ごめん、また、あいつらかと思って…
「……ぅ! おい、藤堂っ」
廊下を歩いていたら名前を呼ばれて肩に手を置かれて
「……っさい! いい加減にっ!!」
その手を振り払いながら振り向いて、息をのんだ
「鳴木!?」
「あ……、あぁ、悪い」
振り払った手を驚いたようにそのまま宙に彷徨わせたまま、驚いたように私を見ている様子に頭を抱えたい気分になった。
「あ~、ごめん、また、あいつらかと思って……ちょっと苛々してたから」
塾で私をからかってくることはあっても、それ以上の危害は加えてこないし、口が過ぎる時は追いかけ回す時もあるけれど、根本的に学校で私に何かと嫌がらせをしてくる奴らとは鳴木は違うと思って居たのに、苛立ちをぶつけてしまった事を申し訳なく思って謝ると
「いや、悪い、驚かせた、ちょっと伝言があって……」
流石に驚いたのかぎこちなく、けれどそう謝ってくる鳴木
「ううん、……え? 伝言? 私に?」
「あぁ、今日の塾、数学が国語になるって、昨夜電話があったんだ、講師の急病とかで電話しまくってるみたいで忙しそうだったから、お前には俺が伝えるって言ったんだ」
「あぁ、成る程、本当ごめん……わざわざ伝えてくれたのに私」
「別にいいけど、苛々って……」
「あ~、今日雪でしょ? 朝から雪玉ぶつけられるし、上履き履こうとしたら中に雪入ってて…、履く前に気がついたから靴下は濡れずに済んだけど、もうねぇ~」
そう言って濡れてしまった上履きの代わりに借りてきた、来客用スリッパに目をやると鳴木もつられたように私の足下を見て少し眉を顰めている。
「ちょっと酷くないか? 先生は?」
「言ってない」
「何で?」
「頼りになる先生が居ないとは言わないけど、担任とかには言っても仕方ない」
「そんなの言ってみないと判らないじゃ無いか、……言ってくる」
そう言って職員室へと歩き出そうとするのに、そんな行動に出るとは思わなかったから慌てながら、止めるのに仕方なく数日前の出来事を話す事にした。
「あのね、つい先日日直だったんだけどね、日誌出しに行ったら先生に貴方相変わらずなのねぇ~って、言われたんだ」
その日HRの前に前の授業の板書を消して居たら、案の定消した端から戸田だの坂本だのに邪魔をされて、文句を言いつつ手を動かしていたらチャイムより少し早く先生が入って来た。
流石に彼らも教師の前であからさまに邪魔することを続けはしなくて、自分の席に戻って行ったことにほっとしつつ手早く残りの文字を消していると
「女の子なんだからもう少し丁寧に」
なんて言われてしまった、……先生も何で私が急ぐことになったかは見ていたはずなのに、そこには一切触れないままで。
その日の日誌を提出に行ったら、そうやって男の子とばかりじゃなくもっと女の子と接しなさい、だから孤立するのよ? なんて言われた。
見事に明後日な意見だとは思うけれど、私の状況を見てそう思うのなら多分何を言っても無駄だと思ったし、そんな担任に何か口を出したら、関わった鳴木にまで迷惑をかけそうで。
だから私には関わらない方が良いとそう鳴木に告げた。
「あぁ、おまえの所の担任家庭科の松川か、確かにあいつ女に厳しいってか、斎藤や一条相手だと目に見えて態度違うしな……」
すると、鳴木は苦い顔をして、確かに聞く耳なさそうだあいつ、なんて続けるのに
「クラスの女子と同じ様なこと言ってくるんだよね、本当に嫌なら相手にしなければ良いとか、男の子と居る方が楽しい? とか」
思わず愚痴めいたことを言ってしまったら
「仮にも教師なのにそこまでかよ……」
怒ったような声に驚いて見ると、真っ直ぐに私を見て、何処かが痛いような表情で此方を見ているのに気がついて、驚いてしまった。
鳴木には全く関係ないことなのに、どうしてそんな表情をするんだろう?
声は怒っている様に感じたけれど、私を見て居る視線は少し辛そうで急にどうしたら良いか判らなくなる。
そして、関わりの無い彼にこんな話をしてそんな顔をさせてしまったことに苦い思いがこみ上げる。
よく考えれば止めてと言えば良かっただけの事かもしれない……。
「あ、や、でも味方になってくる先生も居るから大丈夫、変な話をしてごめんっ、伝言有り難う」
そう思ったら、それ以上どんな顔をしてそこに居たら良いかが判らなくなって、慌ててそう言って鳴木に背を向けた。
――ああ、やっぱり今日は厄日だ。
掛けてくる声の違いにも気が付かず、鳴木の手を乱暴に振り払ってしまった上に、言う気のなかった話までしてしまった、……そう思うと、どうにも気が塞いで。
そのまま歩きにくいスリッパをパタパタ言わせながら、あまり気にしないでくれるといいと思いつつ教室に向かった。