた時の事を突っ込まれ、バレてたのかと肩をすくめる
「これだけのお家だし、どんな人か判らなかったし……でも、たけるくんをあれだけ大事にして、子供の私達にもしっかり頭を下げてくれたし」
だから、大丈夫じゃないかなって思ったの、って私もひそりと耳打ちをしたけれど
「まぁな? けどよ、一条と伊達の親と知り合いみてーだし、なんかすげー偉い人っぽくね? あいつらに迷惑は掛けたくねーんだよなぁ」
尚も黒田はそう眉を下げるのに、私もちょっと心配ではあるけども。
だからといってここで二人で立ち止まっていても仕方が無いと思うんだ……。
だから、自分にもそう言い聞かせるつもりで、
「大丈夫だよ、中学生に過度な期待はしないって」
そう言って、珍しく弱気な黒田の背中を叩いた。
祝! 100話です。
ここまでの付き合い、誠にありがとうございます。
予告通り何とか100話記念お礼更新頑張りました!
が、記念に拘って三視点盛り込みましたら、5000文字以上……。
暫く置いておく予定ですので、お時間の有るときにお読み頂ければと思います。
実は、4月から少し生活に変化が有り、ペースが今まで通りで居られるか心配なのですが、話自体は最後まで形は見えているので完結めざし頑張りますので、今後とも宜しくお願い致します。